Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

小島政二郎 全集 第4巻6章について

小島政二郎さんの「食いしん坊」を読み始めたが、なかなか先に進みません。
理由は好きな作家が次々登場してきたり、気になるお店が沢山出てきたりして、色々調べたくなっちゃうから。

そういえば、どうしてこの全集を借りたか思い出せない。
たぶん「うで玉子」で、久喜久を調べている内に、瓢箪新道の三州屋、吉井勇、食通などの繋がりだったな…。
「うで玉子」も一段落し、で、折角借りてきたんだから読み始めたが、進まないんです、面白くて。

現在43ページ目。甘いものの話から、作者と芥川龍之介がよく行ったという上野「常盤」のお汁粉屋さんの話が
出て来て、古地図好きの発作が起きました。

 芥川さんはお汁粉が好きで、よく一緒に食べに行った。私が誘って喜ばれたのは、上野の常盤、柳橋の大和、芥川さんに誘われて行ったのが、日本橋の梅村、浅草の松村。中でも、芥川さんは常盤が大のお気に入りで、
「あそこはお汁粉屋の会席だね」
 そう言って、いろんな友達を連れて行かれたらしい。
 悔しいことに、大震災の時焼けて、それなり復活しなかった。上野公園の方から神田へ向かって行くと、松坂屋の方の側で、松坂屋とは横町を一つ隔てて、先隣と言ってもいいような位置にあった。電車通りではあったが、あすこは地形上道幅が広く、それに店構えがやや斜めにホンの少しばかり上野公園の方に向いていたせいか、座敷に通ると、静かだった。
 今のように乗物が激しくなかった時代のせいもあったろう。太い竹を二つに割って、それを透き間なく並べて、黒い棕櫚縄の結び目を見せた塀が高く往来に面していた。 その竹が、渋色に焼けていた。
 四角な柱が二本、その向かって右の柱に「しるこ、ときわ」とまずい字で書いた看板が掛かっている以外、何一つ人の目を引くようなものも出ていず、いつもシーンと静まり返っていた。
 今から思うと、よくあれで商いになったと思うくらい、お汁粉屋というよりもシモタヤ然としていた。 意気な建物とか、洒落たたたずまいとか、そんなところは微塵もなく、ただ手堅い普請であり、小さな庭の作りだったが、それでいて品があった。
小島政二郎著『食いしん坊』p.43より (底本:小島政二郎全集 第四巻)

なになに?
「上野公園から神田に向って、松坂屋側の、松坂屋とは横町を一つ隔てて先隣りの位置。電車通りで、道幅が広くて、店構えが上野公園に向いている。」
探そうじゃないの。これだけハッキリ書いてあれば、地図好きの恰好の獲物。


まず左の明治時代の地図と現在を見比べて 地図を回転させています。右が北。

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台東区上野3丁目17 宮崎ビルがあるあたりじゃないかしら。
断定は出来ないけど…。↓
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贔屓の店という割には、常盤の店主と関わりを持たなかったのも興味深い。
ワタシなんかは、美味しい店=作り手 みたいな図式になり、ご店主のことが気になって仕方がないから。
その点、小島さんが男性だということと、それが普通なのかも知れないけど「大震災で店が復活しなかった」としか語っていない。
まあそうか。震災の混乱時だものね、突き止めようもないことは、たくさんあったのでしょうね。



今章ではまず、常盤のところで、ひっかかってしまいましたが、
この章の目玉はなんといっても芥川龍之介さんとのやりとりにあります。
芥川龍之介がお汁粉が好きで、小島さんと美味しい店を紹介しあっていたことや、芥川さんのお汁粉を食べる様子や、議論好きだがお茶目な様子が沢山紹介されています。

ことの始まりは 小島さんが、あるキッカケで「お汁粉を飲む」というのが口癖になり、それが久保田万太郎の耳に留まり、「お汁粉は飲むか食べるか」という動議が持ちだされ、それに芥川龍之介も参戦という流れなの(笑)。

 

参戦といっても、友達同士の遊びのやりとりみたいなもんで、皆して議論したり、雑誌に書いたりするのを楽しんでいたみたい。芥川さんと小島さんは、連れだっては、お汁粉の話から平安朝の話、砂糖の話、氷の話など、目についた物事から次々に論じあっていたみたい。

永井荷風の江戸賛美論なんか、論になっていやしない。(中略)君の平安賛美論も同じことだ。久保田君の議論にもそういうところがある。三田の伝統かね」とチクリと指すのが(芥川さんの)好んで使った論法だった。しかし、この場合でも、意地の悪さなど微塵も感じさせず、会話の面白さに誘い出された。

 

そんな様子が、美味しい食べ物の話と一緒に満載で、芥川さんを始め久保田万太郎、里見弴、久米正夫などなど、同年代に生きた作家たちとのつき合いが生き生きと語られていく。そこには有名な大作家が見せる素顔があったりしてね。

そんな本ですもん、第二、第三と刊行されているわけで、人気の秘訣は、食べ物の話を通した人との交流にあると思います。そして小島さんの人に対する優しさが、読んでいて本当に気持ちよくさせてもらえます。

 「食いしん坊」

まだまだ第一巻の50ページまでで留まってます。

多分この先も、あっちにフラフラこっちにフラリと倚り道しながら読み進むことになりそうで、廉価な古書 ( 全集の4巻 ) を購入する気を起こしてますが、 さて、読了は何年先になることやら…。

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小島政二郎全集、普通の単行本 ( B6判 128×182 ) より一回り大きい菊判 ( 150×220 ) なのが嬉しい。

 

食いしん坊 (河出文庫)

食いしん坊 (河出文庫)