ジーナ・ローランズ主演「オープニング・ナイト」を観ました。
物語は、舞台女優マートル ( ジーナ・ローランズ ) が気心のおけるスタッフ・キャストとともに
新作「第二の女」に取り組んでいくという話で、38年も前の作品です。
タイトル「オープニング・ナイト」は、ブロードウェイの「初日」という意味かと思われますが、
アメリカでは、ブロードウェイの初日の前に地方公演にかけるんですかね。
映画は、そんな地方公演の本番らしきところから始まるのです。
舞台の袖で、女優マートルが出番を待っています。
マートルの傍らには、dresser ( 衣装係 ) のケリー ( ルイーズ・フィッチ ) と、
prop man ( 小道具係 ) のジミー ( ジョン・P・フィネガン ) が付き添っています。
ジミー「飲みますか?」
彼が手渡したのは、お酒の瓶。
「えっ、袖で飲んじゃうの?」と驚く幕開き。
マートル、この作品にどうも乗ってない様子が伺える。
ジミー、楽屋でもお酒の瓶を渡してる。。。
舞台がはねて、楽屋を出るとサインを求める客でごった返している。
群がるファンをかき分けて、マートルに抱きつく熱狂的な少女が。。
少女は、「アイラブユー」を繰り返しながらマートルの車にすがりつく。
「あの子、ちょっと変よ」
発車する車を追いかける少女は、
対向車にはねられ、
死んでしまう。
地方公演の宿。マートルの部屋。
少女の死でショックを受けたマートルは、食事ものどを通らない。
演出家のマニー ( ベン・ギャザラ ) は、妻ドロシー ( ゾーラ・ランパート ) を旅公演に同行させているのだが。
マートルの電話に悩まされている。
マニーは妻の前で「愛している」というセリフを強要される。
稽古で、問題勃発。
マートルは、夫役のモーリス ( ジョン・カサヴェテス ) にぶたれるシーンを
断固拒否するのだった。
理由は、殴られるのが屈辱的だから。
稽古は中断。
再開したものの、突然笑い出すマートルに
脚本家サラ ( ジョーン・ブロンデル ) の怒声が飛ぶ。
何かおかしい?
ごめんなさい
おかしな台詞でも?
役が理解できないの。
うまく台詞が言えるよう、祈りたい気持ちよ。
役がつかめるように、何とかして・・・失われていく感じ、現実感が・・・
現実感が。夢を見てるみたい。自分じゃないみたい。
あなたが演じてる女性は、あなたや私のように無力なの。
武器もないわ。彼女は恋をしたがってる、でも・・・
もう遅いの、それだけのことよ。
その気持ち、わかるわね?
あなたは幾つ?
若くはないわ、判るはずよ。
この芝居に足りないものは何か言ってみて。
・・・希望
新作のテーマを巡って脚本家と女優が揉めていたのだった。
苦悩するマートル。
すると楽屋の鏡越しに死んだ少女ナンシー ( ローラ・ジョンソン ) が。。。
ナンシーを見て、微笑むマートル
交わしあう目と 目。
楽屋に来ていたサラの話もそっちのけ、マートルはナンシーの幻影を追う。
翌日、マートルは少女の葬儀を知る。
少女の家に行くも、
遺族から冷たい言葉を浴びせられる
夜公演に向けて準備
乗り気になれないのか、何とか1場は勤め終えたけれど。。。
次の場の早変わりをして
舞台に立つが、
問題の殴られるシーンで、
立ち上がらないマートルに、スタッフは幕を下ろすしかない。
再び 脚本家サラと対決。
ちょっと興味深いので台詞を書きます。
サラ「本当は幾つなの? 答えてもらうわよ、幾つなの? 私は65歳よ、あなたは?
自分の年齢も私の芝居も受け入れられないのね。」
マートル「受け入れるわ。」
サラ「脚本も?」
マートル「聞いてサラ。作家は皆、自分のことを書くわ。あなたは「老い」を書いた。
私は老いてない。」
サラ「あなたは幾つ?」
マートル「老け役を演じるのは、私には重要な問題なの。今さら十代に幻影はないわ。
でもバージニアは若々しい肉体をしてる。私は若くはないけど生理は上がってない。
おばあちゃんには早いわ、判るでしょ。これで成功すれば、役がせばめられる。」
サラ「どんな風に?」
マートル「役にはまれば、観客は思い込む。」
サラ「どう思うの?」
マートル「もう年だと、そうよ 年よ。」
サラ「役を降りる?」
マートル「いいえ。年齢に関係なく演じる方法を摸索してるの。年齢が何よ、下らない。何の意味もないわ。
私には夫も家族もない。芝居のためよ。演じてるとゾクゾクする。
すまして客席に座っている観客の心に、私の演じる人物が染み通っていくの。
「やった!」と思うわ。」
サラ「年を取った人間は鈍感だと言うの?」
マートル「そうじゃない。」
サラ「じゃ何?」
マートル「18歳の頃は何でもできた。ピリピリして何にでもすぐ感動できたわ。
今は。。まだ早すぎるの。もっと先になって演じる芝居よ。」
サラ「それで降りるの?」
マートル「死んだ娘がいる。事故で死んだ娘を覚えてるわね。彼女は・・・解放されてて、
本当に・・感情の高まりの頂点にいるのよ。忘れられない。」
サラ「死んだ娘が「いる」と言ったわね。どういう意味?今、ここにいるの?
この部屋に?」
どこまでも平行線の議論。
脚本家は、女優の意図することが呑み込めず、ただ「いくつなの」「降りるの」を繰り返す。
“ 今の私にこの作品をやる意味が見出せない ” と言うマートルの、その論理は充分理解できる。
でも。そんな話は、作品を受ける時にするものじゃないの?
何を、今頃と思う。。。
演出家のマニーもプロデューサーのデヴィッド ( ポール・スチュワート ) も、
主演女優にここで降板されたらたまらないから。
必死でご機嫌 (?) を、とる。。
マニー「あの芝居は何だ? 政治的な寓話は? サラの欲求不満の妄想か?
あの芝居もヒロインも俺にはわからん。妻に言ったよ、俺にはわからんと。
理解できない! 」
マートル「マニー バージニアはろくでなしでさえないの。悪女? 違うわ。
何でもないの。もし皆の期待どおり、年増の人妻を演じたら、私は終りよ。
彼女が幾つかと皆が噂する。年齢が何よ! 勝つか負けるかそれが知りたい。
嫌らしい疑問?尋ねるこっちが恥ずかしいわ。」
な~んだ、演出家もこの作品のこと理解できてなかったんだ。(笑)
どうやら彼は泊っていくつもり?
一方マートルは、バスルームで
ナンシーと話をしているのです。
しかしマートルにはナンシーの姿は
勿論、見えない。
やっぱりお泊りだった。
奥さんとステージドアでバッタリ。気まずいわよね、これは。
ご機嫌をとられた態のマートルだが。。。
舞台の上では、またしても
アドリブ連発、勝手ざんまい。
プロデューサーは大慌てだし。
演出家は幕を下ろそうと必死。
しかしみんな、看板女優にはかなわない。
事情を知らぬ観客は、半数が絶賛したらしい。
だが楽屋会議の結果、サラの提案で、降霊術師にかかることになる。
何だか腺病質な助手の娘がいい味出してて。。
降霊術師はナンシーが悪い霊だから除霊しようとするんだけど、
マートルは拒絶。
彼女はナンシーは自分がちゃんとコントロールしてると言い張るの。
「娘の事を誤解しないで。私自身でコントロールできるの。ただの想像の産物よ。
どう言えばいいか。子供の頃空想のお友達と遊んだことはない? 存在しないのよ。」
降霊術師のところから帰宅したマートルだったが。。
ナンシーの霊が凶暴化
除霊されそうになったからかな。。。
でも、何だかマートルの方が強い?
マートルは、サラの部屋に避難することにするんだけど、、、
サラは、マートルが襲われるところを見ることになる。
わっオバチャマ、つけまして寝てたの?
流石のマートルもやつぱり除霊する気になったようで、
昨日と別の降霊術師を紹介される。
で今度はこっちの人。ジーナ・ローランズの実母らしい。
カサヴェテス監督の作品には身内がよく出るんだって www
で。じゃあ、除霊ねっていう時に
現れましたナンシーが。
すっごい悪い顔してる。
おおおっ怖っていう顔なんだけど、やっぱりマートルの方が強いのです。
ナンシーはマートルにぼっこぼこにされちゃって、
死んでしまうのであります。
除霊師さんから見ると、
マートルがひとりで暴れてるようにしか見えない。
やっぱり。本人が言うように、マートルはナンシーをコントロールできてたってことかしら。
晴れ晴れとした様子でマートルが向かうのは、相手役モーリスのアパートメント。
そこのドアマンとの会話が、意味深なの。
マートル 「ウォーリー、私よ。」
ウォーリー「これは! どこのオバさんかと思いましたよ。おかえりなさい。」
マートル 「彼は上?」
ウォーリー「30分ほど前に、お戻りです。」
マートル 「自分で歩いて?」
ウォーリー「 ( 無言でうなづく ) 」
マートル 「会いたかったわ。」
ウォーリー「私もです。」
旦那役の俳優モーリスは、ただの仕事仲間かと思っていたけど、マートルとは男女の関係なのか。。
それで、このアパートメントが、2人の愛の巣なんでしょうか。。
・・・それにしてもこのドアマンとマートルのシーン、他とは違う空気が漂っている。
ちょっと気になって調べてみたら、このドアマンも身内で、ジーナ・ローランズの兄弟らしいのです。
とうとうブロードウェイの初日がやってきました。
でもマートルは、表で愚図愚図。
「開演時間までに帰る」と伝言を残して消えてしまったらしく、
スタッフは大慌て。
初日ともなると、ドレスなのね。
えっ?
あの人 コロンボさん?
ピーター・フォークは、ジーナ・ローランズと共演していますから。
演出家は幕の間から観客をみる。
満員御礼、お客さん、いまかいまかと待っています。
楽屋では、
主演女優がいないので、中止なの?
マートル帰ってきました。
でも。
ぐでんぐでん
あっちに転がりこっちに転がり、歩けない。。
寄ってたかってメイクされ
舞台に立たされるんだけど。。。
ヨロヨロしながらも、台詞言ってる。
演出家は一杯ひっかけないとやってられない。
袖に入ると、捕まえられた宇宙人状態
でも。例のprop manとdresserは言うの
こんなに泥酔して台詞が言える俳優はあなたが初めてです。
問題のシーン
舞台では、マートルとモーリスの即興劇が続く。
前夜、モーリスのアパートに行ったのは、この即興劇の打合せだったのか。
客席はどっかんどっかん。
そりゃ見てられないわ、自分の戯曲が台無しだもの。
悔しくてたばこの火もつかない。。。
舞台では、2人の創作劇が続く。
でも演出家のこの笑顔。妻も演出家も、うけてる?
場内拍手喝さいです。
舞台上での乾杯には、
ピーター・フォークの顔も。。。
こけにされた ( はず ) の演出家も脚本家もプロデューサーも笑ってます。
演出家の妻と抱き合います。でタイトルロール。。。
えっえっえっ? いいのかこれで (*_*) の楽しい映画でした。
映画の宣伝では、「ショウビズ界に生きる女優の愛と孤独を、万雷の拍手で包み込む」とありまして、
「自分の目の前で死んだ少女の幻影を見るようになり、次第に精神が錯乱していく」という解説もありました。
でも、ワタシにはそう感じられなかった。
シリアスではなく、むしろコメディーにしか思えない。
他にも「そうなの~?」と思うシーンが沢山あって、
そのひとつは 煙草 について、それから 演劇ファン についてでした。
たばこって。。。 |
今では煙草を吸うシーンがめっきりなくなりましたが、昔はこんなにも喫煙が普通だったのかと驚きます。
待ってる間もぷかぷか。子どもの前でも。。。
舞台でもベッドでも、彼らの手には必ず煙草が。。。
煙草といえば、prop manの面白いシーンがありました。
出のギリギリまでマートルは煙草を吸ってるんですが、
いざ舞台に出ると言う時にジミーは彼女の煙草をとって、自分が咥える。
気心が知れてずっと一緒に仕事をしている『間』のようなものが表現されてて面白かった。この映画で、凄いと思ったキャスティングは、この衣装係と小道具係でした。
演劇ファンって。。。 |
ステージドアに殺到するファンのシーンですが、
何だか意外に感じました。
歌手の出待ちとか、映画スターの出待ちだったら、こんな感じでしょうが、
演劇の楽屋にそんなに押し寄せるものかしら。。。
でも。そういえばこんなシーンがありました。
楽屋口から出て来たサラ ( 劇作家 ) がサインを求められられるシーン。
ファンのおじさんに「あなたが出た作品、全部みました」って言われるます。
サラはそれをプロデューサーに笑って言う。
「ねぇデヴィッド、この方 私の出演したもの全部みたんですって」
そうだったのか。
この映画では、演劇の観客なんてミーハーで、アドリブかどうかを見分ける目もないと、皮肉ってるのかな。
酒飲みながら、泥酔しながらでも、舞台はつとまるものだと?
ジーナ・ローランズは流石、舞台映えのする演技で力量も魅力もあって素晴らしい
けれど、
カサヴェデス監督の演技は酷い。映像ならいいけれど、舞台俳優役はバッテン。
だってタクト振ってるもの。。。
演劇ファンといたしましては、演劇を小馬鹿にされたようなストーリーに、軽い怒りを感じた次第。
ここまでコケにされるのを見るのは逆に、面白かったけれど。(笑)