Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

「明治神宮 不思議の森 ~100年の大実験~」

 

NHKスペシャルで興味深い番組をやっていました。

「明治神宮 不思議の森 ~100年の大実験~」というタイトルでした。

 

明治神宮といえば、日本で一番初詣の参拝者が多いところで、

我が家で私も弟も七五三は明治神宮でしたし、親しみ深い場所でした。

以下は、その内容を起こしたものです。

 

明治神宮は1920年、創建されました。

その神宮の森は、自然の森ではなくて100年前、

荒野に作られた人工の森だったのです。

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しかも、ただの人工の森ではありません。

その秘密について記された書物が大切に保管されています。

 

「明治神宮 御境内 林苑計画」

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100年前に書かれた森づくりの計画書。

そこには理想とする森の記述があります。

永久ニ荘厳神聖ナル林相

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 永遠に続く森 という意味です。

 

明治神宮が目指した森は、人が手をかけなくても永遠に続く森。

それははるか昔、この地に広がっていたはずの原生林でした。林

苑計画書には、永遠の森を作るための驚きの作戦が記されています。

 

これは森の未来予想図です。

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三角形は針葉樹。

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もこもことした形は、常緑広葉樹と呼ばれる木。

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四つの柄は、植えた直後、50年後、100年後、そして150年後の森の姿です。

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今、森の始まりから丁度100年。

一体どんな森になっているのか、実験の結果を解き明かそうと、

植物や動物の実験学者が明治神宮に集結しました。

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調査に加わったメンバーは総勢146人。

明治神宮が鎮座100年を記念して、今回特別に神域の森の調査が

許可されたのです。

 

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黙々と木の幹にメジャーをあてている人がいます。樹木調査班です。

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何万本あるかわからない境内の木。

その、種類と太さ、高さ、場所を一本一本記録していきます。

すべての木の測定が終わるまでには、2年もかかるといいます。

100年前に始まった実験の成否を認定できる決定的な調査です。

 

こちらは昆虫班。

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人工の森に、100年でどんな生態系が出来ているのか。

生物学者にとって、またとない調査の機会です。

 

木に何かをぶつけているのは、蛾の研究者。

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「これはビールと、黒砂糖と、焼酎と、それをこう混ぜて」

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樹液に見立てた餌で、蛾を引き寄せる作戦です。

 

 

まるでアマゾンを思わせるような風景。

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森の一角にある池へと漕ぎ出したのは、水生生物班。

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哺乳類班は、夜行性の生き物を調査するために、

センサーカメラを仕掛けています。

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日没。

本殿の扉が閉められます。

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境内は、夜間、立入禁止。

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センサーカメラが何をを捕えました。

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たぬきです。どうやら家族のようです。

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今回、複数の家族が住んでいることが、わかりました。

 

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夜があけると、たぬきが森から出てきました。

やって来たのは、湧き水のある場所。

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おいしい湧き水を一口。

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時を遡った大正9年。

1920年、明治神宮は創建されました。

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明治天皇と、妃である昭憲皇太后を祀るために、新たに造られたのです。

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この時、一緒に計画されたのが鎮守の森です。
荒地を神社に相応しい森に代える。

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難題に、3人の学者が挑戦します。

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日本発の林学博士、公園の父と呼ばれる本多静六。
その弟子の本郷高徳と上原敬二。

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林苑計画書を作ったのは、この3人。

彼らが目指したのは、永遠の森。

元々この地にあった太古の原生林でした。

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数千年前、人の手が加わる前の東京には、一年中葉を落とすことのない

椎や樫などの常緑広葉樹の森が広がっていました。

うっそうとした原生林の中では、どんぐりから常に若い木が育ち、

森は途絶えることなく世代交代を繰り返していました。

彼らはそんな永遠に続く森を理想としたのです。

 

 

ところが。
突然、反対者が表れます。
なんと、時の総理大臣、大隈重信。

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「明治神宮に藪のような森を作るのはまことによろしくない。
 ふさわしいのは、伊勢や日光のような、杉林であろう。杉にしたまえ。」


大隈は明治神宮には、荘厳な杉こそがふさわしいと本多たちを一喝します。

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「総理、我々が計画している森は、藪ではありません。

 東京に一番適した広葉樹の森です。

 東京の土地には、杉は向いていません。」

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「ばかもん。不可能を可能にするのが学問ではないか」

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荒地で養分が少なく、水も十分ではないこの場所には、杉は向かない。
本多は化学的なデータを使って、反論を行いました。

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「数百年、数千年続いていく森は、常緑の広葉樹の森しかありません。

 それでも杉林にしろと言われるのであれば、もしうまくいかなかった時には、

 総理の責任ですぞ。」

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最後は時の総理を脅すような言葉まで使って、

本多はとうとう広葉樹の森を認めさせたといいます。

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丁度100年前の1915年、森作りがスタートします。
この年、東京駅が完成。
東京は都市として発展し始めていました。
本多たちは森に必要な木を選び出し、募集します。
すると、明治神宮に木を献上したい人たちが我も我もと手をあげました。

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原木は、日本全国から10万本に達します。

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作業に参加したいと、全国から青年団が集結。その数、のべ11万人。
明治神宮の森作りは、当時のプロジェクトでした。

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原宿駅から専用の線路がひかれ、

最盛期には一日30両もの貨物列車が樹木や資材を届けたといいます。

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さあ。いよいよ荒地に木を植えはじめます。

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3人には秘策がありました。

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広葉樹の森をめざしたはずが、以外にも植えた木の半分近くは針葉樹。
まず、やせた土地に強い松などの針葉樹を植え、森の基本的な形を作ります。

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その間に広葉樹を植えていきます。
この配置を事細かく指示しました。

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そこにはどんな計算があったのか、林苑計画書を詳しく見てみましょう。
最初の配置は、自然界で起こる樹木の競走を考えたものでした。

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大きな針葉樹の間に、小さな広葉樹を植えます。

その後はもう、人は何も手を加えません。

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50年、100年たつうちに、木々の競走が自然に起こります。

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すると成長の早い広葉樹におされ、針葉樹が消えていきます。
最終的に常緑広葉樹が主役の、原生林のような森になると予言しました。

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調査の結果、

東京では見られなくなった生き物も数多くい見つかりました。
水生生物班が見つけたのは、メダカです。 ( ミナミメダカ )
かつてはどこにでもいた魚ですが、今や絶滅危惧種です。
元々いる魚を食べてしまう、外来種のブラックバスなどはいませんでした。

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一面に咲くカントウタンポポ。日本固有の種類です。

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今では外来種の西洋タンポポにほとんど駆逐されてしまっています。

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森が壁になって西洋タンポポの種子が外から侵入してくるのを

防いでいました。

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この100年、東京は急激に都市化。

その中で明治神宮の森は生き物を守るという当初想定していなかった

役割を担っていたのです。

 

 

2年間かけて、全ての木を調べあげる樹木調査班。

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調査が進むにつれ、研究者が予想していなかったことが見えてきました。
実は樹木調査は、今回が初めてではありません。

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本多の意志をつぐ研究者たちによって、過去3回行われてきました。
最初に植えられた10万本のうち、直系10㎝以上の木は、およそ26,000本ありました。

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10年後は順調に増えていましたが、50年後にはその3/4に減っていました。
それが今回、さらに少なくなっているようなのです。
はたして、自然に委ねられた森づくりの大実験は、うまくいっているのでしょうか。

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森が自然の営みを続けるために、

あえてひとつだけ、人が手伝っていることがあります。

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参道の落ち葉を掃く人達。

明治神宮では、親しみをこめて「掃き屋さん」と呼ばれています。

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集めた落ち葉は捨てることなくすべて森の中へと返します。

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この管理法は、林苑計画書に細かく記されています。
「落葉ハ一見無用ノ廃物タル観アリト雖モ
 落葉ヲ採集除去スルコトナケレハ樹木ハ常ニ栄養足リ」


参道の落ち葉を決して無駄にせず、自然のサイクルへと返せば、

樹木の栄養になるということです。

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明治神宮では100年近く、その決まりを守り、受け継いできました。
せっせと落ち葉を返しつづけた森の土。今どうなっているのでしょうか。


それを調べるのが土壌生物班。率いるのは青木淳一博士です。
落ち葉の下には、体長1㎜にも満たない小さな生き物たちが無数にいます。
こうした生物は、落ち葉を分解して土に返すという大切な役割を担っています。

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100年前、荒地だった台地は、今豊かな土壌となって森を支えています。

カブトムシも幼虫時代、くさった落ち葉をたっぷり食べて、

大きく成長し、夏に大発生するのです。

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森の中には倒れた朽ちかけた木がそのまま残されています。
倒木もやがて土に返り栄養となります。木が倒れた後には、陽の光が差し込みます。
そして新しい世代の木木が芽生えていきます。
これこそ100年前に設計された、森の自然な世代交代です。
荒地から100年。森はどこまで成長したのか。

その大きな変化を教えてくれる生き物がいます。

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こちらは鳥の調査班。
明治神宮では60年前から、バードウォッチングが行われています。
1947年から毎月のように、参道で観察会が開かれ、その記録が残されています。

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「ほんとシロハラが多くなったなあ」

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長年の観察によって、鳥の興味深い変化が浮かび上がってきました。
これはキツツキの仲間、コゲラ。森林性の鳥です。

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1960年代までは、明治神宮には全くいませんでした。
ところが80年代から次第に増え、子育てまでするようになりました。

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ところが80年代から次第に増え、子育てまでするようになりました。
調査でわかった、鳥の代表的な変化です。
木がまばらな林に住む、キジやホオジロは80年代を境に姿を消し、
代わりに現れたのが、森林性のコゲラともうひとつ、ある鳥です。

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その鳥は森の王者と呼ばれます。オオタカです。

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3,000種にのぼるこの森の頂点に君臨しています。
80年代半ばから、観察されはじめ、2007年以降は毎年のように子

育てをするようになりました。
20mを越す巨木に巣を作ります。去年5月にも雛が誕生。

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いよいよ樹木調査の結果が出ました。
100年前の大実験の答えが明らかになります。
今回計測した直径10㎝以上の樹木を、地図上に再現します。

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赤が針葉樹。濃い緑が常緑広葉樹です。
100年前半分あった針葉樹は、一割以下に激減。
替りに常緑広葉樹が2/3を占めるようになりました。
気になっていた樹木の数は、100年前からおよそ半分に減っていました。

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しかし過去の調査では一本もなかった、直径1mを越す常緑広葉樹の大木が、250本近くも見つかりました。
更に嬉しい発見があります。

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実生、つまり木の赤ちゃんが40万本も記録されました。
本多たちの予想通り、自然に世代交代できる常緑広葉樹の森となっていたのです。

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3人の天才たちの緻密な計算通りすすんだように見える大実験。

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広葉樹は20mを超える巨木へと成長。それを待っていたかのようにオオタカが森にやってきます。
はじまりからおよそ100年、早くも理想とした森へ到達していました。

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それは150年という本多たちの予想より、50年ま早い完成でした。
自然の力が天才たちの予想を上回ったのです。

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100年前、ここは荒野でした。

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もし本多たちが今の森を見ることが出来たなら、何を思うでしょうか。
100年の時を経て、東京は世界有数の大都市へと成長し、

人が作り出した杜は逆に原始へとかえっていきました。
大都会の真中の、太古の森。

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こうして世界のどこにもない、不思議な森が出来上がったのです。

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