Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

『9番目の音を探して』 著:大江千里

 

先日、テレビで小泉今日子さんがニューヨークを旅している番組を見ました。

小泉さんのファンなんですの。

で。

その『小泉今日子50歳ニューヨーク』という番組で、

小泉さんは、シンガーソングライターの大江千里さんと再会を果たしています。

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大江千里さんと小泉さんは、『パパとなっちゃん』というドラマで共演してました。

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( おお。バブルのファッションじゃ w )

 

25年ぶりの再会ということで、

千里さんは小泉さんの「あなたに会えてよかった」をジャズアレンジで演奏します。

 

弾き終えた千里さんと小泉さんのハグ。

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「なんかね、今日子ちゃんが来るまではブワァーっと弾いてたんだけど、いきなりなんか今日子ちゃんいる前で弾いてると、音がどんどん無くなって、片手で最後弾いてましたね。不思議。音楽こういうのが不思議ですね」

 

 

大江千里。55歳。

今ではニューヨークでジャズピアニストとして活躍しているんだそうですね。

ジャズピアノのことは、よくわからないのですが、

「あなたに会えてよかった」がジャズアレンジになると、何だか別の曲のように聞こえ、しみるような味わいになるのを不思議な感覚で聞きました。

 

そんな千里さんのジャズ留学が本になったものを、現在読んでいます。

『9番目の音を探して』

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MOURI が「面白かったよ、読んでみる?」と本棚から出してくれたもの。

かなりの厚さです。

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本文も二段組。読み応えありそう。。。

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今、半分くらい読み進んだところですが、面白いです。

 

繰り返しますが、ジャズのことは全然わからない。

ジャズプレイヤーの名前や、有名が楽曲がポンポン飛び出すので面食らうことも多いけれど、

まるで自分が留学をしているような気分になれる本です。

 

47歳の千里さんが、日本での活動を全て休止し、愛犬「ぴ」を連れて渡米。

20も年の離れた若者たちと一緒に、4年半に亘るニュースクール大学 ( ジャズの学校 ) に通う千里さんの生活が生き生きと綴られています。

 

時差ボケで、レベル分けオリエンテーションテストの2日目に寝坊。

いきなりピンチに陥った話や。

 

周りの生徒とのセッションであきらかに皆との演奏の輪から逸脱してしまって、世界各国からジャズを習いに来ている面々と自分の力量の差をハッキリ突きつけられてしまったり。

 

思うように英語が通じなかったりする苦労談も書かれています。

 

それから言語の問題。英語が母国語ではない国から来ている人たちのアクセントはわかりずらいらしく、僕の場合は、日本人にありがちな「もごもご顎を使って不鮮明に喋る癖」があるので、ヨーロッパなんかから来ている「英語と同じ文法で喋る」生徒たちからすると、言いたい意図がなかなか伝わってないらしく、何度も方々から「Sorry?」と聞き返される。

           (中略)

むしろJapanish ( 日本語発音の英語 ) で、ハキハキまくしたてる、

たとえば「Sorry」を「そーりー。そーりー。大平総理ー」的な? 

いかにも日本人ぽい英語の発音で「すぱっ」と言った方が伝わった

 ( A♭ ジャズの学校の異邦人 p.30 )  から

  

練習のしすぎで腕に傷みやしびれが出てしまい、お医者さんから

「神経がねじれ、部分的に伸び切ったり、断絶したりしている可能性がいるので、通院して徐々に元の状態にしていきまょう。ピアノは弾いちゃダメですよ」

と言われ焦る話には、読んでいるこちらまで胸が痛くなります。

 

 「Senri!  Do you mind if ask you how old you are?

  千里がいつくなのか聞いてもいい?」

クラスの最中に、隣に座ったアマリ―が真面目な顔で聞いてきた。アダム、モルガン、マックス、アリシア、テップ、ジェフ、イザベル……そこにいるクラス全員の目が、いきなりキラキラし始めて、視線が僕に突き刺さる。誰しもがなんとなくきになはなっていたのかもしれない。

             (中略)

「I am 47 years old man!! 僕は47歳なんだよ!!」

質問をしたアマリ―が失笑して、

「No way. You are a liar そんなのありえない。君は嘘つきだね」と言い放った。

他の生徒たちもしばらくは「30だ」「28だ」「うちのおじさんは35だけど同じくらいに見える」などと口々に意見を飛ばした。

 ( A♭ ジャズの学校の異邦人 p.32 ) から

 

そうなんでしょうね、日本人は若く見えるというもの。

しかもポップスをずっとやっていた、あの、シンガーソングライター大江千里ですもの。

 

しかし現実は難しい。

世界中から集まった優秀なジャスメンたちの中で、千里さんは幾度も劣等感にさいなまれます。

 

雪道を数ブロック歩くだけけで、何度足元にため息を落したことだろう。まるでヘンゼルとグレーテルのパン屑のように、ため息は部屋から歩道に立ち止まる僕の足元までの数ブロックの距離に、無数のたよりない点を残す。それを今しがた振り出した雪がみるみるうちに覆っていく。

 ( A♭ ジャズの学校の異邦人 p.29) から

 

先生からは、こんな指摘までされてしまう。

「あなたはプレゼンテーションが非常に優れた人だと思う。こうやって弾いている時も、常にオーディエンスを意識しているでしょう。それが『あなたの世界』を強く作りだしていることはわかるわ。でも一回それをやめてみましょうか?」

 無心に、ストイックに、ジャズの基本のリズムの中にだけ自分がいられるようになるまで、いっさい眼はそらさないこと、先生はそう提案したのだ。

 僕はこの日から自分の練習する姿をデジカメのビデオモードで録画し、家で復習した。自分の姿を観るのはきつい。もっとこうしたほうがいい、ああ動いた方がインパクトがある、と観察する自分に「はっ」と我に返った。

            (中略)

 「他人に観られている」意識から遠のこう。

 ( A♭ ジャズに焦りは禁じ手か? p.42 ) から

 

千里さんの文章は優しいです。彼の書いた曲と同じように。

決して背伸びをせず、偉ぶらず、いつも真摯に挑戦する様が、とても魅力的に伝わってきます。

そんな千里さんは言います。

 

今20歳の同級生たちと同じ暮らしをして、アメリカの食べ物を食べて少し緩んだお腹に老眼、白髪もうんと増えたけれど、もしかして人生はここからじゃないか。

時間を取り戻そう。自分の音楽に向かうなにかが見え始めたような気がした。でも、それを摑もうとするとすぐに消えてしまう。しかし今はそれでもいい。目の焦点がぼやけて不服を言うよりも、別の目が開こうとしていることを幸せに思おう。

亀はのろくても、亀にはのろいか速いかなんて思いはない。

いつか自分自身のゴールが切れればそれでいい。そのゴールは決して速弾きピアニストではない。あと何年 人生があるのかわからないが、これからは自分自身に近づくことだけをやり続けよう。

 ( A♭ ニューヨークにいる亀 p.106 ) から

 

「あと何年 人生があるのかわからないが、
 これからは自分自身に近づくことだけをやり続けよう」

なんて素敵な言葉かしら。

キョンキョンと一緒にテレビ画面に映し出された大江千里さんの顔はキラキラと輝いていました。

そしてこの本の中で奮闘する千里さんもまた、いつも前を見てキラキラ輝いているように感じます。