『天切り松 闇がたり』を読んで、久しぶりにキャスティング遊びの発作に襲われました。
登場人物が素晴らしく描かれている本を読むと、起こる発作です。
「あのシーンのあのセリフをこの役者さんに言わせてみたい」という衝動にかられてしまう。
人気小説なら尚さら「ええ~っ!!」という声も「私ならこの人がいい」というご意見もあるでしょう。
でも、ここはひとつ。
《私の思う天切り松の世界》ということでお許しを。
目細の安
( 抜け弁天の安吉 ) 本名 杉本安吉。
目細一家の題目。盗賊のイメージからはかけ離れた紳士。
「中抜き」の名人で、「目細の安に中抜きをかけられた」となればこれはめでたいと祝儀がとびかうほど江戸っ子に絶大な人気がある。
人気の原因は、技の見事さもあるが、義理を重んじ、損得ぬきで弱きを助ける、侠気にしびれるから。
仕立て屋一門2000人の手下を束ねる銀次親分が明治42年の大検挙で捕まったあと、
官憲と同門の親分衆から銀次の跡目と推されるが、それを断り、手下5人を連れて、銀次を裏切った一門と決別する。唯一最後まで銀次親分への恩を守り通した男。
目細の安 1 渡瀬恒彦さん
渡瀬恒彦さんは、去年の4月にお亡くなりになられています。
でも私にとって目細の安といえばこの方をおいて他にないのです。
勿論渡瀬さんの実年齢では老けすぎでしょう。
しかし松蔵が親のように慕う安吉親分は、この位たっぷりした大人の男でなければ成立しないように思うのです。
もう一つ、第5巻第2夜「月光価千金」には、9歳で磯子の孤児院を抜け出し、必死でその日その日を生きてきたおこんのエピソードがありました。東海道本線の車中で盗みを働いたおこんが逃げ込んだのが安吉親分のインバネスの中でした。小さなおこんにとって、渡瀬さんの温かくて大きな体と優しさが、親のように感じられたのではないでしょうか。
目細の安 2 遠藤憲一
大好きな俳優さんです。
強面ですが、繊細なところもうまく表現できる名優さんですよね。
のちに推薦する松蔵役の彼との相性はバッチリです。
以前、彼と遠藤さんはドラマで親子役を共演していましたが最高でした。
彼と丁々発止とやり合うところがもう一度見たい。
※ もしも安吉さんでなければ、
安吉さんの親分である銀次さんも似合うなあ。
目細の安 3 松重豊
松重さんも素晴らしい俳優さんです。
遠藤憲一さんと同じく強面から繊細なところまで幅広く見せられる名優。
今この年代の俳優さんは素晴らしい人が多いので、迷ってしまいました。
それぞれ力はあるし、魅力的だしでねぇ。
振袖おこん
安吉一家の紅一点。
三十路手前の大年増。「ゲンノマエ」の達人。
おこんのキャスティングにははなはだ困りました。
ただ美人ならいいという訳でなく、迫力も必要だし、品格も感じられないといけない。
孤児あがりの掏摸ですから、普通に考えたら品格は必要なさそうに思われがちですが、
山形有朋元帥も竹久夢二も惚れた女です。
いい女というだけではなく、背筋の伸びた女で尚且つ、情に厚いところも必要ですものね。
おこん 1 中谷美紀
おこんには切れ長の目は必須。
狸顔ではなく、やはり狐顔でしょう。
加えて毒舌がポンポン出てくるような活舌の良い俳優でないといけません。
中谷美紀さんに鉄火なセリフ、大丈夫かわかりませんが、多分やってくれるハズ。
ビジュアル的には、
江戸前の着物も、モダンな洋装もバッチリとお見受けしましたが。
おこん 2 吉田羊
ちょっと意外なところですが、吉田洋さんはどうでしょう。
江戸前の粋な着こなしも、モガスタイルも、吉田洋さんで見たいと思いました。
演技力のある洋さんですから、
口は悪いが情の厚いおこんを好演してくれると思います。
おこん 3 篠原涼子
勘三郎さん主演のドラマでは、
寅弥が、松蔵と結婚させようとする娘役を好演していました。
最初にDVDのパッケージで篠原さんの名前を見た時、私は間違いなく《おこん役》だと思ったんですけれど。。。
3人の中で、おこんのセリフとして一番似合うのが篠原さんの声でした。
間違いなく鉄火なおこんを披露してくれるはず。
坊主の寅弥 ( 説教寅 )
安吉一家の若頭。気は荒いが情にもろい。タタキ ( 強盗 ) を稼業とする。
ドラマで寅弥を演じた六平直正さんもぴったりでした。
凄みがあって、貫禄があって、涙もろい役どころが似合うといえば、
六平さんと渡辺哲さんが、迷わず浮かびました。
六平直正さん 渡辺哲さん
でも、今回はもっともっと大泣きさせて貰えそうな怪優をノミネート。
寅弥 香川照之
この人に押し込み強盗されたら怖いだろうなあ。
この人の説教だったら胸をわしづかみにされるだろうなあ。
曲がったことが大嫌いで、情にもろい。
松蔵や、戦没者の遺児 勲をガシッと厳しく叱ってくれて、でも温かく思いやる寅弥の心根を存分に表現してくれる方でしょう。
寅弥の過去の戦争体験のエピソードも、寅弥の葛藤も香川さんなら一話主役で魅せてくれると思います。
黄不動の栄治
安吉一家。大江戸以来の夜盗の華「天切り」の使い手。
栄治 椎名桔平
ドラマでも椎名さんが配役されていました。
椎名さんの夜盗の装束が、屋根の上にひらりと舞い上がった時に、思わずゾクっとしました。
ぴかぴかのカシミアの外套と上等なボルサリーノも、ダグラス・フェアバンクスかゲーリー・クーパーばりのカッコよさも、椎名さんの栄治ならピッタリ。
嵯峨のお姫さまも惚れる色気を持ち合わせていますもの。
書生常
( 百面相の常次郎 ) 本名本多常次郎。
帝大性顔負けの頭脳を持ち、変幻自在の詐欺師。
常 1 オダギリジョー
帝大生の長袴も、皇太子も、宮家のお嬢様も、皇族出身の海軍提督も、どんな衣装も似合う七変化といえば、この人でしょう。
ドラマでは割愛された役でしたが、
オダギリさんをキャスティングしていたら、実演可能だったはず。
知性と繊細さを持ち合わせたカッコ良さは、来不動の栄治とは別の魅力がある。
天切り松の一家の厚みはこういう面々から来ていると思います。
帝国ホテルで紅茶を飲むオダギリ常、いいんじゃないでしょうか。
常 2 井浦新
知能犯が似合いそうなのは、井浦さん。
百面相は、顔に特徴がありすぎてもダメだと聞きました。
そういう意味では、井浦さんの雰囲気と面立ちはどのようにも変えられるように思います。
あっ、井浦さんが無個性だということじゃない。それが井浦さんの個性です。
常 3 中村倫也
この方、ご存知ですか?
今、芸能界で「カメレオン」と異名を持つ人気俳優。
『半分、青い! 』の正人君役をやった彼と、大和ハウス D-roomで上野樹里さんの旦那さん役の、あのサボテンを抱えた彼と同一人物だとは、何度見てもわかりません。
彼こそ正真正銘の七変化。俳優として他のメンバーより若いけれど、実年齢でいえば書生常にはピッタリなのではないでしょうか。
そして主役の天切り松は、この人しかいないでしょう。
どどん!!!
菅田将暉
ハートも、パワーも、演技力も、何をとってもナンバーワンの力を彼は持っています。
以前、池井戸潤さんの小説「民王」のドラマ化を見た時に、菅田将暉Vs遠藤憲一さんの入れ替わりに圧倒されました。
もしかしたら、過剰な老けメークなんかさせなくても、松蔵翁も演じられるのではないかと思いました。
番外編
堺雅人
堺雅人さんも、絶対に何かの役で出て欲しい。
うーん何が適役かな、迷ってしまう。
安吉親分だって、栄治だって、書生常だって出来るでしょうから。
シリアスからコメディタッチまで何でもこなせる名優の彼は、品性も知性も魔性も持ち合わせています。
堺さんの目の奥の魔性は他の役者さんにはちょっとない魅力。
以上、独断と偏見と個人的嗜好で遊んでみました。
面白い本やドラマは、いくらでもこんなことを考えさせてもらえる力がありますね。
こんなキャスティングで「〇〇が観たい」
今回は天切り松を語ってみました。_(_^_)_
参考資料