Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

映画『未来を花束にして』

 

「未来を花束にして」を観ました。

原題は SUFFRAGETTE ( サフラジェット )

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サフラジェット《イギリスの女性参政権活動家》のことは、ブレイディみかこさんの「女たちのテロル」で知ったばかり。

その活動を描いた映画があると知り観てみたくなりました。

 

 

主人公のモードは架空人物ですが、サフラジェットリーダーのエメリン・パンクハーストや、過激派活動家のエミリー・ディヴィソンなど実在の人物も登場する映画です。

 

いやぁ面白い。身につまされた。感動した。

たった100年前には、今、私たちが《当たり前》と思っていたことが当たり前ではなかった。

女性には参政権も親権もなかった。

それを勝ち取るために女たちがどんなに心血を注いで闘ったか。

今日の日本では、折角与えられた参政権を軽んじる傾向があるけれど、

そういう人こそこの映画を観るといいと思いました。

本当に大事なことを、私たちは自分の手で台無しにしてきているのだと反省すべきだと思いました。

 

それから。

大変な勘違いにも気づかされました。

当時のイギリスの女性蔑視は凄かったようです。

男性に対して従属的であるものが淑女たるものとされていたようです。

レディファーストの意味も、現在のそれとは真逆の意味だったとのこと。

 

  ※ レディファーストの起原は諸説ありますが、

    女性を男性の盾や毒見役に使ったということだという話もあります。

    女性を先に歩かせたり、食事を先に食べさせたりとかそういうこと。

    そこまでではなくても。

    女性が先に部屋に入り準備を整えて男性を迎える、

    男の会話に参加させないように、女を先に退出させるといったこと。

    これが最初の頃のレディファーストの意味。

 

映画の中でも、女性に対しての暴力が凄すぎる。

集会に参加した女性を警官が殴る蹴る!

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ただ《捕まえればいいだけのこと》なのに、

ここまで乱暴しないといけないのは《女に対するお仕置き》なのか。

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いやぁ、本当にこんな世界だったのでしょうか。

 

夫婦関係も、男が絶対に上。

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モード ( キャリー・マリガン ) と夫のサニー ( ベン・ウィショー ) は同じ洗濯工場で働いています。

洗濯女は 男より長く働かされていて、賃金は男より低い。

貰った給料は全て夫に渡し、夫が管理する。

 

サニーは優しい夫で、暴力はふるいません。

しかし精神は世間と同じで《女は男に従うもの》《妻は夫の所有物》と思ってる。

モードが運動を始めると「俺に恥をかかせるな」となじります。

この頃のイギリスは、昭和初期の日本の男尊女卑をはるかに上回るレベルだったかも。

 

モードもそれが当たり前と思って生きてきた。

でも。

病弱の息子を診てくれる薬剤師のイーディス ( ヘレナ・ボナム=カーター ) が活動家と知り、

少しずつサフラジェットの活動に興味を持ちはじめる。

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最初は無関心だったモードだが、バイオレット ( アンヌ=マリー・ダフ ) の代わりに、

議会の公聴会の証言者になったことをきっかけに、何かが変わっていく。

 

公聴会の目的は、議会で女性参政権を検討する参考に、女性の労働環境を聞き取るということみたい。

モードは聞かれるまま、自分が働いている工場の待遇や自身の身の上をとつとつと語り始める。 

そのシーンが象徴的でした。

ちょっと長いですが、ここ読んでもらうと、彼女の境遇が全部わかります⤵

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あなたもベスナル・グリーンの洗濯工場で勤務を?

生まれた所です。

では証言してください。

何を?

母上も同じ工場で?

14歳の時から 私をおんぶするか大桶の下に。皆そうでした。

経営者も認めてた?

産後も働けと。

誰が?

ティラーさん

母上もまだお勤めですか?

4つの時 他界を

なるほど

熱湯を浴びたヤケドで

父上は?

知りません

以来 テイラー氏の所で勤務を?

7歳でパートとして 12歳から社員です。洗濯に学問は無用。襟の洗いとレースのアイロンがけが得意でした。17歳で班長、20歳で職場主任になって、今24歳です。

若いのに立派だね。

洗濯女は短命です。

なぜだね。

体は痛み、セキがひどく、指は曲がり、脚は潰瘍にヤケド。ガスで頭痛持ち、去年 肺をやられて辞めた子も

賃金は

週13シリングです。男は19シリングで労働時間は3割 短い。それに配達中心で外へ行ける。

 

あなたにとって選挙権とは?

・・・・ないと思ってたので意見もありません

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 モードのこの言葉に公聴会の男性がうなづき、笑みを浮かべました。

 男たちはみな、女性に選挙権がないのを当然だと思っているからです。

 

 

ではなぜここに?

もしかしたら…他の生き方が…あるのではと  こんな言い方しか…

かまわんよ。

心に響く言葉こそ 物事を動かすものだ。

ご苦労さま ワッツさん 証言は記録されました

生まれて初めて、多くの男たちの前で自分の話をし、心に響いたみたいに言われ、

女たちからも賛美の声が上がったことで、モードの心の奥にあるスイッチが入った。

 

でも 世の中はそんなに甘くなかった。

公聴会が良い結果を生むかと思ったら、

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議員には裏切られ、

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期待してたのに~

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挙句逮捕されちゃいます。

 

ここでちょっと道草

当時の首相は、ハーバート・ヘンリー・アスキスという人でした。

女性参政権をつぶした人ね。

そのアナキス首相のひ孫が、ヘレナ・ボナム・カーター。

つまりホントのひ孫が、サフラジェット活動家のイーディス役をやっているのです。

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モードはこの時点では、サフラジェットのメンバーでもなんでもなかった。

でも、一緒に逮捕されてしまう。

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嫌なことはどんどん続く。

 

一緒に逮捕されたホートン夫人 ( ロモーラ・ガライ ) は、世間知らずのお嬢さんでいい人なんです。

でも、その夫は、妻の分しか保釈金 払わないっていう。

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ホートン家の財産はどうやら夫人のものらしい。

彼女は「私のお金よ、皆の分も払って」と、夫に訴える。

だが夫は、

「その前に妻らしく振舞え。今までは見逃したが、今度はやりすぎだ」

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どこまでも女は弱い。

 

 

モードは、イーディスたちと一緒に収監されます。

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そこで会ったのが、サフラジェットの中でも超過激派のエミリーだった。

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エミリーは彼女らより前に収監されて、ハンストしてました。

 

エミリーは、実在の人物。

国王陛下の馬の前に立ちはだかって死んだ伝説の人。

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初めての収監で、モードはスティード警部の取り調べを受けます。

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スティード警部とは、その後もずっと関わり合うことになる。

 

警部ははじめ自分が説得すれば、モードは手をひくと思った。

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悪いこと言わない、旦那のとこに帰れ。

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でも、もう遅い。

サニーは工場で皆から馬鹿にされ、怒ってた。

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男のめんつまるつぶれってやつ

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夫にも色々なタイプがいます

友人バイオレットの夫は酒癖が悪く、妻を殴るタイプ。

モードの夫サニーは、世間体を気にするタイプ。

イーディスの夫ヒューは、妻の活動を後押しする珍しいタイプです。

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ヒューは、釈放の時にも妻を迎えに来てる。

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一方モードは、、、

  記念品を貰ってます。

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サフラジェットの活動で投獄された人には、メダルを授与して称えてるそうな。

実物⤵

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モードが家に帰ると、隣近所にもバレててサニーは怒ってる。

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職場では、バイオレットが解雇された。

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バイオレットは、娘のマギーを置いてやめていく。

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一緒に投獄されたのに、バイオレットだけクビになったのはワケがあった。

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これは、

モードは小さい時から工場長からセクハラされていたというのが、

なんとなく、わかるシーン。

工場長からは「目をかけてやってる」と、ずっと言われて育った。

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ところが、、、

工場長の次の標的は、バイオレットの娘マギーだった。

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マギーがセクハラを受けてる現場をモードは見てしまって、

トラウマとも闘っていた。

自分のことさえ守れないモードは、マギーを守ることもできずにいる。

 

 

そんなある日。

バイオレットがパンクハースト夫人の演説会の誘いに来る。

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バイオレット、娘のことに気付いてやれよーーー

 

夫のため、子供のため、

活動から手をひこうと思っていたモードだけれど、、、

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夫のひとことで気持ちが揺らぐ。

 

そのシーンがこちら⤵

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娘なら名前は何にした?

マーガレット 母の名前だ

どんな人生かな

君と同じさ

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母も自分も、そして娘までも同じ道しかないのか、、、

マギーとマーガレットが重なったということもあるのかな。

 

彼女は夫に残業と嘘をつき、夫人の演説会に出かける。

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サフラジェットのリーダー、パンクハースト夫人を演じるのは、メリル・ストリープです。

彼女の出演は、このワンシーンだけですが、存在感が半端ない。

この人でなければ、成立しないというくらい重要な役目だし、大事な場面。

二階の窓から姿を現し「友人の皆さん」と声をかけた時から皆とりこになる。

 

この役はメリルにしか出来ないと思います!

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カリスマっていうのは、こういう人なのかな。

 

パンクハースト ( メリル・ストリープ ) のお話を抜き出しました⤵

友人の皆さん

政府の意向に反して今夜 私はここにいます

皆さんも危険を冒してここにいます

多くの方が過去と決別し 犠牲を払ったでしょう その意気が溢れています

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50年間 参政権を得るため 平和的に闘ってきました

屈辱や暴行や黙殺に耐えながら 今や犠牲を伴う行動こそ必要不可欠な戦術です

将来 生まれる少女が兄や弟と同じ機会を持てる そんな時代のために闘うのです

女性には自らの運命を決める能力があるのですから 法を破るわけではありません

私たちで法を作るのです

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自らの場で闘いましょう 窓ガラスへの投石もよし

高官や資本家を攻撃するのもいいでしょう 

わたしたちに残された道は政府への反抗しかありません

たとえ投獄されても壊れるのは、女性の体より政府の窓ガラスです

 

イギリスの全女性よ今すぐ反抗するのです

私は奴隷より反逆者になります

 

演説が終盤にさしかかると、警察があたりを包囲し始めます。

すると女たちは腕を組み、夫人の逮捕を阻止する姿勢に入ります。

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実はこれが「ボディガード」の起源だそうです。

サフラジェット - Wikipedia

 


モードは演説会をキッカケに、職場を追われ。

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夫からは離婚を言い渡され、息子を取り上げられてしまいます。

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当時のイギリスには女性に親権はなかった。

 

もっと残酷なのは、

サニーは息子を一人では育てられずに養子に出してしまう。

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甲斐性のない男だと責めたいところだが、世間の風当たりは男にとっても辛いものだったかも知れない。

 

もう戻るところはない。

モードは鬼になります。

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モードはエミリーと行動を共にし、放火、器物損壊、国内テロを繰り返す。

収監されればハンガーストライキを実施。

強制摂食も経験。

最後は、国王陛下への直訴のため競馬場に向かいます。

 

 

エプソムダービーでの出来事は、サフラジェットを有名にした事件でした。

エミリー・ワイルディング・ディヴィソンが国王陛下の出走馬の前に飛び出した映像は世間を震撼させました。

当時の映像が残っています⤵

 

この一件で、サフラジェットに注目が集まり、

エミリーの葬儀には数千のサフラジェットが参列。

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エミリーの死は、自殺だったのか事故だったのか。

エミリー・デイヴィソン - Wikipedia

 

映画ではその辺のいきさつも描いています。

この事件だけ抜き出すとセンセーショナルですが、

映画は、そこにいきつくまでの女たちの苦悩や葛藤や事情を丁寧に描いています。

 

 

 

 

私が一番感動したのは、モードと警部の場面でした。

取り調べの2人のシーンは緊迫感があり、相対する立場のはずなのに、

反発しながらも心が通い合っているように見えたのです。

本気でぶつかりあっているからでしょう。

モードは、最後まで警部に反抗的。

警部は年長の男として最初は彼女を屈服させようとする。

しかし、自我の目覚めにモードの勢いにおされていく。

 

ブレンダン・グリーソンもキャリー・マリガンも。

二人とも巧い役者だからもあるけれど、見事なのは、脚本が良いからでしょう。

男に虐げられて生きてきた女が、どんどん変わっていく。

男は、そんな女を自らの経験値をもとに崩そうとする。

 

ある日の警部のセリフ

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「お前は歩兵にすぎん

 連中 ( サフラジェットの幹部 ) は、冷酷だ。

 ましな人生を望む貧しい女どもを巧みに誘い、いいものを着せ、

 おだて上げ運動の歩兵と思い込ませる

 不毛な闘いだ、私を頼ってこい。深入りするな」と諭します。

 

その通りなんでしょう、多分。

警部は、そんな 気の毒な女を沢山見て来たのでしょう。

 

しかし、返事 ( 手紙 ) はこうでした。

スティード様

先日の提案ですがお断りします

私は参政権を求めます

意見が無視され続け耐えられません

ずっと男性を尊重し従ってきましたが今は違います

私はつまらない人間です

 「男が自由を求め闘うなら女も闘うのだ」

パンクハースト夫人の言葉です

法が息子と会わせないなら、法を変えるために闘います

私は歩兵 あなたもです

私は裏切らない。

あなたもでしょ?

手なづけられると思わないで  

敬具

モード・ワッツ

 

最後まで平行線。

 

警部は世間の男とは少し違います。

強制摂食には心を痛め、真摯な態度でモードに接している。

爆発事件を起こした時、彼はこう言いました。

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綺麗に片付けたな 証拠物件は一切なかった

お前の罪状は非合法集会の容疑だ 

爆破の時 家政婦が邸内にいた 忘れ物を取りに

あと2分遅かったら ⵈⵈ  何のための爆破だ

爆弾は相手の区別などできないんだ  お前に命を奪う権利が? 

あんたには女性への殴打を傍観する権利でも? 偽善者 

法に従う

男の法など無意味よ

逃げ口上だ

窓を割り 爆破しないと男は耳を傾けないから

殴られ 裏切られた女の最後の手段よ

止めてやる

どうやって? 全員刑務所に入れるの? 人類の半分は女よ 止められる?

それまで体がもつか?

私たちが勝つわ

 

しかしこの時 警部は彼女の覚悟を知ったかも。

 

二人が合った 最後のシーン

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志は違えど、なんと優しい眼差しか・・・

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モードが、マギーにやってあげられたことも 救いがありました。

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ひとりひとりの女が、自分のできることを見つけて歩き出していく。

そんなことがテーマの映画かもしれない。

 

自分に出来ることは何なのか、小さなことでもいいから考えていかなければいけない。

そんなことを突きつけられ、考えさせてもらえた映画でした。

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おまけの話。

サフラジェットのことを調べていたら、こんな話を知りました。

ジュリーアンドリュースの「メリー・ポピンズ」にサフラジェットの話が出てくるというのです。

 

それがこのシーン 

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物語の最初の方で、メリーポピンズが雇われることになるバンクス家のシーンです。

バンクス夫人は、タスキをかけて運動から帰ってくる。

この歌、好きだったんだなぁ。

でもこれが、サフラジェットの ( 多分前進の ) 運動だったなんて。

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とにかく明るい夫人です。

よく見れば、タスキもサフラジェットの三色。紫・白・緑じゃないか。

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大好きな、心躍る歌だったんだけど、子供だったから気が付かずに見ていました。

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参考文献