Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

シャーロックホームズの翻訳について

シャーロック=ホームズの冒険を、偕成社文庫で読みすすめています。

翻訳は河田智雄さん。

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シャーロックホームズは、小学生の時に読みました。

たぶん「~冒険」を、でも忘れているなぁ。

かろうじて「赤毛連盟」の話は読んでいる内に、思い出しました。

 

 

再読してみたくなったのは、テレビドラマの「シャーロック」がキッカケです。

うほほ 単純。

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ドラマの「シャーロック」は、副題にアントールド ストーリーズとあるように、

原作の本文中にチラリと出てくる ( 実際には作品になっていない ) 事件をモチーフにして、一話一話構成したらしい。

例えば第二話では『ボヘミアの醜聞』の中に書かれている「ダーリントンの替え玉事件」というものがモチーフになってるらしい。

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いや、そんなこたぁ わからないで観ましたケド。

 

ドラマの登場人物は、勿論日本人です。

シャーロックは、誉 獅子雄 ( ディーン・フジオカ ) という犯罪捜査コンサルタント。

ワトスンは、若宮 潤一 ( 岩田剛典 ) という元精神科医。

そこに、佐々木蔵之介演じる江藤礼二という警部が絡んでくるんですが、

この人は、原作でいうところのレストレード警部ではないかしら。

 

獅子雄はホームズと同様バイオリンの名手で、

ドラマの中盤、事件の謎を解くのにバイオリンを弾くのがお約束。

相棒の若宮くんが医者というのも、原作から来ている。

まあそれ以外は、日本の話ですから別物なんですけど。←そういっちゃおしまいだがね。

 

それから、最新のシャーロック映画も観ました。

 

 

2009年の映画「シャーロックホームズ」も面白かったです。

斬新なんです、スピーディだし。

ホームズとワトスンがカッコよくて、マッチョで喧嘩が強いのには笑いました。

 

 

映画を愉しんだら、今度はクラシカルな雰囲気も味わいたくて本にも手を出しました。 

手っ取り早く 手に入ったのが偕成社文庫でした。

河田さんの翻訳は、癖がなく、それなりに読みやすい。

 

ただ読んでいる内に、また例の関心ごとがふつふつ沸いてきた。

「赤毛のアン」と同じように、訳者によって違うんだろうなぁ

他のと、読み比べてみたくなったんです。

 

ネットで「シャーロックホームズ」「翻訳者の違い」などと検索すると、

実際に読み比べて、発表している方々が沢山いらっしゃいました。

皆さん凄いです。解説や見解は本格的です。

ですからそちらの方は、その方々におまかせするとして、

個人的にひとつに絞って比べてみたくなったことがあります。

 

The woman の訳について

「シャーロックホームズの冒険」にはいっている「ボヘミアの醜聞」という作品に、

" the woman" という言葉が出てきます。

この言葉のニュアンスを翻訳者がどう表現しているのかが知りたくなったんです。

 

「ボヘミアの醜聞」は、ボヘミア国王の依頼でアイリーン・アドラーから写真を奪い返そうとする話で、

ホームズが失敗をするという珍しいケースです。

この一件でホームズはアドラー嬢のことを特別視するようになります。

それをワトスンは、冒頭と巻末にこんな風に言っています。

 

冒頭:

TO SHERLOCK HOLMES she is always the woman.

末尾:

And that was how a great scandal threatened to affect the kingdom of Bohemia, and how the best plans of Mr. Sherlock Holmes were beaten by a woman’s wit. He used to make merry over the cleverness of women, but I have not heard him do it of late. And when he speaks of Irene Adler, or when he refers to her photograph, it is always under the honourable title of the woman.

 

ホームズの女性観まで変えてしまったアドラー嬢のことを、なんと訳すのか。

英語では、The woman ですけど、日本語にすると色々な言い方がありそうです。

 

偕成社文庫版 

因みに、偕成社文庫版、河田さんの訳ですと、こうなります。

冒頭:

シャーロック=ホームズにとって、その人はいつも《あの女性》だった。 

巻末:

以上が、外聞をはばかる一大事件がいかにボヘミア王をおびやかしたか、シャーロック=ホームズの妙案がいかに一女性の機知のためにつくがえされたか、そのてんまつである。ホームズは以前よく、女のこざかしさを笑いのたねにしたものだったが、近ごろはとんとそれをきかなくなった。そして、アイリーン=アドラーのことを話したり、その写真のことにふれたりするときは、いつも《あの女性》という敬称をつかうのである。

 

 

コンプリート・シャーロック・ホームズ版 

次に、ネットでシャーロック・ホームズをコンプリートされ、自ら全部を訳されている方がいらしたので、その翻訳を見てみましょう。

 

 

冒頭:

シャーロックホームズにとって、彼女はいつも「あの女」である。

巻末:

これが、いかに重大なスキャンダルがボヘミア王に降りかかる恐れがあったか、そしてどのようにしてシャーロックホームズ最高の策略が、一人の女性の機転によって打ち負かされたかという一部始終である。以前はよく女性の浅知恵を冷やかしたホームズだったが、最近それは聞かれなくなった。そして、ホームズがアイリーン・アドラーのことや彼女の写真について話す時は、いつもこの尊称を使うのだ ―― あの女

 

この方の翻訳はとても読みやすく、テンポもあり、どんどん頭に入ってきました。

尊称なんだけど「あの女」。逆で皮肉でありかも知れません。

とても読みやすくネットで全部読めるので、おススメです。

 

青空文庫 えあ草紙版 

もうひとつ、青空文庫をえあ草紙で読めるサイトもありました。

翻訳は、大久保ゆうさんという方です。

 

 

冒頭:

シャーロック・ホームズにとって、彼女はいつも『かの(おんな)』であった。

巻末:

以上がボヘミア王室を脅かした一大醜聞であり、ホームズの深謀が一女性の機知にうち砕かれた事件の顛末である。以前は女性の浅知恵と冷やかしていたホームズも、最近は一言もない。そしてアイリーン・アドラーに触れたり、写真を引き合いに出したりする際には、ホームズは常に『かの(おんな)』という敬称を使うのである。

 

 

三つを比べただけでも、あの女性・あの女・かの女でした。

さて、ホームズの本は他にも多くの出版社から刊行されています。

末尾にリンクを貼らせていただいたサイトさまから、それぞれの訳の特徴をまとめさせいいただき、発行年順に並べてみました。

図書館で手に入るところから、" The woman " 、なんと訳しているのか調べてみようかな。

 

新潮文庫版 ( 1953 ) 

 翻訳者:延原謙

 古風な文体。格調だかく、原作の雰囲気に近い。

ちくま文庫版 ( 1997 ) 

 翻訳者:小池滋

 お話しが時系列順に並び直されている。

 ※ ボヘミアの醜聞はシャーロックホームズ全集 3に収録。

光文社文庫版 ( 2006 ) 

 翻訳者:日暮雅通

 現代的でスムーズに読める。格調高さには若干欠ける。

 ※ヴィクトリア朝の文化への配慮がされた注釈がついている。

創元推理文庫版 ( 2010 )  

 翻訳者:深町眞理子

 現代的・古風の中間。

 

角川文庫 ( 2010 ) 

 翻訳者:石田文子 ※「冒険」以外は駒月雅子

 現代的な文章で読みやすく、日本語として違和感がないのでテンポよく読むことができる。

河出書房新社版  ( 2014 ) 

 翻訳者:東山あかね、小林司

 現代的文章。

ハヤカワ・ミステリ文庫 ( 2015 ) 

 翻訳者:大久保康雄

 読みやすい翻訳がされている。

 

 

 

参考にさせていただいたサイトさま