Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

文豪の稼ぎを考察する

 

f:id:garadanikki:20141224010426j:plain最近、大正・昭和初期の文豪 ( 芥川龍之介、久米正雄、大佛次郎、里見弴 ) の本にはまっている。

自分が良いと思えばそれで良く、貪り読んでいれば幸せなものを、突然ある疑問に囚われた。

「今読んでいる文豪の本は、当時どの程度の人気があったのか」

しょうもない疑問である。

今なら「何万部 売れた」というのが、適当な物差しだろうが、

当時の本が「どのくらい売れたか」という資料は、見あたらない。


「作家がどのくらい稼いだか」という視点で見つけたのが、

松浦総三編著『原稿料の研究~作家・ジャーナリストの経済学』

( 1978年-昭和53年 みき書房出版 ) だった。

 

 

「どのくらい人気があった本だったのか」という素朴な疑問から「作家の稼ぎ」という下世話な話になっていったが、まあ仕方がない か。

 

本紙26pには、

月刊誌『東京』 ( 大正14年7月号 ) に「文士の所得税しらべ」 ( 忙中閑人 ) という記事が転載されていた。所得税額から逆算した収入調べであった。正に、私が探していた資料である。

これは国税丁から発表される文士長者番付の大正十三年版、つまり88年前の作家たちの年収である。

 

 1位   徳富蘇峰   23,250円 
 2位   菊池寛   7,500円 
 3位   水上滝太郎   7,200円 
 4位   巌谷小波   6,500円 
 5位   久米正雄   6,000円台
 6位   長田幹彦   6,000円台
 7位   永井荷風   6,000円台
 8位   坪内逍遥   4,500円 
 9位   岡本綺堂   4,000円台
 10位   小山内薫   4,000円 
 10位   徳田秋声   4,000円台
 10位   上司小剣   4,000円台
 10位   田山花袋   4,000円 

3,000円クラスには芥川龍之介、泉鏡花、内田魯庵、吉井勇など。

2,500円前後には、加藤武雄、加納作次郎、生方敏郎、室生犀星などがいる。

そのほか所得税を支払っていない作家に、島崎藤村、谷崎潤一郎、広津和郎、宇野浩二、山本有三、佐藤春夫などがいるが、いずれもバリバリ活躍中の作家だったのにもかかわらず、年収3,000円に達しなかったことになる。

 

本誌28p、分析もなかなか興味深い。 ( 抜粋 )

1位 徳富蘇峰が独走しているのは、国民新聞社長、貴族院議員の歳費なども加わっている為。

2位 菊池寛は「真珠夫人」や「慈悲心鳥」が、大新聞や婦人雑誌に掲載され、それが殆ど映画化された為。

3位 水上滝太郎は、明治生命重役の給料も加算されている為。

4位 巌谷小波は講演の出演料が加算されている為。

5~6位 久米や長田は当時、書きまくっていたので当然。

7位 荷風は、大正七年に「おかめ笹」、十年に「雨まま」を書いただけでロクな仕事もないが、日本郵便重役の父の遺産が課税されたからと思われる。

 

永井以下、坪内、岡本、小山内、徳田、上司、田山らはいずれも、当時の長者レギュラーの実力はであった。

案外少ないのが芥川で、当時の『改造』や『中央公論』には毎号書きまくっていたが、やはり短篇が多く枚数が少ないからだろう。

 
かなり核心に近づいたが、敬愛する里見弴の名前がないのが淋しい。

それにしても " 大正13年に7,000円 " といっても、ピンとこない。

本紙もその点について触れ、当時の労働者賃金や米の標準価格を目安に、貨幣価値の対比を試み「現在でいえば、○○円」などと記している。それでもピンと来ないのは、本紙が今から34年も前に発行された本だからである。

【貨幣価値の再検討】

調べることばかり増え、知りたいことが 遠のいてしまった感がある。

大正13年の7,000円が本紙発行当時1978年いくらで、2012年現在いくらかを計算しなければならない。

壮大な遠回りループに陥った。

 

とりあえず、様々な資料をあさった結果「お金の価値を単純かつ正確に比較するのは困難」だとわかった。

企業物価指数で比較する方法、消費者物価指数で比較する方法、米価で比較する方法など様々あるが、

どのものさしを使うかで結果がまちまちで、3倍近く開きが出たりする。

【本紙にも見られた貨幣価値の誤差】

誤算といっては無礼であるが、本紙16pに以下のような記述がある。

たとえば、尾崎紅葉の名作「金色夜叉」のヒロインお宮は、当時300円のダイヤモンドに目がくらんで貫一を裏切るのだが、当時300円のダイヤモンドは、1978年には何万円かということが分らないと、原稿料の数字があっても意味はないからである。


ちなみに『週刊朝日』(’78年6月1日)による、「金色夜叉」が書かれたころ(1900年ごろ)の300円のダイヤモンドは、現在にでは約10,000,000円。
1千万積まれれば、恋人を裏切る女性は、今日でもザラにいるだろう。

「そうか1千万なのか」ということになるが、算出し直したら、こんな結果が出た。

○ 企業物価指数で算出

1901年の企業物価指数=平均0.469
1978年の同指数 =平均653.8
653.8 ( 1978年 ) ÷ 0.469 ( 1901年 ) = 1394倍
当時300円だったダイヤモンドは、1978年の価値でいうと、1394×300=418,200円


「んんん? どこが一千万なの?」 である。
このように、ものさしによって、300円のダイヤモンドが10,000,000円にも418,200円にも化けたのである。

○米価格で計る
Wikipedia 米価の変遷によれば、明治5年の米俵1俵の価格は0.8円。1977年は17,294円。
これで鑑みると、300円のダイヤモンドは、6,485,400円になる。

 

【何をものさしにしたんだ?】

週刊朝日の記事では 10,000,000円。企業物価指数で換算すると 418,200円。米価だと 6,485,400円。
迷宮に迷いこんでしまった。

【とりあえず…】

とりあえず企業物価指数で、いいとする。
1924年 ( 大正13年 )  1.336
2011年 ( 平成23年 )  686.4
686.4÷1.336=513.8倍

徳富蘇峰 23,250円→11,945,859円、菊池寛 7,500円→3,853,500円、水上滝太郎 7,200円→3,699,360円、巌谷小波 6,500円→3,339,700円、久米正雄・長田幹彦・永井荷風 6,000円→3,082,800円、坪内逍遥 4,500円→2,312,100円、岡本綺堂・小山内薫・徳田秋声・上司小剣・田山花袋 4,000円→2,055,200円、芥川龍之介、泉鏡花、内田魯庵、吉井勇 3,000円→1,541,400円、加藤武雄、加納作次郎、生方敏郎、室生犀星 2,500円→1,284,500円。

んんん、なんか…変だが、この辺にして、読書をしよう。