にゃんこ好き、有川浩さん好きの私に、MOURIからのお土産。自分の本を買うついでに新刊を見つけて買ってきてくれました。
「喜ぶだろうと思って」と。
早速、読み始めたもののボロボロボロボロ泣き通しです。
ラストなんかもう、ウォンウォン言ってしまいました。
MOURIが複雑そうな顔。
喜ぶ顔を見るつもりだったのに、泣きっ面だものな。(笑)
今年一番、感動した作品でした。
新刊なので、まだまだ読まれていない方も多いと思うし、
殆ど備忘録なので、あらすじ・感想は、『続きを読む』に綴じ込みます。
あっ、ネタバレにならない程度に、ひとつだけ。
作中に散りばめられてる有川さんの擬音が凄かったです。
もうそういう風にしか聞こえない。
布団の上を歩く猫 → ほてほてと (布団を) 四つ足で踏まれて
猫手で獲物などを転がす様子 → ちゃいちゃい する
猫嫌いの人の足下に猫がすりよった時の声 → 「うひょっほう!」
ねっいいでしょう?
【あらすじ】
野良猫として生きてきた猫が、お気に入りの銀色のワゴンのボンネットでうたたねをしていた時、車の持ち主らしい男と出会う。
ワゴンの下には毎夜カリカリが盛られるようになった。
つかず離れずの顔見知り。男との付き合いがそういう距離感に落ち着いた頃、彼らの運命が大きく変る事件が起こる。
猫が交通事故に遭ってしまう。
骨の飛び出した右後ろ足を引きずって、銀色のワゴンまでやってくる。
何度も何度も声を張り上げでいると、マンションの階段を誰かが降りてきた。顔を上げるとあの男。
「やっぱりお前か」
男と猫との生活が始まる。男の名は宮脇悟。
猫は悟によって“ナナ”という性別に合致しない名前がつけられる。
以前、悟が飼っていた猫がハチなので、今度の相棒はハチにソックリなのと、しっぽが黒いかぎがたになっているのでナナなんだと。
それから5年、二人に幸せな時間が流れていく。
ナナはすっかり壮年になり、悟も30を少し超えた頃、悟がナナを手放さなければならない事情が起こる。
悟とナナは、銀色のワゴンに乗る。
ナナを引き取ってくれそうな友達を訪ねる旅が始まる。
【素晴らしい、泣かせる話の数々】
各章はReportと称して5つに分かれて展開されます。
各章ごとに、悟の友達が登場して、友達がナナを引取れるかどうか見合いする様子が描かれているが、
そこから次第に悟の生まれ育ちが明らかになっていきます。
物語の語り部は、ナナが担当しています。
猫の眼を通して語られることで、猫の生態がとてもよく表わされていて、うなづけることばかりです。
猫と男の旅物語と思いきや、人間模様も丁寧に描かれています。
優しく深い人間観察眼を持つ有川浩さんが、今度は猫に対する観察眼もプラスした作品です。
本当に感動して、本当に泣ける、素晴らしい一冊でした。
【好きなシーン】
p.61
さあ来い、むりやり引っ張り出して抱っこしようものなら、その顔面で向こう三ヶ月はオセロが楽しめるほどくっきりマス目を刻んでやるぞ。
p.103
僕のしっぽをまた抱え込んで はみはみ している。
p.104
気配を消さなきゃならないときにしっぽの主張が激しすぎる。僕と違ってすんなり伸びたしっぽをヘリコプターのプロペラみたいに振り回して、ちんどん屋が狩りをしてるようなもんだ。伏せて溜めるときの姿勢が高すぎるし。
p.170
キャン、と犬野郎の悲鳴が響いた。虎毛の鼻面にキレイな3本傷、うっすらと血が三本滲んだ。--それでも、トラマルはおなかの下にしっぽを巻かなかった。
~中略~
「お前が本気で噛んだらナナが死んじゃうだろう!」
くぅ、とトラマルが初めておなかの下にしっぽを巻いた。そして悔しそうに僕を睨む。
分ってるよ、それは僕に巻いたとはカウントしない。
p.185
「ダメだよナナ、刺されたらどうすんの」
そんなこと言われたって本能だもの。ハチに向ってちゃいちゃい手を掻いていると、 サトルはとうとう僕の両手をまとめてきゅっと握ってしまった。ちぇっ、飛び回る虫はエキサイティングで楽しいのに、放せよ、ともがいてみたが、サトルは僕を抱っこしたまま再び車に乗せてしまった。
「獲るだけならまだしも、ナナは食べちゃうから。口の中に針がささったら困るだろ」
だって捕まえたものは取り敢えずかじってみるものでしょう。東京でもたまに出てくるゴキブリを仕留めるたびにかじっていたものだ。固い羽はセルロイドでも噛んでいるようでいただけないが、身は結構柔らかくコクがある。僕が食い散らかしたゴキブリの死骸を見つけるたびにサトルはぎゃーっと悲鳴を上げていた。一体どうして人間はゴキブリがこんなに嫌いなんだろうね。構造的にはカブトムシやカナブンとそれほざ変らないのに。
p.187
物も言わずにサトルは僕をぎゅっと抱きしめた。おっと、少し痛いですよ。中身が出ちゃう。
p.201
サトルはその小さい人の話をいろいろしてくれたけど、お話の中のことなら猫的には興味半減だ。くわぁ、とあくびをするとサトルが苦笑した。
「ナナにはあんまり興味ないかな」
猫はリアリストなもんでね。
p.215
「おっ、ナナ、いいものあるね~」
悟が眼を細めて猫に話しかけた。見ると、まだ畳んでいなかった空の段ボールを猫がふんふん嗅いでいる。
p.219
悟はナナを捕まえてこちらに見せようとしたらしいが「あれ?」と首を傾げた。ナナがどこかへ行ったらしい。
と、「うひょっほう!?」
頓狂な声を張り上げたのは法子のほうだ。ふくらはぎに何か柔らかいものがすりすりとこすりつけられたのだ。
p.222
ノリコはノリコなりに僕に馴染もうとしているらしく、挨拶しながら怖々手を伸ばしてくるのだが--いきなり触るのがしっぽとしいのはどういう了見なの。しっぽなんてよっぽど気心知れた奴じゃないといきなり触らせないよ。普通だったら容赦なく引っぱたくところだが、家主の恩義に免じてしかめ面でしっぽをよけるにとどめる。このリアクションで何らか察するところがあってほしいものだが、ノリコは僕に触るとなると必ずしっぽを狙うのだ。その日の朝は、たまたまサトルが見ていたので助かった。
「駄目だよ叔母さん、いきなりしっぽ触っちゃ。ナナ、嫌がってるよ」
「どこを触ればいいの」
「まず顔とか、耳の後ろとか。馴染んできたら顎の下もいいけど」
「頭、耳の後ろ、顎の下…」
復唱しながらノリコが一体何やってると思う? 何と、メモ取ってるんだぜ!
~中略~
でもまあ、いつもしっぽを狙ってきた理由が分った。ノリコ的判断で口から一番遠かったんだね。あまねく天下の動物がしっぽや背後を狙われたときの反応速度といったら、正面から手を出されるときよりよっぽど速いくらいなんだけどね、実は。
p.247
もうそろそろいいだろう、僕はゲージの鍵をちゃいちゃい開けて、車内へ抜け出した。