Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

映画 『 アイリス 』

 

f:id:garadanikki:20150310095908j:plain週末に見たアイリスという映画、心に沁みました。
イギリスの女性作家アイリス・マードックを主人公に、アイリスの夫ジョン・ベイリーが書いた回想録『Elegy for Iris』を原作としている夫婦の40年を描いたドラマです。

晩年の妻がアルツハイマーを発症してしまうのですが、いわゆるお涙頂戴的要素は、まったくありません。

≪ 小説家が言葉を失う ≫
≪ 夫婦の生きてきた記憶が消えていく ≫

想像しただけでも胸が痛い。

なのに 悲しいという感情を卓越した静かな感動が、心に沁み渡ります。


監督のリチャード・エアー氏は、映画監督であると同時にナショナル・ロイヤル・シアターの芸術監督を務められた高名な舞台演出家です。

しかしこの映画には、舞台的技巧は一切使わず作られています。

優れた舞台演出家は、優れた映画監督でもあるのでしょう。


作品には、沢山のモティーフが効果的に散りばめられています。

≪ つぶれてしまった空き缶 ≫
≪ 若き日、2人で拾ったであろう浜辺の石 ≫

 

亡き妻の遺品を整理する夫の、傍らのシーツから滑り落ちた石が、そのまま川底に落ちていく描写が印象的でした。


原作は、先にも言いましたが夫のジョンが書いた2冊の本です。

『作家が過去を失うとき-アイリスとの別れ(1)』

『愛がためされるとき-アイリスとの別れ(2)』


共に教鞭を取っていたオックスフォード大学での2人の出会いに始まり、

妻がアルツハイマーを発症し、1990年に亡くなるまでの40年間を描いています。


若き日のアイリスをケイト・ウィンスレット、晩年をジュディ・デンチが演じています。

2大女優の素晴らしさはもちろんですが、夫役の2俳優 ( 若き日をヒュー・ボネヴィル、晩年をジム・ブロードベント ) が、これまた素晴らしい。特に晩年を演じたジム・ブロードベントは、この映画でアカデミー助演男優賞とゴールデングローブ賞の同じく助演男優賞を受賞しています。

【そっくり】

この映画のキャスティングの妙は、[若き日]と[現在]を演じる俳優が、皆よく似ていること。

晩年の夫から回想シーンで、若き日のジョンに切り替わる場面が沢山あるけれど、全く違和感がないのに驚きました。

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アイリスの親友ジャネットも、またしかり。

ジュリエット・オーブリーが年をとったら、

きっとペネロープ・ボネヴィルの顔になるだろうなと思うほどそっくりでした。

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圧巻はアイリスの男友達モーリス。

でも、それもそのはず。

サム・ウエスト(若き日) と ティモシー・ウエスト(現在) は、本当の親子だから。

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ケイト・ウィンスレットとジュデー・デンチは、実物のアイリス・マードック女史にどこか似ています。

ケイトとジュディーには共通項は見いだせないのに。。。

2人とも、当年のマードック女史の有様をよく観察されたのかもしれません。

 

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ケイト・ウィンスレットは、目力と目の動かし方が、

YouTubeで見たインタビュー映像の女史にそっくり。

 

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ジュディ・デンチは、骨格が似てるかな。

彼女の場合は、《似せている》というよりも、

アイリス・マードックが講演をしたらこんな感じのスピーチだろうと心底 思わせる存在感がありました。


さすが大女優です。

f:id:garadanikki:20150310095910j:plain← 在りし日のアイリス・マードック女史

作家にして哲学者であるマードック女史。
日本での知名度は、残念ながら本国に及ばないが、英語圏での人気は高い。

彼女は、こんな有名な格言を残しています。


愛する事を教えてくれたあなた。

 今度は忘れる事を教えて下さい。

マードック女史は、今で言う “ ハンサムウーマン ” かしら。

 

本編に、

「言葉は思想」
「言葉の流暢な響きや美しさを守ること。
これは人間にとって大事なことです。思考に結びつくからです。」

というセリフがあります。品格のある言葉を大切に紡ぎ小説を書いてきたアイリス。

そんな彼女が、言葉を失っていく苦しみは、いかばかりだっただろう・・・。

f:id:garadanikki:20150310095912j:plain坂道を走る2人の自転車。
先を走るのは、いつもアイリス。
若き日の2人が、
次のシーンでは、
現在の2人に変わる。


 

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自転車のシーンでの2人のセリフ

「アイリス、アイリス、待ってくれ」「私に しっかりついて来て」

いつもジョンの先を走り抜けてきたアイリスだが、

アルツハイマーという病魔が彼と彼女の立ち位置を逆転させてしまう。 

 

f:id:garadanikki:20150310095918j:plain母校オクスフォードで行われたチャリティーディナー。

主催者は、ジョンをぞんざいに扱う。

「夫のジョンは、ウォートン・カレッジの有名な文学教授、幸運にも女史のご主人です」

教育の重要性について求められたアイリスのスピーチ。

「教育は幸せを与えません。自由も。いくら自由でも、幸せにはなれません。教育も同じことです。あくまで教育は手段です。幸せになるための手段。私たちの目と耳を開いて喜びに導いてくれます。かけがえのない本当の自由。精神の自由こそ、何よりも大切な宝です。これがかくしん自信につながり-豊かな精神と前進する力をはぐくむのです。」

そう言うと、彼女はいきなり歌いだす。アイルランド民謡「ラーク・イン・ザ・クリア・エアー」だ。

型破りなスピーチに驚き、眉をひそめる主催者。

夫のジョンは、賞賛し、胸に手を当て彼女の歌に聞き惚れる。

 

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彼女の講演の一番のファンは、夫のジョン。

 

 

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初めて見た時は、歌の意味が分からなかったが、「ラーク・イン・ザ・クリア・エアー」は、アイルランドの民謡なのだそうだ。若き日、パブで謳歌するアイリスたち。男友達のモーリスは、意地悪い調子でアイリスに「母の歌を」と、リクエストする。アイリスは、アイルランド生まれだったから。

 

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自分の死期を悟った親友ジャネットに、アイリスが尋ねる。

「いつ行くの?」(When we go?)

意味深なセリフ…。 

 

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イギリスの避暑地の海岸(当時)には、プライベート海の家が並ぶ。…うらやましい。

 

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徘徊して家がわからなくなったアイリスを連れ帰ったのは、モーリスだった。

日本式に手を合わせて謝るアイリスに、モーリスも返礼。

アイリスとジョンは、何度か日本を訪れているらしいが、そのエピソードかも。

 

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施設に入れる日。

屈強なドライバーが、アイリスには優しく語りかける。

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