Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

「エドの舞踏会」 著:山田風太郎

 

「エドの舞踏会」を読了。

面白くて、ゆっくり楽しんで読んでいて、半分くらいまで来たところで、後は明日と

一旦寝たんですが。2時ごろモゾモゾ起き出して、読んでしまいました。

 

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その時の図が、こんな感じ。↑

 

沢庵をつまみにウォッカを呑んだりして。。。

何故沢庵かというと、大隈重信の巻に出てきた苦学生たちが、

沢庵をウマイウマイと食べているシーンがあったから。

 

午前4時。読み終えました。

面白かった。

エドとは江戸のことで、時は明治。

当時の権力者たち ( 井上馨、伊東博文、山縣有朋、黒田清隆、森有礼、大隈重信、陸奥宗光、ル・ジャンドル ) が、日本をどうしていこうかと奔走する中、彼らの妻たちもまた鹿鳴館という社交の場で貢献をしていたという内容。

 

「時の元勲たちの多くはみんな西国の田舎侍で、江戸に進駐して、江戸の女を見て魂が飛ぶ思いがしたんじゃろ。

 ま、征服者の掠奪、っちゅうやつじゃな…」

というくだりがある。

ところが政府高官が成り上がり者なら、その夫人たちもほとんど芸者や女郎あがりだったのですよ。

 

伊東博文夫人でしょ、黒田清隆夫人に、この本の中では森有礼夫人の常子さんも吉原の芸者の子となっていたり、大隈重信の夫人綾子も、生まれは八百石の旗本の娘だが、家が傾いて吉原に身を沈めた遊女。あの「鹿鳴館の華」と言われた陸奥亮子も、没落士族の旗本の娘でありながら、新橋の芸妓だったんだもの。f:id:garadanikki:20150322191858j:plain

鹿鳴館の華と言われた陸奥亮子

 

この本を紹介してもらった時に、即飛びついたのは、ル・ジャンドルのことを里見弴の本で読んでいて、西郷山公園が西郷従道さんの家だったし、徳冨蘆花の「ほととぎす」のヒロインが大山巌男爵の娘がモデルだったから。

多少なりともこの辺の人物像を承知しているところに、著者が思いもかけぬ外伝をしかけるから、やめられない。

「えっ、陸奥宗光は牢屋で子供を作ったの?」とかって、あまりの展開に何が本当なのか分からなくなる始末。

いやあ、面白い本でした。

 

この本にはもうひとり、物語のつなぎ手として登場する山本権兵衛という男がいるんですが、本の中では西郷従道の命により、鹿鳴館に夫人たちを駆り出すべく奔走する役なのね。

冒頭で彼は、妻を公の場に出すことを逡巡し、

妻の方も「お馬車がけがれます。・・・」と西郷の馬車の同乗しようとしない。

ところがそんな妻を、山本はラストで鹿鳴館に連れていくんです。

そのシーンがこちら。

 

髭の中で、小声で、しかし厳然と権兵衛はいった。

「登喜、頭をあげよ」

ホールで権兵衛は立ち止まって見まわし、大階段の西郷を見出すと、妻の手をとって上がって来た。

「いつぞやお目通りいただきもした女房の登喜でごわす」

と、彼はいった。さすがにはにかみの色が浮かんでいる。

「いちどだけ鹿鳴館を見せちゃろう、これが最後の機会じゃと思いもして」

西郷は茫洋たる――いや、たしかにまぶしげな眼で権兵衛の背後を見やって、

「大山夫人に勧められたのかね」

と、訊いた。権兵衛は首をふって、

「いや、おいの発意ごわす。ここに来られる貴婦人方の中のある方々に、それにあやかるようにひき合わせてやろうと考えもした。・・・おいもそのすべてを知ったわけではごわせんが、知っただけでも、その方々は、ただの貴婦人じゃなか、実にえらか奥さん方でごわした!」

と、感嘆の声をあげた。

「そりゃよか。・・・そりゃ、よか!」

と、西郷はうなづいて、

「奥さん、おいで」

と、さしまねいた。

「ここから、あそこに群れちょる男や女を見てごらん」

と、この海坊主は、頬を染めている山本登喜の肩をやさしく抱いていった。

「生まれながらの貴族もおりゃ、氏素性のよく知れん者もおる。・・・おいはあれを見て、いつも不思議に思うんじゃが、男はな、元の身分がいやしいと、いかに出世しても、その人相にそれが残る。ところが、女性はな、貴族になったら、みんなみごとに貴族になるな。いや、衣裳のこつじゃなか、心がじゃ。あっぱれ、女は変る。・・・」 

 

山本権兵衛は後に内閣総理大臣にまで上り詰める人物ですが、

彼の妻、登喜もまた遊女だったんです。