先日 ( 2014/05/06 ) に、山の上ホテルの辺りを歩いてから、ずっと気になっていて、
関連本を読んでみました。
常盤新平著:山の上ホテル物語 森裕治著:山の上ホテルの流儀
『山の上ホテル物語』は、作家としても泊ったことがある常盤新平氏が日本ダイナーズクラブの雑誌「シグネチャー」に連載したものを一冊にまとめたものです。
22回の連載をそのまま出版したらしく、同じ内容、文章が各章に重複しているのが残念なところ。
例えば関口達夫 ( 前総支配人 ) のエピソードは、「本館三十五室、新館四十室」 (p.33) にも出てくるし、「自前の社員」(p.88)にも登場します。
一年間便所掃除をさせられた話、羽田空港で客の勧誘を一日三組させられた話、上野駅での勧誘の後、とんかつ屋でビールを飲んでいたところに社長の吉田俊男が入ってきて叱られた話など、エピソードとしては面白いけれど、二度読まされるのはちょっとキツイかな w
連載を単行本にする際、作家の希望で連載当時のまま発行したいと言われれば、
そのまま発行せざるを得ないこともあるといいます。
しかしこの本の場合はカットや修正をしない意図がわからず、ちょっと残念でした。
一方『山の上ホテルの流儀』は、創業社長(吉田俊男)の外孫にあたる現社長が書いた本です。
「山の上ホテル物語」とエピソードが重複しているのは、出所が同じだから仕方ないが、こちらの方がよく書けています。
「作家の○○さんから贔屓にしてもらった」
「○○さんは○号室がお好きでした」
というような話は、古参の社員に聞いたものなのか、今ひとつ臨場感がないのは仕方ないかも知れません。
でも、読了して興味深かったことは色々ありました。
本書の中でとても気になったのは、石本恭子さんという女性の存在でした。
石本さんは「山の上ホテル」を語る上でなくてはならない人物だったようです。
彼女のことをもっと知りたくてネット検索したけれどひとつもヒットしませんでした。
どこぞでドラマにでもしてくれないものかしら、と思うのですけれど。。。
彼女についての記述は以下の通りです。
常盤さんの書いたもの、森さんが書いたものと二つあげましたので、読み比べてみてください。
しかし、彼女を知る従業員によると、礼儀をわきまえない客に対しては厳しかったし、ときに怒ったという。怒られた客はそれでも山の上ホテルに来ることをやめなかったそうだ。
吉田俊男は石本恭子のような婦人をエレベーター係にしていたのだ。彼女は一度姿を見せなかったことがあって、それは病気のためだったという。二度倒れたことがあって、けっして丈夫ではなかった。彼女は別館四階に住んでいた。
背の高い女性で、おそらく吉田俊男に負けない長身だったかもしれない。つねに黒いスーツを着ていた石本恭子は正面玄関からはいってすぐのエレベーターを運転して、山の上ホテルに気品を添えていたのである。
世界のどんなホテルにも石本恭子ほど淑やかなエレベーターのオペレーターはいなかったろう ( 彼女と言葉をかわするを楽しみにしていた客もいる )。これも吉田俊男という「趣味のいい、上品な」人物がいたればこそである。
そこには背の高い、美人で上品な雰囲気を持つ石本恭子という女性がオペレーションをしていました。聖心女子学院出身、父親は九州大学の名誉教授という名門家系で育った石本恭子の言葉遣いはもちろん、立ち居振舞い、気遣いも超一流でした。いつも黒のスーツを着こなし、他のお客様の迷惑になるようなお客さまにも厳しく接客していたので、それにたじろぐお客さまもいたらしく、だからといって厳しくされたお客さまがホテルに来なくなるということはありませんでした。石本恭子はこの山の上ホテルをとても上品なホテルにしていた従業員の1人です。
吉田俊男は、この石本恭子に別館の四階に広めの和室の部屋を与え、そこに住まわせていたくらいです。それほど、この山の上ホテルに対する貢献度が高かったと言えます。
石本恭子が亡くなった現在でも、古くから山の上ホテルをご利用してくださっていて、石本恭子を知るお客さまの中には「本当に気品のある女性だった」「彼女と話をするのが楽しみだった」とおっしゃるお客さまがいるほどです。
吉田俊男が優れたコピーライターであったことも興味深く読みました。
左は、『文藝春秋』『文學界』『文藝』に広告のコピーとして出されたものの一例。
山の上ホテルでは現在も、これらのコピーを使っているそうです。
吉田俊男は旧仮名遣いにこだわっていたそうです。
雑誌を読んだ人から『現代仮名遣いじゃない』という注意が寄せられても、面々と旧仮名のこだわりの手紙を返信したのだそうで、仮名のことは絶対に折れなかったとのこと。
『山の上ホテルの流儀』第4章に、そのコピーが32作ほど紹介されていましたが、それが全部 現代仮名遣いに直してある。
お祖父さまがこだわったものなのになぁ、一体どういうワケなのかしらと、考えてしまいました。