「杉林そのほか」は短編小説ではなく、
永井さんご自身の身の回りのことを書いた随筆と思われます。
永井さんの住んでいらした鎌倉のお宅のご様子や、
2人のお嬢さん (朝子さんと頼子さん) が結婚された時のこと。
娘たちが嫁いで奥様 (悦子さん)と二人になった頃のこと。
そして、同年輩の新聞社に勤めていた友人の死に際し、
永井さんがおくった弔辞が最後につづられているのですが、
そのひとつひとつがとても温かく胸をうつものでした。
特に最後の弔辞には涙が止まらないほど感動しました。
下の写真は、鎌倉在住の養老センセイのお宅と愛猫まるちゃんです。
「杉林そのほか」を読んで、こんな鎌倉の風景を連想してしまいました。
娘さんがお嫁に行く最後の晩の言葉がすてきでした。
「長い間、ほんとにありがとうございました」
と、上の娘は型通りな言葉に、懸命に、気持ちを籠めようとするので、
「どうも、なんのおかまいも致しませんで」
と、私は、とぼけた応答をした。
上の娘の眼がしらは光っているようだったが、それでみんな笑った。
長女が嫁いで、淋しそうな奥さまを察して、、、
妻は (中略) ぼんやりどこかを見詰めていた。
そんな横顔を、私に何度も見られていることすら、妻は気づかずに過ごす。
ある日私が、冗談めかして、しかし思い切って云ってみた。
「大阪へ行きたいな?」
すると妻は、ぼたんに涙をこぼした。
とても大粒の涙を、こしらえ物のようにつづけざままに落とし、それから、
「・・・へへ」
と、辛うじて笑いを声に出した。
これは、どうしても直接手に取って読んでみてもらいたいので割愛したのが、お友達への弔辞です。
本当に何度読んでも泣いてしまいました。
こんな温かい弔辞をいただいたご家族はたまらなかっただろうと思います。
永井さんは「剃刀のようだった」とか「怖い人だった」というお話がありますが、
道理の通らないことや、自分のセンスから大きく外れる物事以外には、
案外優しかったのではないかと、この作品を読んで感じました。
丁度、怒りん坊で知られる志賀直哉さんと同じような温かい眼差しを持った。