Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

『元華族たちの戦後史』 著:酒井美意子

駒場の旧前田邸を見学して、館に住んでいた人たちのことを知りたくなり、

図書館から、この本を借りてきました。

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酒井美意子さんは、前田邸に住んでいたお嬢様。

そうです、姉弟の中で一番でっかい部屋に住んでいた、あの長女でいらっしゃいます。

美意子さんは、幼少期をロンドンで過ごし、帰国後、女子学習院を卒業。

元伯爵家 ( 姫路城主 ) ・酒井忠元氏と結婚し酒井美意子となられた方。

二男一女の母でもあり、ハクビ総合学院学長、百合姿きもの学院学長をつとめるかたわら、

人生観やマナーなどの評論家としても活躍された方です。

 

筋がね入りのお姫ーさまである美意子さんは、きものやマナーの本の他に、

元華族としての特異な人生体験から《華族》《皇族》に関連するエッセーも多く書かれています。

彼女の文章は端的でハッキリしていて小気味がいい。

 

 

その美意子さんのエッセーなら、お母さまの菊子夫人のことにも沢山触れられているのではないかと思い、まずこの本を手にしました。

更には先日、前田邸のガイドツアーで聞いた進駐軍とのエピソードについてもわかるのではないかと、期待をして。。。

 

 

ここのところ、皇族・華族に関する資料を読み漁っていまして、

「梨本宮伊都子妃の日記」も面白くパラパラやっている毎日。

そんな伊都子妃とも美意子さんはつながっているのです。

当時の華族の系図を見ると、色々な縁組でつながっているから華族界も狭いものです。

 

下記のメモをご覧ください⤵ 汚い字でm(__)m

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鍋島直大(なおひろ)氏は、備前佐賀藩第11代 ( 最後の ) 藩主で、明治・大正時代の政府高官、位は侯爵です。

渋谷区民の私にとっては、渋谷区松濤に鍋島公園を作ったことでも身近な存在。

※ 鍋島公園は、維新で失職した武士を集めて茶園 「松濤園」を開いたのが現在の松濤・鍋島公園の由来です。

 

その長女・朗子(さえこ)さんが前田家15代当主・利嗣(としつぐ)氏に嫁ぎ、渼子(なみこ) さんを産んでいます。

次女・伊都子(いつこ)さんは梨本宮守正王にお輿入れして、後の方子(まさこ) さんを産んでいます。

※ 梨本宮方子(まさこ) さんは大韓帝国最後の皇太子・李 垠(り ぎん)さんに嫁しています。

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左上が、長女・朗子(さえこ)さん。  右上が、次女・伊都子(いつこ)さん

 

前田利嗣(としつぐ)朗子(さえこ)夫妻には男子がおらず、分家、前田利昭子爵から養嗣子をとり、その人が第16代当主・前田利為(としなり)となる。利為は利嗣・朗子の1人娘・渼子(なみこ)と結婚。

しかし渼子(なみこ)夫人が夫と同行したヨーロッパ滞在中に病没。

後妻となったのが酒井忠興の娘・菊子である。

 

そして利為・菊子夫妻の長女として誕生したのが、美意子さん。

美意子さんにとっては、第15代当主の利嗣さんも、朗子(さえこ)さんも血のつながりのない祖父母です。

でも系図にすれば2親等。伊都子妃は叔母祖父母なので3親等になる方です。

血族には養子縁組も含まれるので、当時の華族の血族・姻族の系図を見ると、

いろんな人と人がつながっていて興味深いところです。

 

さて。

またもや話がずれ初めていますが、

この本書ならば、私が知りたい菊子夫人のエピソードも書かれているのではないかと踏んだのですが、

当たりでしたピンポンでした

 

GHQに接収され、前田邸が改装された時の話もハッキリと書かれていました。

こんな感じ⤵

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字起こししてみます。

 昭和26年マッカーサー元帥が解任され、後任のリジウェイ大将が来日した。

そして極東空軍司令官のホワイトヘッド、タイガー、クラークらの校庭だった駒場の前田邸に入居が決まった。

 

 そのころ、母は高輪の別邸に住んでいたが、リ大将夫人に呼びつけられた。

この看護婦出身のリ大将夫人は病院の建物を理想と心得ているらしく、邸内の壁絹をはがして白いペンキを塗ると宣言し、母を仰天させた。

リ大将夫人は日系二世の通訳を通して次々に改装箇所をおごそかに言い渡す。

母は通訳を睨みつけ、

「お前はお黙り!  通訳を使うと間違いが生じるから、あなたと直接話しましょう」と夫人をたしなめた。

 

 それまで低姿勢の日本人しか見たことのないリ夫人はしばらくキョトンとしていたが、にわかに猫のようにおとなしくなり、

「私は日本人女性と英語で話せるとは思いませんでした。悪く思わないでください」と弁解した。

 

 しかし改装はあきらめず、イギリス王朝風の邸内をアメリカ病院風に変えさせてしまったのである。

酒井美意子著『元華族たちの戦後史』p.82より

 

前田邸でガイドさんがおっしゃっていたのを、だいぶ私が脚色してしまったようです。

正確なセリフや経緯がわかって、スッキリしました。

そして何よりスッキリしたのは菊子夫人の態度でした。

大将夫人に対して一歩もひかない態度で挑んだのは、プライドだったのではないかしら。

 

菊子夫人も播磨姫路藩の最後の藩主の孫娘であり、前田家第16代当主の夫人ですから、

滅茶苦茶凄いお家柄の姫さまです。

そんなお姫さまの「お黙り」は、そりゃあ迫力あったことことでしょう。

 

この本は、それ以外にも世間では知らないような華族の悩みや裏事情も色々書かれています。

ページをめくる度に驚くようなことが書かれている。

しばらくは華族問題から離れられません。

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参考資料