Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

うつくしが丘の不幸の家

 

町田そのこ著「うつくしが丘の不幸の家」を読了。

内容

築二十五年の三階建ての家を購入し、夫と二人で理美容の店をオープンすることになった美保理。

夢としあわせの象徴だったこの家だったが、朝、店先を通りかかった女性に「ここが『不幸の家』って呼ばれているのを知っていて買われたの?」と言われて愕然とする。

 

物語は、最後にこの家を買った美保理と譲の話からスタートし、

章を追うごとに、その前に住んでいた住民、その前の住人とさかのぼり、

代々の住民がこの家でどんな暮らしを営んでいたかがつまびらかになる。

 

第一章 おわりの家 美保里と譲の家

第二章 ままごとの家 多賀子と義明と長男、長女の家

第三章 さなぎの家、叶枝と紫とその娘・響子の家

第四章 夢喰いの家 忠清と蝶子の家

第五章 しあわせの家 真尋と健斗とその息子・惣一の家

 

 

感想

第一章には、主人公の美保理がこの家を買った理由、夫の父親との軋轢、美容師になった経緯、夫婦の経済状態や家の描写など、これでもかという程の情報量が詰まっている。

しかし彼女のおかれた状況や心情がスッと頭に入ってきたのは、著者の筆力のお蔭だ。

言葉のつぶだてやテンポもよく、ストーリーの交通整理もよく出来ているし、

他の章のどの主人公たちにも感情移入が出来て、最後は明るい気持ちで終れた本だった。

 

特に第一章の 信子の話が素晴らしい

「この家は不幸の家」と心ない話をした女性のことを、美保理が隣人の老婦人・荒木信子に打ち明けると、信子は、中傷した女性が誰なのかを瞬時に言い当て、こう言った。

「やっぱり。楠本さんって、舌の教育を受けていない方なのよね。分かりやすくて濃い味を大量に食べることが何より素晴らしいと思ってる。たくさんの手間と食材を使った料理を楽しむことを、可哀想なことに教わってないのよ」

 

いきなり何を言い出すのかと思ったが、信子は人の性格 ( 想像力や認識 ) をつかさどるものは、幼少からの食生活にあると言いたいらしい。

 

穏やかな老女だと思っていた信子の様子が急に変わって辛辣なことを言い出したことに驚く美保理だったが、その一言一言が美保理のみならず私の心にも突き刺さる。

誰にどんな事情があるのか、どんな理由でそうしたのか、そんなことは簡単に分かるものじゃないのよ。自分がまずたくさん経験すること、そして何度となく巡らすことでようやく、真実の近くまで辿り着くことができるの。それを怠ってる人に、そういう適当なことを吹聴されたくないわ!

 

 

新居の裏庭にある枇杷の大樹を「縁起が悪いから切りましょうか」といった不動産屋から、

美保理は《枇杷の木は死人を招くとか病人が出る》という言い伝えがあることを知る。

ところが信子は、こう言い放つ。

いつだって、そういう強い言葉だけが独り歩きするのよね

「枇杷の薬効を求めて、病人が訪ねて来る。薬を自宅の庭にも欲しいと思って種を植えても、枇杷の成長は早くて十三年。その間にそりやあ死ぬ人もいる、そういうことよ」

 

信子の話や考え方が、美保理の支えになった瞬間だ。

物語は、この後に続く四つ話、それぞれの住人の苦悩や幸福が描かれていく。

どの家族にもそれなりの事情があり、嫌なキャラクターも沢山出てくる。

主人公たちはおぞましい人間と環境に翻弄されるが、読了後 嫌な気分にならないのは、

主人公たちには必ず理解者がいたことにある。

 

 

この本を通して、

未経験で狭隘な人間の物差しや思い込みで、他人が幸せか不幸せかなどの判断はしてはならぬということを考えさせられた。

特に《家》や《家庭》は、《団らん》《幸せ》といったわかりやすいイメージでかたづけられがちだ。

ちゃんと物を見る癖をつけ、辛さや嬉しさをキチンと味わい、想像力を持って生きていないと、固定概念にとらわれた思い込みの激しい老人になってしまう。

この本は私に、そんな警鐘を鳴らしてくれた本だった。←ちと大げさ ( ´艸`)

 

 

この本を知ったキッカケは、つるひめさんが紹介していらしたから。

tsuruhime-beat.hatenablog.com

つるひめさん、いつも面白い本のご紹介、ありがとうございます。

 

 

さいごに装丁の話をちょっと

左 ) 文庫本   右 ) 単行本

  

 

つるひめさんが掲載していらした文庫本の表紙は、枇杷の木のある家のイラストだったが、

私が図書館から借りてきた単行本は、あえて無味乾燥な白ベースのものだった。

文庫本と単行本とで、このくらい違うアングルなのも珍しい。

 

文庫本 / カバーイラスト:大久保つぐみ(URL)  カバーデザイン:鈴木久美 

単行本 / 写真:mattjeacock/Getty Images+WW  装幀:岩郷重力+K.K

 

 

 

本日の昼ごはん

半田そうめん つーるつる

 

 

本日の夜ごはん

とろろいもの酢の物、昨日作った残り半分の春巻き、牛肉と豆苗のにんにく炒め

 

今日は緑の野菜が払底、仕方ないので冷蔵庫に生やしていた豆苗

 

昨日揚げた春巻きを温めたらシナシナの別もの、(´;ω;`)ウゥゥ

 

何もない日は、おすいとーん

 

冷蔵庫の買い替えを折に、フードストックを整理していたら「すいとん粉」というすいとんに特化した小麦粉が出て来た。

使ってみたら、普通の小麦粉の方が口に合う。

すいとん粉は、もちもち感を出すように何かが入っているらしい。

 

 

 

とじ込みは、各章の備忘録。これから読む方にはネタバレに。

第二章 ままごとの家 多賀子と義明と長男、長女の家

保守的な良妻賢母に育てられた夫は、妻・多賀子の育児方法や食事を愚弄する。

何でも家長の自分が正しいと押し付ける夫に、傷つけられる多賀子だったが、

高校生の息子が彼女を妊娠させてしまったことをキッカケに、家出をしていた娘とも再会。

家族がお互いを理解し尊重し、それぞれの人生を歩いていく。

 

第三章 さなぎの家 叶枝と紫とその娘・響子の家

叶枝かなえゆかりは高校の頃の同級生で親友だった。

男に捨てられて故郷に舞い戻った叶枝。紫は、高校時代から付き合っていた男とできちゃった婚をしたものの、夫に追い出され娘を連れて困っていた。

叶枝と紫は、高校の先輩・蝶子の所有する件の三階建ての一軒家を借り、三人の生活をスタートさせる。

叶枝は紫の家庭の事情は聞けないままだったが、紫の娘が幼い子どもらしくないことが気になっていた・・・ 

 

第四章 夢喰いの家 忠清と蝶子の家

蝶子が後輩に貸した家は、元々蝶子と夫忠清の住んでいた家だった。

誰もが羨やむ結婚生活だったが、忠清の男性不妊による妊活から夫婦は心身とも疲弊していく。

治療に根を上げた忠清は蝶子に離婚を申し出る。

 

子供が欲しいと言う忠清の《》に対して信子はこう諭す。

夢ってとても乱暴な言葉だと思うの

 

第五章 しあわせの家 真尋と健斗とその息子・惣一の家

真尋は恋人の息子で小学生の惣一と二人で暮らしている。

家主は恋人の健斗で、金遣いの荒い彼は息子と真尋を置いたまま帰ってこない。

ある日、真尋は惣一を連れてかつて自分を捨てた父親の家に行く。