Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

小川糸 『ライオンのおやつ』

 

小川糸 著『ライオンのおやつ』を読了



一昨日ドラマを観終わり、すぐ図書館に走った。

原作を借り、いっきに読んだ。

原作には、主人公の心の流れが丁寧に記されていて、面白かった。

 

瀬戸内海が一望できるホスピスで、マドンナを初めとする優秀なスタッフに囲まれ、美味しく滋養のある食事を供され、自由な時間を過ごすという暮らしの中で、雫が過ごした一ヶ月は、穏やかだったかというと決してそうとも言い切れない。

 

彼女が入居したホスピス「ライオンの家」には、他にも余命宣告をされた入居者がいて、彼女は4人の臨終を目の当たりにする。仲良く話をした人がひとり、またひとりと旅立っていくのを見て、眠れぬ夜を過ごすこともあったり、体調を崩してしまうこともあった。

 

ライオンの家の暮らし

ライオンの家に滞在する終末期の入居者は「ゲスト」と呼ばれている。

ゲストが亡くなると、24時間、エントランスのろうそくに明かりが灯される。

ゲストの亡骸は、この正面のエントランスから出て、荼毘にふされる。

病院で亡くなった場合は、そうではない。

亡骸は、人の目になるべく触れぬよう、ひっそり裏口から搬出される。

 

マドンナは、ゲストひとりひとりに、どういう風に最期を迎えたいかを聞いている。

例えば、雫の隣室のアワトリスさんの場合は、こんなこと。

アワトリスさんの部屋のドアを開けた時、私はまたぎょっとした。そこにいるのは、アイドルグループ、いや、正確にはアイドルに扮したおばさんグループだった。中のひとりは、マドンナだ。

  ~中略~

ベッドにはアワトリス氏が横になっている。顔が、土気色だ。記憶のアワトリス氏よりずいぶんと老けて、すっかり、おじいさんになっていた。アワトリス氏は、時々口元を動かし、カモメちゃんと一緒に歌おうとする。それを取り囲むおばさんアイドルたちは、歌に合わせて踊っている。

私がいることに気づいたマドンナが、私を、おばさんアイドルの間に手招いた。

「雫さんも、さぁ一緒に踊りましょう。昇天の舞いです。アワトリスさんの、たっての希望ですから。間に合って、よかったですね」

p.168

 

こんな終わり方があってもいいな

「こんな終わり方があってもいいな」

これは「シスター」と呼ばれる入居者の、ヘルパーさんがこぼした言葉だ。

ヘルパーさんは、シスターのことをこう話す。

「余命数日って言われて、緊急退院して「ライオンの家」に来たんだけど、毎朝お粥が楽しみなのと、また大好きな編み物ができるようになったら、みるみる元気になっちゃって、認知症とか心不全とか、他にもいろいろあるんだけど、ここにいると寿命がのびたのね。だからまだ、お迎えが来ないの」

 

「ずっと修道女として生きてきた方なのよ。シスターだった頃は、自分にも他人にも本当に厳しくて、人も動物も、蚊でさえ寄りつかないくらいだったんだけど、病気になって、認知症にもなったら、自分が修道女だったってことも、きれいさっぱり忘れてしまったの」

 

「シスター、本当は修道院で暮らすのが嫌だったんだよね?初恋の人がいたんだよね?イエス様より初恋の源太さんの方が好きだったんだよね?」

ヘルパーさんがそういうと、

「源太さん」

シスターは、甘酸っぱい飴でも口に含んでいるみたいに、恥ずかし気に顔を両手で覆い隠した。

p.67

 

読者の中には「こんな終わり方に憧れる」という方も多いようだ。

だが私は正直、複雑な思いがした。

ヘルパーさんの言う通り「こんな終わり方があってもいいな」とは思う。

 

だが。

叶うことなら

大好きな人にそばにいて貰って死にたい

そうじゃない

大好きな人に『ありがとう』と別れを告げてから死にたい

 

「ライオンの家」のゲストは、もも太郎ちゃんという小学生を除いては家族の気配がない。

身寄りがないからここを選んだという人が多いのだろうが、

雫はどうかというと《お父さん》がいる。

「雫は、お父さんとキチンとお別れをしなくていいのか」と思ってしまった。

 

雫は強い人? 孤高の人?

この本を読んで、ある種の違和感を感じたのは、そこだった。

雫は幼い時に両親を事故で亡くし、母の双子の弟--雫にとっては叔父に育てられた。

雫は叔父を《父》と慕い、叔父も雫を《娘》として愛した。

そんな《父》が、雫が高校一年の時「結婚したい人がいる」と言ったことから、

雫は《父》の元を離れ、一人で暮らすことに決める。

雫にとって《父》の結婚はショックだったようで、相手の女性とは一度も会わず仕舞い。

今でも、父から結婚したい人がいると告げられた時のことを思い出すと、胸がきゅーっとしめつけられる。私は、父に裏切られたような気持ちになったのだ。悲しかったし、悔しかった。私が食事の支度をし、父が仕事から帰るのを待って一緒に食べるという暮らしが、当たり前になっていた。だから、そんなふうにずっとずっと、父がおじいさんになっても、同じ屋根の下で暮らしていくんだと勝手に思い込んでいた。

p.149

それほど雫は《父》を愛していた。

《父》との間には、幼い時に亡くなった両親とよりも濃密な思い出があった。

マドンナにその話をした時、雫はこう吐露している。

「嫉妬したんです、幼過ぎます」

そんな大好きだった《父》に、雫は最後に会いたくはなかったのだろうか。

 

雫は、癌のこともホスピスのことも《父》に知らせず、ひっそりと死のうとしていた。

ドラマでは、ホスピスにいることを知って駆けつけた《父》とその家族と対面し、

「これから先はやつれた姿は見せたくないからもう来ないで。葬式にも来なくていい」と言う。小説では、多少穏やかだが、「看取らなくても大丈夫」と言っている。

 

だが。

どちらの雫も「お父さん、今までありがとう」の言葉はなかった。

 

《父》が、ホスピスに駆けつけられたのも偶然だった

《父》がホスピスに来れたのも、雫が知らせたのではなく、

雫と連絡が取れず心配になった《父》が、雫の友だちを辿ってホスピスにいることをつきとめたからだ。仮に《父》が友だちの連絡先を知らなかったら、雫が死んだのさえ分からず仕舞いだったわけだ。

 

そんなの親不孝じゃない?

小説の終盤に、《父》の元に雫が亡くなった知らせが届き、

《父》は、家で奥さんと娘と献杯するシーンがある。

「雫が、病気のこと何も言ってくれなかったり、その後のことも全部ひとりで済ませようとしてたりしたって聞いて、お父さん、正直、落ち込んだんだ。もっと頼りにしてほしかったし、雫が辛い時こそ、助けたかった。自分が、情けなくてね。

だけど多分、こうすることが、雫なりの生き様っていうか、哲学を貫いたのかなーって思うようにしたんだ。しーちゃんはきっと、幼いうちから、人が孤独なんだってことを、しっかりと受け入れていたのかもしれない。だからしーちゃんは、いい子じゃなくて、強い子だったんだなぁ、って思うよ」

p.235

 

これだってもし、雫と最後の別れが出来なかったら、死んだのさえわからなかったら、

《父》の落胆はこれではすまないだろう。

 

物語は「雫は強くて、信念があった」という描かれて終わっている。

多くの人が感動し涙する小説に水を差して申し訳ないが、

やはり父子の情愛がここまでというのは寂しすぎる。

 

雫には「1人で死のうと思っていたけれど、やっぱり最後には《父》に会いたい」と思って欲しかった。どうしても、やつれた姿を見せたくないというのなら、手紙でもいい。

「お父さん 今までありがとう」という言葉が欲しかった。

人が死ぬということは、自分だけで完結できるものでもないように思うから。

 

 

 

本日の昼ごはん

なんだかとてもショッパイ汁なしラーメン

 

 

本日 4時に食べた夜?ごはん

仕事に出かける前に、少し食べていきたいというのでこの時間

 

 

本日の夜食

 

白ワインを峰子飲み