北方謙三 著『弔鐘はるかなり』読了。
1981年10月25日発行 集英社版で読む。
本作品は、北方さんのハードボイルド小説でのデビュー作。
大学時代より純文学を執筆し『明るい街へ』が雑誌『新潮』編集者の目にとまり1970年3月号に掲載。実質的のデビュー作は『明るい街へ』だが、その後の10年間は100本書いて雑誌掲載は3本のみだったという。
そうした数少ない採用作をまとめてはどうかという相談を持ち掛けた集英社の若手編集者と話をするうち、「暗い話を書いている場合じゃない」と路線転換を進められ、書いたのが本書『弔鐘はるかなり』だった。
つまり。
本作は作家としての下地が充分あった上での作品。
北方さんは見事なストーリーテラーであると同時に、豊かな表現力を有する作家さんだと改めて実感。北方さんの描く主人公の《生き方》に信念があり、ブレがないのが素晴らしい。
【本の内容】
神奈川県警の刑事・梶は、後輩刑事の吉村が惨殺され、気のいい売春婦・ミミまでが射殺されたことに怒り、復讐を誓う。麻薬密売組織の五島組や一竜会を叩くが、空振りに終わり、拳銃密売組織に狙いを移した。一番怪しい人物は高崎、だが彼は胆石手術で入院中だった。そのうちに、吉村の遺品を処分した者が浮かび、追った梶は五島組のヤクザを2人射殺してしまう。ところが彼らは、吉村殺害の犯人ではなかった。梶に反目する刑事の須藤が彼等のアリバイを立証し、梶は警察を去ることになる。病院から高崎が消え、捜査は振り出しに戻った。
4年後、梶は貿易会社を譲り受けて、社長業に専念するが、「高崎が横浜に戻っている」という噂を聞き、吉村とミミ殺しの真相を解明するべく動きだした。
千葉県警・横浜県警の刑事たち、3つの暴力団、裏の人物らの関係性や対立構造が複雑で、途中迷子になりそうになったが、話のリズムがよいので面白くなんとか最後まで読めた。だがブログを書く段になると相関図でも作らなければわからない気もして再読しなければならなかった。
血生臭いアクションシーンの連続だが、その意味はちゃんとある
惨殺された後輩刑事の死体描写は凄まじい。
可愛がっていた後輩や売春婦の殺されようが酷いだけに、主人公の怒りが大きいというのも納得せざるを得ない。刑事を辞めたあとの彼の行動は、暴力団が引くほど暴力的で、真相をつかむ為ならリンチもいとわず、躊躇も容赦もなく鬼のようだった。
読んでいて気分が悪くなるほどの描写の連続だが、主人公の怒りの理由がハッキリ描かれているので後味としては悪くない。
面白い作品だが「とても映画化はできないな」と思わせる作品だった。
本日の夜ごはん
MOURI が見事な栗を買ってきてくれたので、栗の唐揚げを作った。
取寄せのさつま揚げはどれも美味しい。
今回はレンコン。
とじ込みは、登場人物が複雑なので人物像をメモしたもの、個人的な備忘録です
梶礼二郎……梶商会という貿易会社を譲り受けて社長業に専念しているが、四年前は刑事
牛島源次……情報屋45歳。最近十五も下の女と結婚。梶は3年前から牛島に故買屋を始めさせている。牛島は盗品を梶商会に流す。梶はそれを正式に輸入したスコッチに紛れさせて販売。そこで得た利潤を分けていた。
加茂井哲也……源次を「親父さん」と慕う若者、源次が13の時から面倒をみてきた元不良。
高崎隆之介……拳銃の密売屋。実は陳の懐刀。
佐藤明美……高崎の娘で高崎がヨコハマで探し回っている
佐藤道江……高崎の情婦、六本木でフローラという喫茶店をしていた。ひと月前に千葉で交通事故死。事故として処理されたが、岩田刑事がタレコミで殺人として捜査をし始めたところ。
藤井剛……厚生省の麻薬取締官 4年前新米の取締官だったはじめての潜入捜査の最中、梶が容疑者を2人射殺した事件を知っている。その時に殉職した吉村刑事のことも。
梶の車に二度乗り込んでいる。
潮田……梶商会の社員。梶のの右腕、雑務の大半は気ままな梶に変わってこなしている。仕事の腕は梶より上だが自分で起業は考えておらず、女房と三人の子供に潤いを与えることが生き甲斐になっているような男。
木下郁子……梶商会の事務員。
陳……高崎が乗ってきた飛竜丸をチャーターしているのは陳という香港の華僑。
実は日本人で佐藤泰久という。招集され戦死したとされていたが華僑の陳志剣として日本に戻る。娘は道江、孫娘が明美。道江の情夫が高崎。
神奈川県警捜査四課 原口……老練で、嘘がせを流して人を踊らせるような真似はしない刑事だが、、今回は警察は動かないから高崎の情報を梶にまわしてきた。
須藤……今は警部。梶に恨みを持っているようで梶の会社と源次を付け狙う。須藤の妻は派手好きで見栄を張る女、哲を使って200万の借用書をとって、須藤の弱みとしてもっているようにしよう。
岩田……千葉県警の警部。梶とは学生時代の柔道仲間。
笠井孝重郎……黒幕、年寄
一竜会……横浜の暴力団、木島は若頭。東神会と手を組んで五島組を対抗しようとしている。そのために手っ取り早いのが、五島組の覚せい剤ルートをつぶすこと。つまり香港ルート。
木島……梶の罠にはまり、マンションにやってきた。バスルールに放り込んで熱湯をかけられ全身火傷。
黄英明……県警が医師法違反で検挙した偽医者、ところがその後黄が偽名で日本名があり医師免許も持っていたことが判明。高崎とは中学が同じ。二人は名古屋にいた。医師法違反の弁護士を手配したのは高崎。
梶が五島組、須藤が一竜会。p.74
五島組……横浜で強い勢力を有する暴力団。バッグに陳。
佐和圭一……神奈川県警捜査一課の部長刑事。部屋長 ( 甲板長 ボースン ) 藤井は佐和の甥っ子。
千葉の東神会……一竜会に加担? 横浜に進出。エコールという店。
陳と明美の名前が出ていた。道江を殺したのはこの組か。
桐島一衛……振興右翼、もともとは全協のころ日供の若手活動家だったが、除名され、60年に安保では右翼として登場してきている。熱烈な支持者を持ってはいるが、実態ははっきりしていない。直接の配下は2~30年くらいのものだろうが、県内の暴力組織に影響力が強い。桐島の影響力が強いのが東神会。香港ルートをつぶそうとしている張本人、陳の敵。