君嶋彼方 著『春のほとりで』読了
この本は、昨年の10月によんばばさんがブログにあげていたので読んでみたくなったものだ。
hikikomoriobaba.hatenadiary.com
本作品 ( 短編集 ) の主人公たちは、スクールカーストにさらされ、周囲の目を気にして学校生活を送っている。
- 同性にしか興味を持てない男の子
- 老け顔でいじめにあう男の子
- 昔肥満だったことを隠したい女の子
- クラスのナンバーワンになりたい男の子
- 漫画家を目指し孤立する女の子
彼らはみな、人に言えないコンプレックスを抱えていて、クラスメイトにそれを悟られたくないという自負心や引け目を持っている。
悟られたくない理由はプライドだったり、からかいや虐めにあうことへの不安だったり、クラスの立ち位置が揺らぐという怖れだったりするのだろう。
大人になって振り返れば、取るに足らないと思われることでも、高校生にとっては大問題に違いない。
よんばばさんも「当時はスクールカーストなどというものもなく、私は学校に行くのも全然嫌じゃない、いやむしろ楽しいくらいだった」と書かれているが、私も同感だ。
遠い昔に高校生だった私は ( 女子高だから特に ) 異性と付き合いもないウブな生徒だったし、実にのんびりした学校だったから、虐めやスクールカーストの経験もない。
だからドラマや本で
各章のいろいろは最終章で明らかになる
《いろいろ》とは、最後まで読むと年代・違和感の意味・名前の仕掛けなどがわかってくる。
まず一つ目は年代のことだ。
同じに思っていた短編だが、「走れ茜色」「灰が灰に」「真白のまぼろし」の三作と、 「樫と黄金桃」「レッドシンドローム」「青とは限らない」の三作は、同じ学校が舞台だが10年程度違う二つの世代の話だった。
二つ目に、個人的に感じたある違和感の意味が、最終章で納得でした。
違和感とは、短編のそれぞれのラストが妙に淡白で尻切れトンボに感じたことで、それはもしかすると作者の意図なのかも知れないと思った。
作者は、この短編が《高校生活の1ページ》であることを示唆し、《この子たちの明日は全く違うものになっているかも知れない》という予感と期待を込めてあえて完結形にしなかったのではないかと思った。
最終章は、各章の登場人物たちが再登場し、関係性や年代が明らかになっていく。
同じ人を好きになった二人が推しの話をしていた教室から飛び出し、時を経て同じ学校で新たな関係性を築いていたり。( 第一章 )
使い走りをさせられた男子と、それを頼んだ男子とが、時を経ても腐れ縁の付き合いをしていたり。 ( 第二章 )
ペンネーム近藤ハナノで漫画を描いていた女子が、時を経て花野マイという名で「ホワイトパレット」という人気作を生み出していたり ( 第五章 )
かつての高校生たちが、最終章で今の高校生と繋がっている。
だから。
大ブタ小ブタと言われた二人の女子の未来も ( 第三章 ) 、
自分がどんな形でレッド ( 主役 ) になっていくかという男子の未来も ( 第四章 ) 、
妙に気の合う男女が誰と恋を成就させるかという未来も ( 最終章 )
尻切れトンボの感じの方が現在進行形の雰囲気を残せて、未完のままに終われて良いのかと思った次第。
三つ目は、この本の登場人物の名前がややこしいこと。
名前を姓で呼ぶ人がいたり、名で呼ぶ人がいたり、渾名で呼ぶ人がいたり、親が離婚したのか姓が変わっている子がいたり、、、長い髪で椿という名だから女の子だと思って読んでいたら実は男子だったと気づいたり、、、一度では理解不能な書き方だった。
それが全編通して登場する冬木先生という人物に繋がっていることから、それをヒントに読み直し、登場人物の名前を洗いなおしてみると、意外なところに意外な人物が再登場していることに気づく。
短編をまたがって人物を登場させる手法としては、
青山美智子さんが書く「木曜日にはココアを」「お探し物は図書館で」などの人気作がある。
本作は青山作品に比べて、種明かしが難解で、少し凝り気味ではあるが、これもまた再読の愉しさを与えてくれる本だなと思い堪能した。
本日の昼ごはん 2024年12月22日
美登利寿司のバラちらし
本日の夜ごはん 2024年12月22日
かつおのサラダ
もつ鍋
この脂、体が温まること間違いなし
〆に、ラーメンを投入
とじこみは、作品のあらすじと登場人物を備忘録にしたものです。
これから読む方のお邪魔になる可能性もあるので飛ばしてください。
第一章「走れ茜色」
佐倉君は、野球部の秋津悠馬 ( 同性 ) を恋して彼が部活を終えるまで教室から見ていている男子高校生。そんな佐倉君に同級生の新藤梓が近寄ってくる。梓もまた秋津君に恋する女子高生。同じ人を好きな二人はやがて放課後の教室で話をするようになる。
※ 佐倉君 ( 後の芥川先生 ) 、進藤梓 ( 後の姫ちゃん先生 )
第二章「灰が灰に」
長見月斗は、老けた顔と気弱な性格の為に「おっさん」というあだ名をつけられ同級生に使い走りをさせられている。おっさんは安東君からパンを、古村君からは煙草を使い走りにさせられている。長見くんは気の弱さから使い走りを「ミッション」と諦めているが、屋上で会うようになったヤンキーの古村君とは燕を通じて話が合うようになり友好を深めるようになる。
※ 古村君の下の名前はこの章では明かされていないが、髪が長い、弟がいる、兄弟とも変わった名前という記述がある。→古村くんは椿という名で、後に早見椿となる
第三章「樫と黄金桃」
南波
※ 千夏……他の学年にも知られているくらいの美人でモテる友だち。
※ 彩美……特別綺麗とか可愛いとかいうタイプではないが、華やかで社交的な友だち
※ 姫ちゃん先生、芥川先生登場
第四章「レッドシンドローム」
椎名赤彦は、関西弁でクラスメイトを笑わせ人気者ナンバーワンの座を狙っている。赤彦には内野と三島と早見
※ 早見君の家で、髪の長い兄の椿と、小太りの男 ( 長見くんと思われる ) が登場
※ 成瀬千夏……椎名が好きな女子で、早見のセックスフレンド
※ 漫画「ホワイトパレット」 作者は花野マイ
第五章「真白のまぼろし」
舞沢雛は、見た目のコンプレックスから孤立し、漫画家になるべく邁進。そんな雛に人気者で性格の明るい遠野華乃子が作品を見せ合おうと迫る。華乃子もまた漫画家志望とのことで、最初は拒絶していた雛だが華乃子に押し切られる形で作品を見せ合うことになった。雛は華乃子の絵を見て、自分にプロットは上手いが作画の才能がないことに気づく。一方の華乃子は逆で、めっぽう絵は上手いが、幼稚な話しか書けない子だった。「ねえ、雛ちゃんがお話考えて、私が絵を描くのってどう?二人で共同名義で漫画家にならない」華乃子の提案に雛は。。。
最終章「青とは限らない」
演劇部の鹿島絢子と野球部の三宅睦月は、一学期で隣の席になって以来、妙に気の合う間柄。別に付き合っているわけではないのに、早見君と千夏がイチャついてる現場に遭遇したことがキッカケに、クラスメイトから鹿島と三宅もデキていると誤解されてしまう。文化祭の呼び物で椎名君が「カップル誕生」のイベントを企画、椎名君は姫ちゃん先生&芥川先生に出演依頼をするが断られ、鹿島&三宅に目をつける。
※ 絢子の愛読書は「ホワイトパレット」
※ 大房雀子 「絢子あんたやるじゃん」とドタドタ登場
※ 南波さん 「雀子。そういうのやめなってば」と登場、クラスの一軍的存在
※ 姫ちゃん先生 芥川先生
※ 文化祭に来ていた姫ちゃん先生たちの同級生は、椿と長見
※ 花野マイは遠野華乃子のペンネームらしい。華乃子も姫ちゃん・芥川と同級生