朱野帰子 著『対岸の家事』読了

「専業主婦なんか、絶滅危惧種だよね」
村上詩穂は、今ドキ珍しい「専業主婦」。居酒屋に勤める激務の夫と、おてんばな2歳の娘。 決して裕福ではないけれど、家族のために専業主婦という道を選んだ詩穂のまわりには、同じ主婦の「ママ友」がいなかった。娘とたった二人だけの、途方もなく繰り返される毎日。 誰でもいい、私の話を訊いて――。
幸せなはずなのに、自分の選択が正しかったか迷う詩穂のまわりには、苦しい現実と戦う人たちがいた。
二児を抱え、自分に熱があっても仕事を休めないワーキングマザー。 ( 長野礼子 35歳 )
医者の夫との間に子どもができず、患者たちに揶揄される主婦。( 蔦村晶子 26歳 )
外資企業に勤める妻の代わりに、二年間の育休をとり、1歳の娘を育てる公務員。( 中谷達也 30歳 )
夫に先立たれ、認知症の兆候が見え始めた中年の主婦と、結婚よりも仕事を選んだその娘。( 坂上さん 70歳 )
頑張り続け、いつしか限界を迎えた彼女たちに、詩穂は専業主婦として、自分にできることはないかを考え始める――。 どうしてこんなに大変なんだろう? 特別なことなんて、ひとつもない。何気ない日常でさえ必死でもがく人たちを描く、リアルファミリーストーリー。
この本を読めばきっと、明日が来るのが待ち遠しくなる!
何気なく借りた本だったが、経験したことがない生き方をしている女性が沢山登場する物語で、ひとつひとつのエピソードに「そうなのか」と驚くことの連発だった。
例えば。
現在はワーキングママが主流で、専業主婦が《絶滅危惧種》などと言われていること。
それならワーキングママが働きやすい環境でなければならないのに、制度が整っていないこと。
印象的なケース 長野礼子
3歳の息子と生後半年の娘を抱える長野礼子は、花形の営業部から総務部に異動になった。営業スキルの高い礼子は総務部でも辣腕を振るい、やる気の見えない同僚のイマイをひそかに見下している。だが子供の具合が悪くなり早退・欠勤を繰り返す度、イマイに頭をさげ業務を代わってもらわなければならない。
だがそれも、今度こそゲームオーバーだと思った。
子供が水疱瘡にかかってしまったからだ。
彼女は家事と育児と仕事を綱渡りでこなしてきたけれど、はじめて「もう無理」とつぶやいた。
このシーンを読んで、スタッフサービスのCMを思い出してしまった。
彼女はまさにこんな状況だったのだろう。
長野礼子の境遇で、もうひとつ驚いたことがある。
《上の子と下の子で同じ保育園に入れない》 のが日本では普通になっていることだ。
専業主婦で世事に疎い詩穂は驚く。
「それじゃ送り迎えが物凄く大変じゃないですか。園の行事も二倍になるから親の負担は大変ですよね」
でも今は、二人とも子供が預けれたということが奇跡で、ありがたいと思わなければいけないらしい。
霞が関の役人で、現在 妻の仕事を優先し自分がイクメンをしている中谷達也が、説明する。
保育園の審査は点数で行われます。両親ともフルタイムなら40点。上の兄弟が入っていれば、さらに1点。一年か二年まではこれで兄弟が同じ園に入れました。
しかし、1人目でも認可に入れなかった、いわゆる待機児童が爆発的に増えて、状況は変わりました。プラス2点もっている待機児童が募集枠を埋めてしまうと、上に兄弟がいる子もはじき出され、第二希望以下の園に回されてしまうんです。なので兄弟の園というのは今はもう ( 別というのは ) よくあることなんです。
p.85
詩穂は信じられないという顔をして、達也に聞く。
「園同士で相談して、できるだけ兄弟一緒にするとか、できないんですか?」
「できないですね」中谷が言った。
「なんで?」
「審査は保育園ごとに縦割りで行われ、横の調整はしないんです。兄弟別々でも認可に入れたのだから、問題は解決、後は親が努力しなさいというのが保育課の言い分です」
「へえ、いかにもお役所って感じですね」
詩穂は小さな顎を上げて怒ったように言った。
「そんなことになってたなんて。っていうか、中谷さんはなんで知ってるんだすか」
「あなたが無知すぎるんですよ。今の親はみんな産む前にそれくらい調べます」
中谷の言う通り、働く親にとって当たり前の話だ。わざわざ説明する必要はないと礼子は思っていた。
「そうかなあ。テレビでもそこまで言ってないし、みんな知らないと思う。会社の人は知ってるんですか?」
「・・・それは、知らないと思うけど」礼子は口ごもる。
そもそも子供の話自体、職場ではしにくい。人事部も入園に必要な勤労証明書は作成されたが、別々の園なんですか、とは問われなかった。
p.87
礼子の章で、イマイが言う「無理ゲー」と言葉も印象的。
「ルール設定がめちゃくちゃだったり、厳しすぎたりして、誰もクリアできないゲームのことです。ファミコン初期のころに出回ったんです。お年玉を貯めて買ったのがそれだったりすると腹立って、ゲーム会社に電話したこともありますよ。クソゲーとも言います」
「クソって」
礼子は笑った。それじゃゲームオーバーになっても仕方がない。
「長野さんも電話したほうがいいですよ、まずはその保育課ってやつに」
イマイは涙の乾いた目で礼子を見た。
「ゲームでも同じです。プレイする側がバグを見つけて、メーカーに報告することなんかざらですよ。そうやって業界を育てていかなきゃだめなんです」
「業界を育てるか」
そういう発想はなかった。
p.104
あぶなっかしい知識の詩穂がこんなことをつぶやいた。p.88
海に降る雨についてなのだが、これが妙に待機児童問題にシンクロしている気がした。
海の上に降る雨は、本当に降っているのか確かめられないんですって。
衛星でだいたいのことはわかっても、正確には観測はできないからなんですって。
海にはレーダーが建てられないから。
たまたま通りかかった船だけが、その雨をみる。
それじゃ、自分が見ていなかったら、なかったことになってしまう雨ですよね。
「保育園落ちた日本死ね!!!」
2016年 ツイッター投稿された、待機児童問題を批判すコメントで話題になった言葉だけれど、汚い言葉だから人びとの心に突き刺さったのだと思う。
そしてこの発信がなければ、わかっていそうで気づかなかったことにされている 問題だっただろう。「保育園落ちた」が発信されなければ、待機児童問題も “ほんとうに降っていたか確かめられない海” と同じようなことかも知れないと感じた。
この本には専業主婦の悩みだけでなく、イクメンの悩み、なかなか子供ができない奥さんの悩み、認知になり始めた母と娘の悩みなど、当事者でなければわからないような心境がいくつも盛り込まれている。
こういった肩ひじ張らない軽いタッチの小説で様々な社会問題が提起されているのに驚いたが、こういった本からの方が、ストレートに心に届くこともあるのだと思わされた読書だった。
『対岸の家事』は、今春ドラマ化されるらしい。
主人公の詩穂は多部未華子さん、これはナイスキャスティング!
夫・虎郎役は一ノ瀬ワタルさんで、父親役の緒形直人さんというのもピッタリだと思う。
礼子役の江口のりこさんと、中谷達也役のディーンフジオカは、私のイメージと違うが大はずれではないから、放送が楽しみだ。
因みに私は、礼子は二階堂ふみ、中谷は瀬戸康史、坂上さんは市毛良枝で読みました。
本日の昼ごはん 2025年03月18日
ナポリタン 菜の花と香燻で作りました


本日の夜ごはん 2025年03月18日
ありあわせが並ぶ食卓

肉じゃがは今日が最期

ナポリタンも、カリフラワーも、ハンバーグもどこかで見たよな ( ´艸`)

親友MAMAからいただいて感動してから、お店にとちあいかがあると吸い寄せられて買ってしまいます。
これは一番最初にもらったのに近かった。カフッという固めの食感が。
