大石英司 著『神はサイコロを振らない』読了

初版本:2004年12月20日 中央公論新社刊
文庫本:2005月12月20日 中央文庫
底 本:2018年10月20日 中央文庫 9版
《神はサイコロを振らない》なんと素晴らしいタイトルだろう
最初にこのタイトルを知ったのは、この本のドラマ化だった。
ドラマは全話観たはずなのにラストはうろ覚えだったので、改めて原作を読み直すことにした。
【あらすじ】
1994年に忽然と消息を絶った報和航空402便YS-11機が、10年後の2004年に羽田空港に帰還した。しかし68名の乗員乗客にとって、時計の針は10年前を指したまま……
戸惑いながらも再会を喜ぶ彼らとその家族。
だが乗客に残された時間は3日と期限つきのものだった。
3日の期限つきとは・・・
消息を絶った旅客機は、当時 墜落事故として処理された。
だがそこに異論を唱えた男がいた。
「事故ではない、マイクロブラックホールを横切ってしまったものだ」そう力説した東大の物理学者・加藤久彦は、トンデモ扱いされ東大を追われていた。
だが、加藤教授の計算によると、旅客機と乗客は2004年に一度現れ、その3日後にまた1994年に逆戻りした後に墜落するとのこと。
つまり死んだと思われた乗客は、10年後の世に帰還したかと思うと3日後に再度ワープして、今度は本当に死んでしまうのだ。
加藤教授の話は当時は誰にも信じてもらえなかったけれど、羽田に旅客機が帰還したことから、空港関係者は、遺族 ( 亡くなっていなかったので遺族ではなく家族 ) に連絡を取りはじめる。
この物語は、そんな悲劇の乗客と家族の3日間を描いた人間ドラマだった。
乗員乗客には、世の中にはどこまで伝える?
乗員乗客にとっては飛行機に乗っている時間は一日だった。10年も経っていることを説明してもなかなか信じてもらえない。空港関係者 ( 世話人 ) は、彼らが降り立った世界が10年も経っていることや、3日後には本当に消滅してしまうことを説明しなければならない。まずはこの10年間で当人たちの環境がどう変わってしまっているかを個別に伝える作業から始まった。
※ 乗員乗客とその家族以外には、彼らが3日でまた消えてしまうことは発表していない。
登場人物はかなりの人数
この本に出て来る人物はなかなかのものだ。

文庫の裏表紙には《搭乗者は68人》とあったが、本に描かれているのは23人程度。
そこに関係者を足すと倍近くの人物が右往左往するわけで、普通なら途中でわからなくなりそうなのに、迷子にならずに読めたのは作者の力量の高さによるもの。
ひとりひとりのキャラクターがうまく描き分けられ、進行も上手に整理されていたから最後までサクサク読めて面白かった。
特に面白かった人物
当事者のそれぞれのエピソードも感動したが、
私は、彼らに関わる三人が活躍する話が好きだった。
ひとつは、川崎市の2人の役人の活躍。
広報課の橘と、福祉課の御崎は、旅客機に一人で搭乗していた5歳児の父親捜しに奮闘する。
黒木亮君が飛行機もろとも行方不明になった後、両親は離婚した。母親はアメリカで再婚。父親はリストラされホームレスになっていた。
橘は半年前、手癖の悪いホームレスの盗品を警察から預かり、その中にあった写真が黒木亮くんであったと気づく。盗品の持主の名は「黒木誉」というから父親だ。橘と御崎は管轄区域でホームレスを捜索し、見つけたホームレス ( 父親 ) を風呂に入れ、散髪し、靴や服を調達し、病院で点滴、歯医者の治療までして空港に送りだすのだった。
もうひとつは、ノンキャリア急行組の婦人警官の活躍。。
頼近恵は、卒論テーマが『SFドラマに見る未来社会の明と暗』だったことから、捜査に引っ張り出されるコミケオタクの婦人警官。
荒唐無稽 ( ブラックホールやワープやタイムトラベル ) の今回の案件に瞬時に適応しそうだと声がかかったらしい。
頼近が呼ばれたのは、乗客の一人が殺人犯( 佐古圭 ) だったからで、犯人捜査をしている内に、もう一人の乗客 ( アイドルの阿川沙耶 ) が起こす事件にも巻き込まれてしまう。
阿川沙耶はそこそこ売れていたアイドルで、マンションを付き合っていたプロデューサー名義にして旅客機に搭乗し事故にあう。戻ってくるとプロデューサーは二人で住むはずのマンションを売却し、その頭金で高層マンションを購入し沙耶の後輩アイドルと所帯を持っていた。怒った沙耶は妻を刺し殺し、赤ん坊を人質にマンションに籠城。
頼近は、沙耶と同年代で女性ということからネゴシエーターをなる。
とそんな話なのだが、この頼近恵は脇役にも関わらず面白いキャラなのだ。
多分 作者も乗っていたのだろう彼女の奮闘劇は、スピンオフの刑事ドラマのようで愉快だった。
最初は、SFものと思って読み始めた本だったが、《人がひとり居なくなると周囲の人にどんな影響があるのか》といった人間ドラマが、✖ ( かける ) こと乗客分 描かれている超大作群集劇で、どの人物も真っすぐ自分を見つめて人生を全うする姿が悲しく潔く、心にささった。
日本テレビでドラマ化されたものは、私が好きなキャラクター ( 橘や御崎や頼近 ) が割愛されているのが残念。
でももう一度ツタヤでDVDを取り寄せて観てみようと思う。
「神はサイコロを振らない」の語源
因みに、「神はサイコロを振らない!」とは、物理学者アルバート・アインシュタインの発言に由来する格言で、量子力学の解釈に否定的に言及した際に使った言葉。
アインシュタインが、1926年にマックス・ボルンへの手紙の中で書いている文章。
„Die Quantenmechanik ist sehr achtunggebietend. Aber eine innere Stimme sagt mir, daß das noch nicht der wahre Jakob ist. Die Theorie liefert viel, aber dem Geheimnis des Alten bringt sie uns kaum näher. Jedenfalls bin ich überzeugt, daß der nicht würfelt.“
「量子力学は非常に素晴らしい。でも、内なる声が、これはまだ本物ではないと告げている。理論は多くのことを示しているが、古代の謎に近づくことはほとんどない。いずれにせよ、彼はサイコロを振らないと確信している。」
2025年06月06日 昼ごはん
あごだしうどん きのこづくし


2025年06月06日 夜ごはん
本日はレバニラと、三品盛と、昨日Oさんに買っていただいたグリーングルメのサラダ

総菜サラダは、島豆腐とアボカドとわかめのサラダで付属の柚子胡椒だれが絶品。
ふた袋ついていたので、ひと袋使って、残りは後日何かに使おう。

原材料を見たら、普段私が作る時に入れるものだったので、
口に合うのはそのためなのかも知れない。
三品盛は、塩らっきょう、残りのハンバーグ、ちくわと塩昆布炒め

レバニラのもやしは、二人でひげを全部取って使った。
手間はかかるが、苦味や雑味がなくなる分仕上がりが美味しくなる気がする。

以下は、登場人物の備忘録
【乗客・乗員】
黒木亮……5歳児。ひとりで搭乗
甲斐航星……東大の加藤研究室に所属する気鋭の物理学者
興梠賢……14歳。汚職事件の疑いがある父親を殺すために上京
阿川沙耶……アイドルタレント
門脇……マネジャー
井坂夫婦と2人の子供……夫は弱電メーカーの技術者。事故の半年前に念願のマイホームを手に入れるが、帰省からの帰りの便で事故にあう。マイホームは、半年後に売りに出され、保険金と慰謝料を受け取った唯一の身内の母親は二年後不審死を遂げ、全財産を受け取った叔父夫婦はこの10年、一度も慰霊祭に顔を出していない。
祝迫守雄……航空自衛隊パイロット
神降 竜蔵・栄子……定年したエンジニアとその妻
後藤瑠璃子……美貌のチェリスト
中武昇一……お笑い芸人の卵
高千穂肇……高校生。天才テニス・プレイヤーと騒がれる
小里英俊……42歳。東大卒、自治省の官僚
日向啓太……21歳。自動車整備工
桐島藍……日向啓太と駆け落ち
田中次郎 ( 佐古圭 ) ……ミスターX
早川真澄……機長
木内龍郎……副操縦士
葛城恵美……チーフ・アテンダント
竹中令香……フライト・アテンダント
【遺族・関係者】
甲斐陽介……航星の父親で、402便遺族会会長。元新聞記者
加藤久彦……物理学者。東大で長年、量子力学を教えていたが、現在は私大勤務
黛 司郎……航空会社勤務。報和航空の運航管理室にした縁で402便の遺族のケアを担当
坂倉将……航空会社国内線業務推進本部長。10年前は報和航空運航本部長。
須坂晃司……航空整備士。402便月整備士だった父は、事件の一年後に自殺
興梠惣一郎……賢の父親、人望厚い与党の幹事長
【警察関係】
佐竹徹警部……警視庁SIT四係係長
小林晋巡査部長……警視庁SIT四係
頼近恵警部補……警視庁捜査四課所属
上杉静夫警部……警視庁公安部所属
【役所関係】
橘……