三浦しをん 著『舟を編む』読了

【辞書】言葉という大海原を航海するための船。
【辞書編集部】言葉の海を照らす灯台の明かり。
【辞書編集者】普通の人間。食べて、泣いて、笑って、恋をして。
ただ少し人より言葉の海で遊ぶのがすきなだけ。
玄武書房に勤める馬締光也。
営業部では変人として持て余されていたが、
人とは違う視点で言葉を捉える馬締は、辞書編集部に迎えられる。
新しい辞書『大渡海』を編む仲間として。
定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、
徐々に辞書に愛情を持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。
個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。
言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく――。
しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか――。
本を読む前に、NHKドラマ『舟を編む~私、辞書つくります』を観ていたので、
原作とドラマの違いが面白く、2倍の感動を味わえた。
いつもは《原作の方が映像化より好き》と思うことの方が多いが、今回は甲乙つけがたい。
ドラマの話は次回にまわし、今日は本のお話をしたいと思います。
この本は、前半・後半の二部仕立てになっている。
前半は、馬締という主人公が辞書編集部に異動してきた当初の話で、
後半は、13年後に『大渡海』を完成にこぎつける話だった。
【前半】
物語は、辞書編集部を支えてきたベテラン編集者・荒木公平が退職するところから始まる。荒木は後釜として編集を委ねられる人材を探しているが、なかなかいない。そんな中、後輩社員の西岡正志から馬締光也のことを聞き、彼をヘッドハンティングする。
営業部にいた馬締は、対人コミュニケーション能力の低さから厄介者扱いをされてきた人材だったが、辞書編集部に異動になり俄然、能力を発揮する。
一方、馬締を見つけてきた西岡正志は、軽薄でチャラい現代風の若者、馬締と正反対のタイプ。「西岡が営業部で、馬締が辞書編集部が適任なのに、人事は何を間違えたのだ?」と思わせるようなキャラクターだった。
西岡は、馬締の言葉に対して鋭い感覚・才能をみて、いかに自分が至らなかったかを知る。そんな西岡も馬締の影響を受け次第に辞書作りに愛着を持ち、宣伝部に異動させられる直前まで、馬締の苦手な対人交渉を一手に担い貴重な置き土産を残し去っていく。
【後半】
それから13年。馬締は主任に昇進し『大渡海』の編纂を取り仕切る責任者になっている。
荒木や西岡が去ったあとの辞書編集部の正社員は、ずっと馬締だけだったところに、ファッション誌から入社3年目の岸辺みどりが配属されてきた。みどりは当初馬締の独特なキャラクターに圧倒され、辞書編集の地味な作業に辟易するが、やがて辞書作りに情熱を持ち始めるようになる。
登場人物のキャラが濃くていい
この物語の登場人物はみな個性的だが、特に馬締の変人ぶりが群を抜いている。
彼は、下宿先 ( 早雲荘 ) の大家・タケさんに可愛がられていて、早雲荘の、本来は貸部屋だった一階の部屋はみな、どんどん馬締の本置き場として浸食されている。
そんな早雲荘に、タケさんの孫娘・林 香具矢が引っ越してくる。
馬締は香具矢に一目惚れして熱烈な恋文を書く。美人で聡明な香具矢は料理の道を究めたいがため、板前修業のとき交際相手と別れた経験がある。《馬締の恋慕は成就しない》と誰もが思っていたが、二人は見事ゴールイン。馬締は言葉を、香具矢は料理をと、お互い自分の好きな世界に邁進する精神に一致をみたようだ。
特に好きな人物
私が一番きになったのは、西岡のキャラクターだった。
西岡は一見チャラ男だが、根は真面目で一途なところがあった。
馬締の才能に羨望したり、自分がいかに熱量なく仕事をしていたかを振り返りしょげたり、本の中には西岡の心の変化が存分に描かれていた。
馬締と違う意味で、可愛らしく気になるキャラだった。
そんな西岡の働きを誰よりも認め、一番に評価し、感謝していたのが馬締だったという終盤のエピソードにも感動した。
私と辞書
小さい時から辞書を引くことが好きで、私なりに言葉に対して興味が強かったけれど、
一冊の辞書を完成させるために、これほど多くの時間と地道な労力が使われているのかを知らなかった。
辞書が一冊完成するまでに、ひとつの言葉の語釈を何人もの人が吟味し、何年もかけて推敲し作り上げてきたことをこの本によって知り、改めて辞書への想いを強くした。
辞書 ( 舟 ) を《編む》という言葉も心に響く
あ・む【編む】(動)
- 糸・竹などを、組み合わせる。
- 書物をつくる。
- 一戸を構える。
語釈では、2の書物をつくるが、今回の意味にあたるが、
辞書作りとは、1にある、沢山の糸を縒り組み合わせる作業なのだろうなと感じた。
長年使ってきた私の二代目の辞書
『新潮国語辞典』昭和59年版

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