Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

ガーリックバケットと月の話

 

松本清張『月』を読了

歴史学者の伊豆とおるは、恩師・谷岡冀山きざん ( 官学の大御所 ) の世話で女子大の教師となるが、冴えない性格から最も目立たない教授として地誌研究を続けていた。

あるとき伊豆は、学生の答案の中から見事な筆蹟を見出す、それが青山綾子だった。

伊豆は彼女に頼んで、清書や資料の引き写しをしてもらった。綾子の清書した中に「月」の字がいつも斜めになっているのが伊豆には気になった。綾子の書く斜めの月の字を見ていると、いつも心に落ち着かないものや不安を感じた。

 

一年ばかりして綾子がふと言った言葉が、伊豆を『新釈武蔵地誌稿』の仕事に赴かせる。

今まで荒涼とした伊豆の生涯の先に初めて一群の青い色が映じてきた。伊豆は休みの日には郊外の古い寺の所蔵文書を漁りに回るが、綾子を伴れて行くことが多かった。綾子は伊豆にとってかけがえのない助手となった。

綾子は大学を卒業し助手をつとめたのち、郷里の九州に帰った。その年の秋の終りに伊豆は結婚通知をもらった。綾子の身体が知らない男に蹂躙されているかと思うと伊豆は寝つかれなかった。

 

空襲が激しくなったころ、思いがけなく九州から綾子の手紙が来た。夫とは離婚したから、自分の家に疎開してはどうかというのであった。 伊豆は九州北部の町に着き、二人の生活がはじまった。綾子は再婚の意志は無いと言った。伊豆は綾子がいつまで自分の傍に居てくれるだろうかと考えないわけにはゆかなかった。もはや、地誌の編纂は伊豆の学問的な意義から消えて、綾子との同棲が永つづきするための目的になっていた。

 

世の中が落ち着きを見せたころ東京の隆文社から『新釈武蔵地誌稿』の問い合せがあった。戦争中に中断した企画を続行したいというのであり、宮川という編集者が二人のもとを訪れる。伊豆はこれで経済的に救われて綾子との生活がもっと長く続けられると思った。が、どこかにこれが本物でないような危惧はつきまとった。

Wikipediaより引用

 

【感想】

物語の前半、伊豆が谷岡冀山の門下生の中でも浮いている存在だと描かれている。

他の弟子たちが谷岡の趣味的な研究の一部ずつをもらい、勢力的にその分野を精緻化していき、その道の権威になっていくのに対し、伊豆は常に停滞している。彼は注目されるような研究をせず論文も書かなかったから、彼だけは取り残され、後輩も彼を追い抜いていく。

 

本作品の前半で、そんな学術界の人間関係が詳しく書かれていることにより、後半の彼の人生が少しずつ動き出すことに注目できた。

門下生から取り残され、恩師からも疎まれるような目立たない学者人生に、一縷の望みを与えたのは青山綾子の存在。

伊豆は彼女の筆跡をとても気に入り自分の書いたものの清書や、資料の引き写しを頼むようになるのだが、そこに出て来る「月」の字のエピソードが素晴らしい。

彼女の清書した中に「月」の字がいつも斜めになっているのが伊豆には気になった。あるとき、それを訊くと、それは習字の癖で、書道では月の字をこんなふうに斜めに書くのですといった。しかし、伊豆は、その月の字を見るたびに妙に不安定を感じる。それで、ペン書きの場合は普通にしてくれというと、彼女は当座は真っ直ぐな月の字を書いてきたが、やがてまた少し斜めになった。伊豆は、それ以上いわなかった。が、彼女の書く斜めの月の字を見ていると、いつも心に落ち着かないものや不安を感じた。不安定な自分の位置がその字に現れているような気がするのである。彼は密かに古本屋に行ったとき、書道の本をのぞいた。なるほど、どの手本にもたいていの月の字は傾いていた。

画像借用 「月」(U+6708) | 篆書字体データセット

 

青山綾子が書く「月」の字が右に斜めになっている様子が、伊豆を不安にさせているという話と共に、「月」が伊豆にとって《一群の青い色が映じてきた》というイメージの象徴であるのだろうと感じ「流石は清張さん、巧いタイトルをつけたものだなあ」と感心してしまう。

 

ラストはドキっとする結末だが、それも綾子という「月」の光明が雲に隠れてしまったように感じられ、これしかない結末だなと、うなってしまった。

 

因みに本日は十五夜。

そんな日に、期せずして「月」という作品の話になろうとは。。。。

 

 

2025年10月06日 昼ごはん

ざるラーメン なぜかプチトマトつき

海苔がぼわぼわ

 

 

 

2025年10月06日 夜ごはん

  

左 ) 昨日炊いたがんも 中 ) トマトとルッコラ  右 )  さきいか&クリームチーズ&オクラ

 

姪から貰った帝国ホテルのスープが美味しい、今日はコーンポタージュ 

サーモンにはケイパーとルッコラを散らして

切り目にガーリックバターが挟まって冷凍になっているデルソーレのバケット

グリーンビーンズで購入できる優れもの

冷凍のまま、オーブン ( グリルでも可 ) で10分ほど温めるだけでいい。