ウディ・アレン監督作品『ミッドナイトインパリ』を鑑賞。
キッカケは、モト冬樹さんがこの映画の挿入曲「ビストロフェーダ」を演奏したのを見たから。
良かったら、その曲聞きながら、読んでみて欲しい。。。
もうもうもう。
曲もいいが、話の筋も、出演者もその衣装も、そしてパリの風景も魅力的な映画だった。
話は、そこそこ売れてる脚本家のギル・ベンダーっちゅう男が、婚約者のイネズとその家族と
パリ旅行をしているところから始まる。イネズの父親は裕福な保守派でギルとは反りが合わない。
今回のパリ旅行はそんな義父の出張にちゃっかり便乗してるから、ギルは大人しくしているけれど。。。
ギルは、初めての小説を執筆中。
イネズは「小説なんか書かなくても脚本家として引く手あまたじゃない」と言う。
そもそも2人の価値観はまったく合わないみたいで、パリに住みたいと思っているギルに対して、
イネズの希望はマリブ (ロサンゼルスのお金持ちが住むような場所)に住むこと。
雨のパリがいいって言うギルにドン引きのイネズ。
そんな折、イネズの友人のポールって男とバッタリ会って、パリ見学を共にすることに。
どうやらイネズは、昔ポールに恋心を寄せていたみたい。
でも、ギルはポールの“エセ教養人”ぶりに我慢がならない。
ポールと一緒にいたがるイネズから距離をおき、ギルは別行動でパリを楽しむようになる。
ある夜、酔っ払ってパリの街を彷徨うギルの前に、一台の古いプジョーが停まる。
1920年代の服装の乗客に一緒に乗れと勧められたギルは、プジョーに乗って、
彼が心酔する黄金時代-1920年のパリにタイムスリップしていくのでした。
『ミッドナイトインパリ』というのは、深夜12時にやってくる車に乗って、
毎夜1920年代のパリを満喫するっていうことから付けられたんでしょうね。
昼は婚約者と現実のパリを、深夜は黄金時代を満喫する男を通して、
観ているワタシまでパリを楽しめる嬉しい映画。
嬉しいだけじゃなく、うんと勉強になる映画でもある。
映画には、コール・ポーター、ゼルダ & スコット・フィッツランド、ヘミングウェイ、
ガートルード・スタイン、ピカソ、ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエル、
ロートレック、ゴーギャン、ドガ と実在の芸術家たちが、次から次へと登場する。
コール・ポーターが歌ってる
えっえっえっ? ゼルダとスコットって、あのフィッツランド夫妻ですか?
スコットに引き合わされたのは。。。敬愛するパパ・ヘミングウェイ
店を出たギルは興奮度マックス
イネズにどうしたのと言われたって
そりゃ、ぼーっとしちゃうますわな
それぞれの人となりが緻密でオシャレなエピソードを交えて紹介されているからなんでしょうね。
例えばヘミングウェイ。
小説を書いてるというギルに対して、まだ読んでもいない内から「君の小説は不快だ」と言う。
ギルが「まだ読んでないでしょう?」と突っ込むと、
「ヘタな文章は不快。上手でも嫉妬で不快」とやり返す。
そんじゃあとギルは、自分の小説のあらすじを話す。するとヘミングウェイ。
「何を書いてもいい。真実を語り、簡潔で、窮地における勇気と気品を肯定する限りな」
おおお、ヘミングウェイだ。(笑)
そんな彼もいいところがあって、物語の終盤ではちゃんとギルの小説を読んでくれていて。。。
ヘミングウェイの紹介で、ギルの小説にアドバイスをくれるのが、ガートルード・スタイン
キャシーベイツ、流石に世界観醸し出すわね。
彼女の後ろの絵はピカソが描いた「ガートルードの肖像」
ヘミングウェイは、ガートルードを通じてギルの小説の感想を漏らすが、
監督は、ただ面白おかしく芸術家たちを登場させてるワケではない。
ダリです、ダリ。(笑)
それぞれの芸術家の信念や個性、作品をしっかり踏まえた上でセリフやエピソードを構築
している ( と思われる ) から面白い。
知識・教養が今の10倍あったら、この映画も10倍楽しめるだろうと思える映画だし、
何度見てもその度に色んな工夫に気がつくんじゃないかしら。
でも、作家や画家のことを知らない人も置いてきぼりにしない、充分楽しめるようにしてるのが
流石 ウディ・アレンだなあと思う。
文学や絵画だけじゃない、この映画ではそれぞれの時代の衣装を見るのも面白い。
ギルが恋をするアドリアナの衣装は秀逸。
1920年代の透けるような絹の素材に、真紅の刺繍をほどこしたチャールストンファッション
ヴィンテージなビーズ ( 当時はヴィンテージじゃないか ) のびっしりついたドレスは
どれを見ても美しい。
アドリアナは唯一架空の人物で、モディリアーニやピカソの愛人という設定。
ギルが1920年代を黄金期と憧れてるんだけど、
1920年代に生きるアドリアナはベル・エポックのパリが好きなんだって。
そんな2人がタイムスリップした先は、ベル・エポック-1900年のパリでした。
ムーランルージュでロートレックやドガやゴーギャンと出会うんだけど。。。
彼らは、ルネサンス期がいいと言うのよね。「時代は巡る」だわね。
アドリアナは、ゴーギャンの誘いを受けて、この時代に残ると言い出す。
そのシーンの会話 ↓
アドリアナ…20年代なんて、退屈な時代よ。
ギル…退屈?なら言うけど、僕の現在は2010年だ。
アドリアナ…どういうこと?
ギル…今夜、1890年代へ来たように君の時代へスリップした。
アドリアナ…本当?
ギル…君と同じだ。現在から逃げて黄金時代へ行きたいと。
アドリアナ…あんな20年代が黄金時代なの?
ギル…僕にとってはね。
アドリアナ…私から見たら、ベル・エポックこそ黄金時代よ。
ギル…でもベル・エポックの彼らはルネサンス期こそ黄金時代と、もしミケランジェロと
並んで絵が描けるなら、喜んでスリップする。
そのミケランジェロは13世紀あたりに憧れたかも、
小さいことだけど、今、分かった。夢の中で覚えた不安の訳が。
アドリアナ…どんな夢?
ギル…恐い夢だった。家に抗菌剤を切らして歯医者へ行くと麻酔薬がない。
つまり黄金時代にはまだ抗生物質がなかった。
アドリアナ…一体、何の話?
ギル…もし、この時代に残っても、いずれまた別の時代に憧れるようになる。
その時代こそ黄金時代と。
“現在”って不満なものなんだ。それが人生だから。
アドリアナ…作家ってイヤね。言葉ばかりなの。私は心が大事よ。
パリが一番、輝いてた時代に住むことにするわ。
前にパリに住まず後悔したと。
ギル…後悔した、悪い選択だったさ、でも自分で選んだことだ。
もしこのまま過去に住んだらうまくいかない。
何か価値のある物を書こうと思ったら、幻想は捨てるべきなんだ。
過去への憧れもその1つだよ。
アドリアナ…それじゃ。お別れね、ジル。
( ※ アドリアナはずっとギルをジルだと思い違いしている )
彼女は、そう言って、この時代のパリに居残ることにする。
ここで「あら~?」と気が付いたんだけど。。。
物語の冒頭、ギルが鼻持ちならないと嫌ってたポールから同じことを言われていた。
ポール…どの時代がよかったんだノスタルジー君?
ギル… 20年代のパリ、雨の降ってる
ポール…懐古主義は拒絶だよ 苦悩する時代へのね
イネズ…ギルはロマンチックな人だから、永遠に拒絶し続けるわ
ポール…その誤った考えはいわゆ“黄金時代思想”だ。
昔は今より優れた時代だったという謝った認識だ。
時代に対処できない夢見がちなタイプの人間の欠陥だな。
ニクい演出だわね。核心をポールにえぐらせてたんだもん。
その他、ウディ・アレンぽくて笑えたのが、イネズの両親の描写。
父親は、共和党の右派だっていうのが話題になるシーンもあって、
ギルは「でも僕はそれって頭がイカれてると思う」とハッキリ言っちゃうんですよ。
政治のことはよくワカラナイけど、ネオ・コンサバティーを軽く批判しているんでないかしら。
そんな親父さん、パリでのワイン試飲会での一言。
「ワインは常にカリフォルニアに限るが、ここでは仕方ない」(笑)
ミッドナイトインパリの予告です ↓
もうひとつおまけ。