新宿バルト9での「コレット」が本日最終日だと聞き、
飛んでいきました。
よかったです。
最も美しく華やかだったベル・エポックの時代を駆け抜けた
女流作家シドニー=ガブリエル・コレットの半生が、魅惑的に描かれていました。
私はこの作品をキッカケに、コレットに興味を持ち「ジジ」「青い麦」を読んだのですが、
それらを執筆するよりももっと昔の、彼女が作家になっていくキッカケがよくわかる映画でした。
コレットは生涯で三度の結婚をしました。
映画は最初の夫といる時代の話で、彼女はまだ一人前の作家ではありませんでした。
夫のゴーストライターをしていたコレットが夫と決別し、1人の作家として歩み出すところで映画は終わります。
実生活のコレットはそれは派手でした
コレットは三度結婚し、同性愛者の愛人もいて、義理の息子とも噂になったりと、世間を騒がせました。
その一つ一つが彼女の血となり肉となり、作品の題材となっていきました。
晩年のコレットは三番目の夫と平穏な生活を送り、皆に親しまれ尊敬され亡くなります。
生前彼女は「( 自由奔放に生きたのだから ) 立派なキリスト教の墓には入らない」と言っていたそうですが、フランス国民の熱望で彼女の葬儀は国葬となりました。
彼女の人生を三つに分けるとしたら、映画は前半の「こうして彼女は作家になった」がわかる部分です。
最初の夫-ウィリーは、彼女の物書きとしての師匠だった⤵
ゴーストライターとして出発
彼女は夫のゴーストライターとして物書きになりました。
夫の名はアンリ=ゴーチェ・ヴィラール、通称ウィリーは彼女より14歳年上の人気作家でした。
左はウィリー本人、右はドミニク・ウエスト演じるウィリー
手広く活動をしていたウィリーは、執筆する時間もありません。
彼は、編集の勉強会と称して、ほかの作家たちに自分の作品を書かせていました。
そんなウィリーは、妻の才能にもいち早く気づき、彼女に自伝的な小説を書かせます。
始めて書いた彼女の小説を、ウィリーは「形容・装飾が多すぎる」とお蔵入りにしました。
が、浪費癖が原因で借金はふくらむばかりのウィリーは、ボツにした作品を、自分の名で出版します。
ウィリー ( 実はコレットが書いた処女作 ) の「クロディーヌの学校」が売れ始めると、
彼は続編の執筆を妻に命じます。
やがて「クロディーヌ」シリーズは、社会現象を巻き起こすほどの一大ブームになりました。
商才に長けたウィリーは本の出版にとどまらず、舞台化やブランドを立ち上げるなど幅広く商品を展開していきます。
これらの成功により時の人となり、
ウィリーとコレットはセレブ夫婦として注目されていきます。
しかし、ウィリーの女性問題や浪費癖により夫婦の間に隙間風が吹き始め、
ウィリーは別の女と、コレットは男装の伯爵夫人と暮らすようになります。
二人の仲が決定的になったのは、金に困ったウィリーが「クロディーヌ」シリーズの版権をコレットに内緒で売りさばいてしまったことでした。
コレットは夫と別れ、クロディーヌシリーズの作者が自分であることを発表。
やがてコレットは作家として独り立ちし、更にパントマイムや女優として舞台に立つなど、表現の幅を広げていきました。
コレット演ずるキーラ・ナイトレイは、カズオ・イシグロ原作「わたしを離さないで」で、主人公の友人ルースという重要なクローン役を演じていました。
右の少女がキーラ・ナイトレイ⤵
顔の皮膚の皮が薄いキーラ・ナイトレイが演じるクローンの少女は、どこか薄幸そうでインパクトがありました。
コレットのキーラもまた、とても印象的。
妖艶さと清純さが同居し、知性的であり魅惑的であるコレットの多彩な存在を具現化するにはキーラをおいてないと感じました。
コレットが純粋に創作に向かうための原動力になったのが夫の存在です。
浮気者で、浪費家で、偉そうだけれど何故か憎めない夫ウィリーを演じたドミニク・ウエストも素晴らしい。
写真のコレットのこの眼差しでもわかるように、
彼女は夫のウィリーを作家としてとても尊敬しています。
自分の作品を搾取され、ゴーストライターにされたのに、何故か平然としています。
この夫婦は不思議です。
映画の中で、同じ女性と三角関係になっていたというエピソードがありました。
ジョルジー ( 左 ) は、同性愛者としてコレットと関係を結ぶ一方、コレットの夫ウィリーとも逢瀬を楽しんでいた。
コレットもウィリーも、ジョルジーに二股をかけられていたのです。
二人はそうと知らずに、昼に夜にと彼女の許に通います。
やがて夫婦は、そのことに気づきます。
気づいたあとの2人が不思議です。
コレットとウィリーは、そのことで夫婦間がおかしくなるわけではありません。
結託してジョルジーの醜聞を小説「クロディーヌもの」の中に盛り込みました。
名前は変えても、世間の人が読めば、明らかにそれが《ジョルジー夫人》とわかる書き方をしました。
スキャンダルを恐れたジョルジー夫人は、夫の財力で出版差し止めに動きます。
しかしウィリーの方が一枚も二枚も上手。出版差し止めは失敗に終わるのです。
このエピソードをひとつとっても、並みの夫婦ではあり得ない。
自分の愛人が夫とも通じていたと知ったコレットも、妻が自分の浮気相手と同性愛の関係にあると知ったウィリーも、夫婦間の問題にはならないのです。
創作活動においても、恋愛においても、二人はどこか達観した思いを持っていたように思います。
同志のような間柄といったらよいのかな。
私が一番好きなカットがこれです。
ウィリーは、田園育ちの妻のために別荘を購入します。
別荘で、執筆をしながら植物の世話をする妻を、愛おしそうに見おろすカットが、とても印象的でした。
映画「コレット」の感想で《夫や世間からの抑圧から女が立ち上がる作品》と書かれたものが、
よくありましたが、私はそうは思えませんでした。
ウィリーとコレットは同志のようだと思えたからです。
その二人の関係が決定的に壊われたのは、ウィリーの版権売買です。
金に困ったウィリーが、コレットに内緒で「クロディーヌ」の版権を売り払ったのです。
あなたは私達の子供 ( クロディーヌという作品 ) を捨てた。
あなたに裏切られ、クロディーヌは死んだ。
コレットはウィリーをなじり彼の許を去ります。
世間では、コレットと最初の夫-アンリ=ゴーチェ・ヴィラールとは、
顔もあわさないほど険悪だったと言われていますが、
結婚して「クロディーヌ」シリーズを執筆している最中の2人は、同志というか
共同作業をしている感があったのではないかと私は想像してしまいます。
それはこの映画を観たせいかも知れませんが、
アンリ=ゴーチェ・ヴィラールという人物は、ガブリエル=シドニー・コレットが初めて愛した男であり、良き理解者であり、自分を見出してくれた先輩であり師匠だったのではないかと思いますが、はたしてそれはどうなのか。。。
コレットは「私の修行時代」という本を執筆していますが、おいおいそれも読んでみたいと思っています。
ドミニク・ウエスト この作品ですっかり魅了されました
本作「コレット」も彼なくしては語れないと思います。
セクシーで、包容力があり、勝手で、しかし憎めない。
そんなウィリーを好演したドミニク・ウエストさんのことを知りたくなりました。
彼は、役柄によって顔つきも変わるカメレオンのような人でした。
例えば映画「シカゴ」では、
ロキシーに殺される 嘘つき野郎の役を、、、、
映画「ベストセラー」では、
アーネスト・ヘミングウェイ役を、、、
映画「トゥームレイダー ファースト・ミッション」では、
主人公の父親役の侯爵を、、、
とにかく、七変化なのです
共通点は、セクシーなこと。
今回の映画「コレット」の記者会見でも、実物はこんな感じ⤵ 2018/10/11 ロンドンにて
左がコレットを演じたキーラ・ナイトレイ、右がドミニク・ウエストです。
それが役になれば、こんなに変わる。
コレットの宣伝TVの時も、若くてカッコいい。
因みに上にあったコレットの宣伝ポスターはアメリカのものらしい。
日本のポストーとアメリカのでは、こんなに印象が違う。
全く別の映画に思えるから不思議です。
ジュリア・ロバーツと一緒でも、こんなに絵になる⤵ 2016/05/12 カンヌにて
かっこええなぁ、ドミニク・ウエストさま。
彼は1995年の「リチャード三世」にも出ているらしい。
次はそれを観てみようかな。