2月5日、下高井戸シネマで『日日是好日』を観た。
1~2月、下高井戸シネマは、樹木希林さんの特集を組んでいる。
先日テレビで「あん」は、観られたし、「人生フルーツ」も一昨日ここで堪能。
あとは「モリのいる場所」だなあ。他の作品はDVDになりそうだから。
日日是好日を見て、樹木希林さんのおさまりの良さに驚愕した。
本物のお茶の先生にしか見えなかった。
私の樹木希林像は、やはり 「ジュリー」で始まる。
悠木千帆という名の頃には郷ひろみと林檎殺人事件を歌い、
西城秀樹には「祖母ちゃん汚ねーなー」と突き飛ばされ、
マチャアキと風呂屋女湯を駆け回っていた。
久世光彦のスキャンダルをすっぱ抜き、ロックンローラー内田裕也と結婚し、
公私ともにブイブイ言わせてきた、それが樹木希林のイメージである。
誰よりも流行り売れ線を嗅ぎ分ける嗅覚を持ち。←悪い意味ではない。
つねに話題作の中に身をおき、八面六臂の活躍をしてきた。
樹木希林は、旦那より数段ロックな気質の人だったと思う。
そんな彼女が、晩年選んだ作品の数々は、怪優《樹木希林》に磨きをかけた。
万引きをするワケあり家族の長。
芸術家の妻。
元ハンセン病患者。
そして、茶道の先生。
名優 高倉健は、どんな映画でどんな役をしても《高倉健》だった。
それは決して悪いことではない。
世間がそれを求め、彼がそれを受け止めたのだから。
怪優 樹木希林は、映画ごと役ごとに多彩な顔を見せた。
ひとつとして同じ顔はないハズなのに《樹木希林》は《樹木希林》だった。
老いた人の、着物を着なれた人の、茶道の先生の座り方
どこで習得されたのだろう。
ひょんなことから、近所のお茶の教室に通い始める典子 ( 黒木華 ) 。
「面白そうね、私もやろうかな」と一緒に通う従妹の美智子 ( 多部未華子 ) 。
通い始めたばかりの彼女たちは、作法の意味を聞きたがる。
「ううーん、、、なんでかは いいの。やっている内にわかってくることがあるのよ」
質問攻めにあう武田先生 ( 樹木希林 ) は、もどかしそうに言う。
何でも理屈で理解しようとする若い子たちに対して、
五感を磨き、鍛錬を続けるうちにわかってくることの大切さを、先生は気づかせたかったのだ。
このシーンで発した希林さんの「ううーん」という声が、私は忘れられない。
やがて美智子は結婚をし教室を去り、典子だけが残る。
何回も何回も同じ作法を続けていく内に、
昨日とは違う《何か》を、ふっと気づくことがあった。
武田先生は、典子の開眼を見逃さなかった。
恋人との破局、父親の死、色々なことを経験した典子に、
静かに寄り添ってくれたのが武田先生であり、お茶であった。
心の中をしみじみと、静かにかきまわし、感動させてくれた名作だった。
劇場から出て歩き始めた時、前を歩いていたご婦人が携帯電話をかけはじめた。
「今ね、見終わったところ。凄いのよ、ホントにお茶わかってるわ。
あなたも見るといいわ、ホントに凄いんだから」
興奮さめやらぬ口調で友達に話をしている。
多分、彼女は茶道をしている人だと思う。
お茶の世界を知っていたら、私の数倍、数十倍楽しめ感動する映画なのだろう。
季節の移り変わりや、掛け軸、書、茶器、花器。
そういうものを知っていればいるほど、楽しいのだと思う。
私のように素養がなくても十分感心したのだから。
真っすぐ帰る気になれずに、喫茶店の立ち寄った。
COFFEE & ROASTER two-three
お抹茶の代わりに、大好きなコーヒー
初回にいただいた「あじさいブレンド」に近いブレンドをとリクエストした。
プリンも、ホッとさせてくれる味だった。
良い映画やコンサート、芝居を観た後は、
真っすぐ帰りたくないのは、私だけだろうか。
自転車を停め、花曇りの児童公園でぼんやり。
あっ、花曇りというのは晩春の季語だから適切ではないか。
映画を観た後は、季節感を大切にしないといけないと思った。
見上げると、桜の木にぷっくりした蕾が見えた。
今日は、私の日々是好日