「みをつくし料理帖~花だより」と並行して「ビブリア古書堂の事件手帖」の新刊を読みました。
ああ、ヤダ。
映画の帯が付いてる。。。ヽ(`Д´)ノプンプン
ビブリア古書堂の事件手帖は、
北鎌倉のビブリア古書堂の店主-篠川栞子が、古書にまつわる事件を解決していくお話。
ミステリーの要素に、古書の知識がふんだんにつめこまれた作品です。
なんといっても舞台が鎌倉なのが嬉しい。
とにかく本の方は、7巻を夢中になって読破しました。
映画は、先日お話した通り《わたくし的には》あり得ない作品でした。
最新作は前作より7年後のお話です。
栞子と大輔は結婚し、娘が誕生してます。
娘の名前は扉子。
扉子は、母親に似て本好きで好奇心旺盛な子供です。
新作は、本にまつわる4つのお話 ( 事件 ) を、栞子が娘に話して聞かす形でつながっていきます。
6歳の娘に対して男女の問題や犯罪の話は避けたい。
教育上よろしくない部分を省いて説明していくので、娘に理解してもらえたかどうか。
娘の方では「本って凄いんだね、私ももっと本を読もう!!」と本への関心で話を片付けてしまいます。
自分に似ているから怒れないと栞子は苦笑、なんつー展開です。
※ 既にお読みになり、端的で素晴らしい書評をアップされているよんばばさんの記事を参考にさせていただきました。
新作が 前作までと違うのは、語りが五浦大輔でなかったり、事件 ( ※ ) を解決するのが栞子だけではないという点です。
※ 今回の話は事件性に欠ける内容なので、
各章は《事件》というより《本にまつわるちょっとした謎》といったところです。
前作までは、ビブリア古書堂に持ち込まれた ( 持ち上がった ) 事件を、栞子が古書の知識を生かして解き明かしていくという形でした。
しかし本作は、本にまつわる謎を各章の主人公が解き明かすという形になっているので、
栞子さんのカリスマ性が薄くなったように思います。
また、各章のつなぎで栞子が娘に「こういう話があったのよ」と話しきかせる形をとったのに、無理がある部分も見受けられました。
現場にいなかった栞子が何故その話を知っているのかというような。。。
つなぎの栞子と扉子との会話は、栞子が《本に関心のありすぎる娘に自分の子供の頃を思い出しながらも、ほとほと困る》という態になっているので、微笑ましいですが、
個人的には今までのような【栞子さんのうんちくで話がすすむ展開】が好きでした。
それでもビブリアは凄い
それでもビブリアは読みごたえのある作品です。
一般的なミステリーと違うのは、ミステリーの解決に古書へ知識が不可欠なことです。
そしてひとつの章を読むたびに、そこに登場する本を読みたくなる魅力があります。
作者の三上延さんは、古本屋でアルバイトをされた経験があるそうです。
その経験に基づく知識がビブリアに生かされているのでしょう。
また、この《古本》というのがミソなんです。
本は、初版本や改訂版や復刻本、そして同じ作品でも複数の出版社から刊行されている本があることから、その話の核となる人 ( 犯人 ) が、どの版で読んだかが謎解きの鍵になります。
簡単な例をあげると、、、
第一巻は、本を読まない五浦大輔が亡くなった祖母の遺品の漱石全集を、ビブリア古書堂に持ち込むところが始まります。
我が家の蔵書。一冊一冊集めたため第三巻だけ古い (-_-;)
全集の一冊「それから」の見返しに、夏目漱石と書いてあったのを見た大輔と母親は、
「夏目漱石のサインじゃないの? 高く売れるかも」と言います。
大輔が持ち込んだ本をひとめ見た栞子さんは「いいえ、違います」と却下。
「夏目漱石が亡くなったのは大正5年 (1916) ですが、この本は、昭和30 (1956) に発行されていますから」
もちろん本の知識が多少あれば、それくらいのことはわかるでしょう。
しかし栞子は、正確に本の内容も書籍の発行年もスラスラ言えるほど精通しています。
そしてそれ以上の知識と想像力を駆使して、亡くなったお祖母さまの隠したかった過去を解き明かしていくのです。
私はこの、栞子 ( 作者-三上さん ) さんの博学さにワクワクしました。
しかし、新作については栞子さんの切り込み方が幾分甘いように感じました。
栞子さん自身が、謎解きまでしなかったからです。
例えば、第1話「からたちの花 北原白秋童話集」
栞子さんは初版本と復刊された本との二冊の違いを、お客さん ( 今回はこの人が語り ) に説明します。
「うちには新旧両方の『からたちの花』の在庫があります。(中略) この本の好きなご年配の方なら、普通は慣れ親しんだ古い版をお選びになる気がします・・・・どうして新しい版をお選びになるのか、少し気になっていました」
そしてこう結論づけました。
「もしかしたら『からたちの花』という本そのものより、本を贈る行為の方になにか意味があるのかもしれません・・・例えばそうすることで、お父様から叔父様にメッセージが伝わるような」と。
それから先、謎を解くのは栞子さんではなく、そのお客さんでした。
その為 登場人物の微妙な心の動きは伝わったくるものの、物語全体にスリリングさはありません。
作者のあとがきにもありましたが《大輔視点という物語上の制約で語れなかった話、それぞれの登場人物のたちの前日譚や後日譚》ということで書かれたそうなので、その辺はわかった上での冒険だったと思われます。
ベストセラーの行く末
「ビブリア古書堂」と「みをつくし料理帖」という二つのヒット作をたてつづけに読み、
感じたことがあります。
人気の秘訣はいずれも、作者の造詣の深さです。
ビブリアは、三上延さんの読書量の凄さと、古書に対する知識の深さで満ちています。
みをつくしも、高田郁さんの東京・大阪の文化と歴史や、料理に対する知識であふれています。
その膨大な知識とセンスの良さが、名作を支える要因ですが、
ヒットを続けるうちに同じ質を保つのは容易ではないハズです。
どんなに優れた作家でも人間ですから、知識やアイデアが枯渇することもあるでしょう。
執筆活動は真っさらな原稿用紙に一字一字を埋めていく作業、それだけでも大変なのに、お二人の作品は更に専門的に特化した素材が不可欠ですから、生みの苦しみたるや並々ならぬことでしょう。
ファンにしてみれば「早く次回作を読みたい」となる。
しかし作者には、知識やイマジネーションを高める時間も必要です。
「みをしずく料理帖」は最新作で完結とのことですが、
「ビブリア」はまだ続くようなので、
次回作を急くより、作者が存分に構築できる時間があるようにと願います。