一枚の写真。というか一枚の切抜きが手に入りました。
大正13年9月号 婦人グラフ (1巻5号) の切抜き。
何故、バラして売られているかというと、市場で価値があるのは、本紙ではなく表紙にあるようです。
何故って? 竹久夢二の表紙だから。
国際情報社 竹久夢二木版表紙「秋」(18.5×19.5)及び木版口絵3枚「婦人絵暦十二ヶ月・9月『童話』」(23.5×11)長田幹彦著「お光の亡霊タイトル」「お光の亡霊」(12.5×20) 蔵印 パンチ穴
取引価格 135,000円也
不思議だねぇ。凄いねえ。古本・骨董の市場って。
でもワタシにとって価値があるのは、こちらの切抜き。
敬愛する里見弴さんと家族のポートレートに、文章なんだから。
「實物はもつといゝ」 里見弴
「寫眞は出來たんですか」
「はア、出來ました」
(婦人記者、風呂敷包のうちより、三枚のキャビネ型の寫眞を取り出す。)
「あの、お庭の玩具の汽車の線路のそばで、おとりになつたのが、大へん面白いんですけれど、人物が小さくとれて居りますから、お縁側の方のを出さして頂かうと思つて居ります」
「さうですか。そいつは弱つた。線路の寫つてる方だと、あれを敷置した時の、大工事の苦心談でも聞かしてあげようと思つてたんだが。だつて、さうでせう、寫眞を寫されたからつて、それに添へてどうかうと云つて、別に話すこともないぢアありませんか。いつか出てゐた久米君の寫眞のやうなのなら、原稿どころか、うんと惚気賃を取つたつていゝわけだけれど…」
「でも、何か…」
「困るなア…。それも、もうちつといゝ男にでもとつてくれりやア、またつてこともあるけれど、どうもおツそろしく爺むさいぢアありませんか。尤も、四人の子供に取り囲まれてるんぢア、たま ∕ ∖ 若くとれたところで、誰も信用してくれないかも知れないが…」
「でも、皆さんよくおとれになつて居りますわ」
「と云ふと、實物はこれよりもつと惡いことになるのかな」
「いゝえ、そんな…」
「なに、冗談ですよ。…一體、寫眞つてやつは、褒めてよし褒めてわるしで、全く厄介なもんですね。よくとれてるが、實物はもう一倍いゝ、とても丁寧に云つとけば、まア間違ひはないわけなんだが…。どうです、そんなことでも買いといてくれませんか」