garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

挿絵について ①

 

大衆小説の古本には挿絵が施されているものが多くある。

大佛次郎 著『帰郷』もしかり。

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装畫は佐藤 敬 氏、挿絵は中西利雄 氏の手によるもの。

両氏は、彫刻家-佐藤忠良さんも会員でいらした 新制作協会 を、猪熊弦一郎らと共に結成した方だ。

実はこの挿絵が、中西さんにとって最後のお仕事だったそうだ。

 

大佛次郎『初版~あとがき』より

「歸郷」は、毎日新聞に連載された。

四月二十日最初の回を書き、筆をいたのは十一月初旬てあつた。

その間に入院したり、京都を書く爲に、馴染のある土地だが、なほ不安だつたので出かけて見て、殘暑のきびしい中を金閣寺へ行つた。病院では最初癌の疑ひが濃かつた。醫師の様子から私にもそれがわかつた。夜なかに起きてゐて、それと決定したら、友人の例から見てあと二年のいのちだから、小説を書かうなどと云ふ未練がましい無理な努力はいないで、別れる前に日本の土地を能ふ限り廻つて歩いて故国に寄せる思ひを紀行文にでも綴つて置くことにしようと決めた。そこで、癌ときまつたら、「歸郷」は小説として私の最後の作品になる筈だつたが、幸か不幸か、さうでなくなつた。醫師に悦びを告げられた日の午後に、不意と新聞の學藝部の人たちが病室を訪ねて來て、挿絵を描いてゐる中西利雄君が當人はまだ知らずにゐるが癌を患つてゐて、「歸郷」の最後まで描けるかどうか疑わしい。ずつと寝たままなのに、気分のいい時だけ床から匍ひ出して描いてゐるやうな状態なので、原稿の方をなるべく早くしてくれと云ふ話で、まつたく驚いた。私は免れ、彼は倒れようとしてゐたのである。

 

 中西君は、「歸郷」の仕事に非常な情熱を示してゐた。わざわざ私に手紙を寄越して、自分も一生懸命勉強して描くから、是非好い小説 ( 中西君の使つた言葉は大ロマンと云ふのだつた。 ) を作つてくれと言つて來たほどで、「歸郷」の挿畫には過分に骨を折つてくれてゐた。畫の評判はどこでもよかつた。中西君が身を入れてくれた仕事で、小説がどのくらゐ助かつたか判らないのである。


 中西君は、その後も自分の病氣が癌で、それもフェータルなものに進んでゐるとは一向に知らず、病苦と闘ひながら、「歸郷」を描き續けてゐた。悲痛なことだつたが最終回までその努力が續いて貰ひたいとは、私ども周圍の者を終始とらへてゐた祈りでもあつた。九月の初めに私は京都へ行つてゐた。すると、大阪の學藝部から宿に連絡があつて、遂に中西君が自分から仕事を斷念したと知らせがあつた。病床の中西君の資料とする爲に、新聞社から寫眞班の人が來てくれ、私が一緒に歩いて指定する場所をカメラにをさめてゐたところである。中西君は私どもの共同の友人佐藤 敬君に、あとを頼んであつた。新聞小説の挿絵を、途中から代つて描くと云ふ、やりにくい不利な仕事を、敬さんが友情から務めてくれた。その後も病床の中西君は、毎朝新聞が來ると、手に取つて、挿絵を見てゐたと云ふ。

 それから一箇月足らずの十月六日に、中西君はなくなつた。小説はまだ終わつてゐなかつた。力の極限まで中西君は努力してくれたのである。それが無理となつたのではないかと申譯なく思つてゐたが、お通夜の時、猪熊弦一郎君が、いや、あの仕事をやつてゐたので中西君も張が出て、ここまで命が續いたのだと思ひますと言つてくれた。一途の仕事の餌食と成ると云ふのは、きびしい。身をすり減らすことなのである。小説の「歸郷」が、中西君の勞苦に値したものだつたかどうか、私は今も不安に感じてゐる。

 中西君に贈る爲に単行本「歸郷」は出来るだけ美しいものにしたいと念じた。若い友人の伴俊彦君が、その仕事に當つてくれたが、今日の紙の事情で、思ふやうには出來ないで、伴君ももどかしからうと思ふ。私自身も現在のところ、この小説には愛情を抱いてゐる。讀者次第で、いろいろ讀み方が出來るのではないかと多少の自負も残してゐる。病氣を中西君が持つて行つてくれたと思ひ、勉強して、兩三年後にはもつといいものを書かないと申譯ないと考へてゐる。

昭和二十三年初冬

 

 


連載小説を書く時、作家は挿絵に助けられることがあるという。

画家も作家も、真っ白な紙にいちから創作していくのだから、イマジネーションの助けは必要だろう。

ただその場合、一流の作家には一流の挿絵でなければ助けにならないのかも知れない。

 

六興出版社の刊行本は、初版本から2年後の受賞記念に発刊されたもので、

初版本に使わなかった挿絵を、大佛さん自身が選び直したのだそうだ。


左-初版の挿絵。右-六興出版社版の挿絵 ⤵

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