朝、起きたら目が重い。
昨日から泣き過ぎたせいだ。
「ようこがまるちゃんに会いたがっているんだ」という突然の電話でかけつけた先には、
ベッドに横たわり私の方に手を差し伸べるマダムがいた。
昨年末、胃がんがみつかり大腸に転移、もう手術もかなわず、自宅療養をしていたのだという。
マダムがそんなことになっているとは、ちっとも知らなかった。
「皆さんにはお知らせしないできたんだ。
でも、日曜から食べ物が喉を通らなくなってね。
今日になったら『まるちゃんに会いたい』と言い出したんだ。」 旦那様が言う。
マダムの手を握りながら、しばらくお話をする。
「そのピンクのカーディガン、とてもお似合いだわ」というと、
「まるちゃんと私のラッキーカラーだものね」と同時に思い出したのは、
吉祥寺で買った紙のランプシェードのことだった。
店頭に飾ってあったサーモンピンクの渋い色のランプシェードを見て2人して気に入って、
購入したものの、家に帰って包みを開けると、似ても似つかないショッキングピンクのシェードだった。
なるほど店頭のは色が褪せて丁度良い色になっていたんだね、と2人で大笑いしたんだっけ。
マダムは枕元の少し薄いピンクのタオルを指さして「こんな色だったのよね」と小さな声で囁く。
咳が切れずゼイゼイとラ音が交じる声だから、
旦那様は聞き取れなくて何度も聞き返してしまうのだそうだ。
「僕も耳が遠いもんだからさ、
そうするとね『察しが悪いんだから』と、この はげ頭をピチャっと叩くんだ」
マダムらしいお茶目な仕草が目に浮かぶ。
苦しそうマダムは、ゆっくり息を整えると言った。
「まるちゃんは、妹みたいなの」
もう、涙が止まらない。
私の方こそ。
マダムは、辛い時も楽しい時も、いつも私の話を静かに聞いてくれた姉のような存在だったから。
そろそろおいとまをする時間ね、と立ち上がると、手をヒラヒラ振ってくれる。
「また来てもいいですか?」
「もちろんよ」
帰りの車でも、家でも、涙が止まらなかった。
同行してくれたMOURI も私も疲労困憊。
ヘトヘトになったのは多分、マダムに持てる限りのエネルギーを差し上げてきたからだと思う。
今日は、あとすこし休んだら、神社に参拝に行こう。