夏旅をちょっとブレイク。
・・・・8月23日~27日の旅行をつらつら書いているのにまだ終わらないのです。
一か月も経つというのに。。。。
その間、日々の料理や、読んだ本、観た芝居の話など溜まる一方ですの。
で。
昨日投稿をお休みしたのは、ある芝居を観劇していたから。
そして今日は、ちょっと風気味。
朝夕めっきり寒くなりましたからね、
起きたらのどが痛いので蒸しタオルを首に巻いています。とほほ。
さて、昨日観た芝居ですが、とても面白かったのでちょっとそのお話を。
「天穹の盆」という時代劇でした。
恒吉雄一さんにご案内をいただき、出かけました。
「初めてのカンパニー、初めての時代劇なのでどうなることやら不安ですが」
とおっしゃる恒吉さんでしたが、ノープロブレム。
ノープロブレムどころか素晴らしかったです。
とても良いカンパニーに参加されて、良かったと思っています。
俳優陣は、こんなに沢山。総勢25人ですと。
パンフレットには、相関図まで書いてある。
いやぁ複雑。
さぞ混乱をするんじゃないかと、戸惑いましたよ、これを見た時には。
ところが。。。全然そんなことはありません。
これだけ出てくると、人数合わせの登場人物がいたっておかしくないのに、
ひとりひとりの登場人物が丁寧に描かれていて、キャラクターが被らない。
( 勝田家家臣のお三人はセリフがなかったので仕方ありませんが、それでも殺陣素晴らしかったです )
1人として無駄な人物がいないのです。
なので、サクサクと人物が頭に飛び込んできました。
不勉強で恒吉さん以外の俳優さんは、どなたも知りませんでした。
しかもパンフレットには、
「初めての舞台、がんばりまーす」とか「初めての時代劇」という方が多かった。
正直いって「これは酷い芝居を見るはめになるのか」と思っていました。
ところが。
皆さん良いんですよ。
天穹の盆、感動しました。
期待はしていなかったなんていって、ごめんなさい。
見事なアンサンブル、素晴らしいものに仕上がっていました。
作・演出は、このカンパニー (相州雅屋) の代表 ( なのかな? ) 橘 相模守さんという方ですが、
自身も大事な役どころで出演されていて、なおかつ素晴らしい演出ぶりに驚きました。
自分が書いた脚本 ( ほん ) を、客観的に演出するのはさぞ難しいことだと思います。
思い入れもあるでしょうしね。
でも橘さんのさばきぶりは見事でした。
演出にも丁寧さと、役者への愛情が感じられました。
「初めての舞台です」「初めての時代劇です」と言っていた新人俳優さんたちを
及第点、いえ、それ以上に育てていました。
そして。橘さんの作品には品格がある。
嫌いじゃありません。
いえとんでもない。大好きです、こういう芝居。
相州雅屋というカンパニーは、
舞台制作の外に、刀を中心とする古美術商と殺陣の学校もしていらっしゃるそうな。
なるほど。時代劇にゆるがぬ根っこを持っていたのか。
時代劇なのにかつらじゃない
本作品の役者は、ひとりもかつらを被っていません。
全員が自毛でした。
女性は自毛で髪を結う。乗っけた鬘とは違い、自然でとても良いのです。
男性陣は全部普段の頭です。
長髪の数人は、後ろでゴムで結わってましたが、もちろんさかやきなんかしていない。
結わけない長さの人は、そのままの普通の髪型。
「鬘をつけてないとなんか変」と言う意見の人もいましたが、私はとても自然についてゆけました。
ひとりひとりが、しっかりその人物として生きていたからだと思います。
時代劇特有のセリフでも、彼らの口から出ると自然に感じました。
立ち居振る舞いも、いかに沢山練習して自分のものにしてきたかが伺えました。
次女の方が、立ったり座ったりの拍子に下前を踏んづけてしまったらしく、
一場だけ下前の衽がベロッと裾引いてしまった時には、どうなることやらとドキッとしましたが、次に出てくる時にはキチンと直っていました。
慣れない和服です、本当によく練習を積まれたことでしょう。
女性のお辞儀がとても綺麗でした。
立った時のお辞儀の形も、特に青木ひさ ( 清左衛門の妻 ) を演じられた玉木文子さんのお辞儀が品があってとても美しかったです。
冒頭の使用人に対するお辞儀が少し丁寧過ぎた感がありましたが。。。
恒吉雄一さんは、久々の舞台。
連日の公演で、ちょっと喉の調子を悪くされていたようですが、
それでも忠臣であり、律儀で、皆から慕われる当主清左衛門の役を好演されていました。
玉木さん同様、恒吉さんの品格にも今更ですが感心・感動。
年配のキャリアのある俳優さんがキチンとしている芝居は見ていて本当に気持ちの良いものです。
ご本人だけでなく、芝居全体の格がどーんと上がります。
おざなりだったり、形ばかりにこだわってきたり、適当だったり、ずるかったりした人の演技は、歳を重ねてくればくるほど、いやらしさや下品さがにじみ出てしまうと私は思っています。
今回、そのようなお里が知れるような演技者は一人もいない。
こんなことは、実は、凄く珍しいことだと思います。
それは多分、いえ間違いなく、作・演出の橘 相模守さんの持つ目の確かさなんでしょう。
「忠次郎、お前の剣は真直ぐで、筋がよい」
清左衛門さんのセリフがよみがえりました。
真っすぐで素直な筋の若者たちを集めて、時を惜しまず、稽古を重ねる。
相州雅屋の稽古風景はそんな感じなのではないかしら。
橘 相模守さん、見逃せない人がまた一人出来ました。
相州雅屋の次回作品も期待しています。
物語のざっくり いえ、すんごい長い備忘録です ⤵
あらすじ
土砂降りの雨音の中、明かりがつくと、数人男女が悲しんでいます。
青山家当主-清左衛門が殿から切腹を言い渡され、長男-一之進の介錯で切腹・そのあとの次の間から物語は始まります。
清左衛門の妻-ひさ ( 玉木 ) は、お家とりつぶしもあろうからと、使用人の母子-よね ( 赤松 ) と忠次郎 ( 唐木 ) に暇を言い渡す。
長女-たえ (乃り音) とその夫-白坂与左衛門 (小川) もかけつけている。
次女-こん (湯川) 、三女-はつ (田口) は悔し涙にくれ、泣き続けている。
長男の親友-片岡新右衛門 (橘相模守) と清左衛門に恩義を受けている浪人-直江武兵衛 (安藤) は、
忠臣であった清左衛門が何故殿から「こんなおさたを」と納得いかぬ様子である。
関戸 (鈴木)、三嶋 (斉藤)、高槻 (佐久間) の三人が勝田市郎兵衛 (小島) の屋敷を訪れている。
三人は、清左衛門と仔細あり憎んでいる様子で、切腹したと知り喜んでいる。
主の勝田が登場。
勝田は三人の「清左衛門憎し」と、自分の怨恨では重さが違うと言う。
「清左衛門は昔、我が家 伝来の刀を皆の前で馬鹿にした。
家宝の刀への侮辱は私心ではない、お家全体への侮辱、ひいては殿への侮辱でもある。
だから私はこの一件は二者で解決するのではなく、清左衛門は殿から罰を受けるべきだったのだ」と言う。
どうやら( この一件が元で ) 勝田の進言により清左衛門は切腹となったようです。
気丈な妻-ひさだったが、月夜の晩、元気だった頃の夫を回想する。
清左衛門が長男-一之進と、使用人-忠次郎に剣道の稽古をつけている。
忠次郎の真直ぐな心と剣の筋を褒めてやる清左衛門。
次女と三女を呼び、娘たちの長所を褒め、短所を戒める清左衛門。
今思えば遺言のようなシーンであった。
回想はつづく。
今日は青山家恒例の月見会。
月見は知人を呼んで一家総出の宴。
一之進の友人-片岡に、直江とその妻 (照井)、白坂と長女-たえ、ひさの友人-はまも集まっている。
白坂の使用人-伝蔵の姿もある。
伝蔵と忠次郎は使用人同士、歳も同じころ、仲良く酒を飲んでいます。
主を亡くした青山家の女たちの元には、心配した知人がやってくる。
はまも見舞いに訪れた。
はまには一人息子がいたのだが他家へ養子に出していた。
その子は立派に成人し、養父母が亡きあとの片岡家を継いでいた。
実は一之進の親友、片岡新右衛門こそ、はまの実子だったのだ。
はまと新右衛門の関係を気遣うひさ。
主を失ったひさを気遣うはま。
幼馴染のはまとひさは、何でも相談しあう仲だった。
三女のはつも寂しさを隠せず暮らしていた。
年頃も近いことから、はつは伝次郎に相談をもちかける。
「この辛い想いから抜け出せる道はないかしら」
伝次郎は、宵の明星に向かって叫び出した。
「辛い事があったら空に向かって叫べば良い」と清左衛門から教わったことを思い出したのだ。
「清左衛門さま~。
はつさまも、奥さまも、たえさまも、こんさまも、、、皆さま息災であられます。
どうか、ご安心くださいませ~」
忠次郎に則されて、はつも叫んだ。
「お父さま~、元気でやっております。どうかみんなをお守りください」
白坂の家では与左衛門が父親から「たえを実家に帰すように」と命じられていた。
不始末を起こした家の娘を嫁にしたままでは白坂家の為にならないというのだ。
しかも、離縁まもなく「後添えを貰え」といわれる始末。
苦悩する与左衛門は、河原でひとり物思いにふけっていた。
そこには、もう一人物思いにふける はまがいた。
はまは、別れた息子-新右衛門のことを考えていたのだった。
するとそこに、おこそ頭巾を被った麗人と御付きが現れて「青山家はどこか」と尋ねる。
はまが2人を青山家に案内することになった。
青山家では、町娘のせつ (小林) としず(河合) への私塾が終わろうとしていた。
花嫁修行の先生は出戻りの長女-たえ、その助手は直江の妻-たきだった。
授業が終わり、たえはたきに、清左衛門の形見だと品物 (古着等一式) を渡す。
形見というのは口実で、直江家の生活苦を心配してからのものだった。
かたくなに誇示する たきだったがとうとう品物を受け取ってしまう。
それを知った夫-直江は「武士たるもの、どんなにひもじくとも、人から施しを受けるものではない。私がそれを一番嫌いなことをお前は知っているはず」と激怒する。
青山家に着いた麗人、実は殿の正室-徳姫だった。
姫は殿からの言伝をもって訪れたという。
不在の当主-一之進とその母-ひさの代わりに対応する三姉妹に、
姫は頭を下げて、殿からの書状を渡す。
書状には
「清左衛門の切腹については早計であり、今は深く後悔している。
青山の家は長男の一之進が継ぐように」と書かれていた。
清左衛門の嫌疑は晴れた。
喜ぶ家族をよそに、片岡や直江は、殿の後ろで糸を引いていた人物が勝田ではないかと確信し激怒する。
数日後。
士官先が決まった直江は妻への土産を持ち家路に急いでいる。
土産は、たきに生の付くものを食べさせたいと買った鰻 ( ? ) だった。
そんな直江とばったり出会ったのは三女-はつと使用人-忠次郎だった。
三人が立ち話をしていると、清左衛門憎しの関戸・三嶋・高槻の三人組がやってきた。
三人の用向きは
「青山家に行き、勝田氏との件は穏便にと頼みに行く」というものだった。
「やはりそうであったか。何を今更。穏便にとは、はなはだもって勝手な話」と
剣を抜く直江と 加勢する伝蔵。
しかし直江と丸腰の伝蔵はあっけなく三人に斬り殺されてしまう。
知らせを聞き駆けつける白坂は、家臣の伝蔵の死を「あっぱれ」と弔う。
話を聞いた青山家の家族と知人たち。
長男-一之進は憤り、勝田に果し合いに行くというのを片岡に止められる。
「お前は当主だ、青山家を守れ。幸い俺は天涯孤独、代わりに俺が行く」
多勢に無勢、無駄死に覚悟の片岡の後ろから、はまが幼名で声をかける。
「なつかしい呼び名だ、こんな時に。。。
母上ですね、わかっていました。どうぞお元気で」
はまが母親だとうすうす気が付いていた片岡は、後ろも振り返らず去っていく。
片岡にそう言われたものの、やはりほってはおけないとおっとり刀の男たち。
青山一之進に、元娘婿の白坂、青山家使用人の忠次郎も続く。
勝田の家では、関戸・三嶋・高槻や複数の家臣が迎え撃つ。
多勢の武士たちと斬りあう内に、忠次郎、白坂と死んでいく。
瀕死の一之進は、やっと見つけた勝田に果し合いを求めるが力尽き絶命。
深手を追った一之進との果し合いを拒んだ勝田には彼なりに理由があった。
「清左衛門と私の確執は、やはり二人でかたをつけるべきことだった。
そうすれば、このように沢山の命を失うことはなかった。」
彼は、瀕死の一之進との戦いを良しとせず、切腹という形で決着つけたかったのだ。
多くの命が失われた。
武士の一分。残ったは女たちは『死』の先に、自らが生み出せる『命』に一縷の光を追い求めるのだった。