Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

『蜜柑』 著:永井龍男

 

この短編は、不倫相手 ( 、、、というと陳腐に聞こえてしまいそうですが ) との別れを話し合った男が、箱根のホテルから横浜の勤め先までタクシーを走らせる、その道中の話です。

車内では、タクシーの運転手の話を交えながら、四十五の男の心理と、十五年下の女の心理が、ウマい具合に絡まりあったりほどけたりしていきます。

今日びの小僧っこにはまだまだ理解し得ぬだろう、いや、一生かかっても交わせないだろう、大人の会話を楽しめました。

 

下記は、描写をまとめたものです。

ネタも楽しさもバレバレに書きまくっています。

これから読まれる方は飛ばしていただいた方が良い内容です。

いえ。あの。

よく考えたら、私の感想文は、いつもこんなもの。

こうしか書けないの。申しわけありません。

 

f:id:garadanikki:20171129171921j:plain物語は、箱根のホテルから始まる。

四十五才の私には、三年来病床にいる妻と、この頃ひそかに煙草をたしなみ出した年頃の長男がいる。

連れの女は十五才下の愛人。

女とは、ホテルで夜明け近くまで別れ話をしていた。

早晩そういう日がくることを予期しながら、先延ばしにしてきた二人だが、女に良い条件の再婚話があり、私がたびたび慫慂するごとに女は不機嫌になりながらも、その話を断り切れずにきていた。

 

別れが決まり、翌朝ホテルから横浜の会社に向かう車に、逗子に住む女も同乗した。

「逗子を廻って行ってくれ」という私に「・・・鎌倉で降りるわ」と、女が云った。

なるほどその方が良いかも知れぬ、女はもう「大事な体」なのだ。

狭い土地で、目に立ってはならないだろう。

 

道中、運転手が名古屋から東京まで乗せたという黒人の将校の話をした。

仕事で名古屋に行ったその将校が夜の上りの急行をのがしてタクシーを利用したという。

送り先は、東京五反田のオンリーさんの家。

「つくづく幸せな女だと思いました。名古屋から一心不乱で駆けつけたんですからね」

私は話に引き込まれ ~ 女に話かけようとしたが、女は目を閉じ、頭をクッションにゆだねていた。

 

大磯通りから、西風の辺りはますます勢いをました。

「こいつはいけない」

運転手が車を停める。

舗道の幅一面に、途方もない数の蜜柑が散乱していた。

舗装の砂にスリップしたオート三輪から落ちたものだった。

「手伝ってやろう。拾ってからでなくては、通れないだろう」

私はそういって表へ出た。

「黒人の将校の話、面白かったわ」唐突に女が言った。

私は振り返って、車内の女を手招きした。冷たい風の中に、女を立たせてみたいと思ったのだった。

風の来る海に向って、私はしばらく立っていた。

夕方の電話にも、私は出ないつもりになっていた。

 

国道134号線

f:id:garadanikki:20171202123417j:plain

2人の見た風景は、たぶん こんなだったかな。。。

 

 

男女の駆け引き、、、機微がよく描かれていると うなりました

「ねえ、今度いつなの? いやよ。はっきり約束なさらなきゃあ・・・」

「だって、君」

私が言葉に詰まっているのを、女は先手を打ってきた。

「いやいや。それはそれ、これはこれよ。話が正式に決まるまでは、いままで通り逢って下さらなきゃ嫌やよ」

逗子では降りずに、鎌倉で降りると心を遣う女が、まるで反対のことを言っている。

私が崩れれば、なにもかも壊れてしまうかも知れない。

 

風が寂しいという女の話は、結末の伏線になっていたのでした⤵

「逗子も、こんな風かしら」

私は、風波の騒ぐ海の方をのぞいた。

「夕方、会社へ電話するかも知れない」

「そんなことでは、とても駄目たな」

「そうよ。駄目よ。しないつもりでいても、夕方になったら、きっと電話をかけてしまうと思うわ。こういう風の日の夕方、一番嫌い・・・」

「夕方になれば、風や止むかも知れない」

「止んだ後って、淋しいものよ」

試すように目で、女は私をしばらく見詰めていた。

 

 ちょっと意地悪な男のセリフ ⤵

「黒人の将校の話、面白かったわ」

「眠ってたんじゃないのか」

「その将校と一緒に、運転してる夢を見たわ。一分か二分眠っただけなのに」

「うらやましいと思ったからかな」

「そうかも知れない」