【あらすじ】
長州征伐に向う船上での話。
虱に悩まされる武士たちだが、森という武士が、虱を集めて “ 飼う ” と言い出す。
虱が体にたかっていれば、痒いから掻く、掻くから温まる、温まるから眠くなる、眠くなれば痒いのも気にならない、というのだ。
それから森を真似して、虱を飼う連中も増えてきた。
しかし、いつの世にも反対意見があるもので、中でも、変わり者の井上は、虱を見れば喰ってしまう。
さすがに井上の真似をして虱を食う人間は一人もいないが、森に対する反対から井上に加勢する人間は、かなりいる。
やがてそんな行きがかりで森派と井上派との間に、時折口論が持ち上がる。
しまいには刃傷沙汰さへ起こるようになっていた。
船の上で虱の為に、刃傷沙汰を引き起こしている間も、五百石積の金毘羅船だけは、
まるでそんなことに頓着しないように、遥々として長州征伐の途に上るべく、西へ西へと走って行った。
虱を飼うだの、喰うだのと、流石にえぐい話に、引いてしまいパスしようかと思った。
あらすじだけでもまとめてみようと読み返してみたら、やはり芥川さんのテンポの良さに魅了された。
長州征伐に向う武士たちが、窮屈で不衛生な船上で次第にストレスが溜まっていく様子が愉快だ。
虱ごときで、口角泡を飛ばす議論を始め、しまいには刃傷沙汰になる様が、シャープな文体で面白く描かれている。
討伐前の血気盛んな男たちの様子が目に見えるようで、とてもいとしく思った。
余談。。
最近、芥川龍之介と里見弴と(たまに有川浩をはさむ w )を交互に読んでいたら具合が悪くなった。
両者の文脈やテンポが両極端だからかも知れない。
里見作品を続けて読む分には全く気にならなかった、というより、そのくどいように重ねていく長文が好きだったはずなのに、何故かもどかしく感じて頭に入ってこなくなった。
芥川さんはテンポよく武家物を、里見さんは、長文を武器に商人や芸人を描いた作品が似合うような気がする。