garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

フランシス・アイルズ『殺意』

 

フランシス・アイルズ『殺意』を読了。

  

東京創元社の創元社推理文庫

 

【あらすじ】

英国の郊外に住む開業医ビクリー博士は、ほかに好きな女性ができたため、妻を殺そうとする。

入念に準備し、完璧な殺人計画を実行に移す。

彼を怪しいと睨む捜査官との対決から、法廷の攻防と進み、完全犯罪は達成されるのか。

上記は、ネットでよくみる、ざっくりとしたあらすじで、

この作品は、リチャード・ハル『伯母殺人事件』、F・W・クロフツ『クロイドン発12時30分』と並ぶ 三大倒叙ミステリーといわれている。

 

しかし、私はミステリーらしさをあまり読み取れず、ミステリーとしての面白さより、主人公の感情の流れや人間関係の機微の面白さの方が勝っているように感じた。

 

確かに巧妙に練られた殺人計画は見事だが、

主人公がそこにいきつくまで、いかに妻にしいたげられていたかとか、

ご近所のお付き合いに揉まれていたとか、ゴシップに悩まされていたかという描写が魅力的だった。

作者は、それら人間関係を描くのに、殺人計画・捜査・法廷をはるかに上回るページを割いている。

 

主人公が妻を殺す、単純な話じゃない

主人公に妻殺しの容疑がかかったことも、主人公が第二第三の人間に殺意を抱くのも、

ゴシップがキッカケだったということを、作者はそれはそれは丁寧に書いている。

だから深いし、だから皮肉だし、名著なのだと思った。

 

 

夫婦のエピソードが好き

妻のジュリアは年上で、女性的魅力に欠けた風貌、血筋をひけらかし、夫を尻にひいてきた女。

夫のビクリー博士は、そんな妻に内緒 ( のつもり ) で複数の女とうつつを抜かす男。

こんな二人のやり取りが実に面白い。

私は、殺される側の妻に魅力を感じた。

 

例えばこんなところ⤵

血筋をひけらかすジュリア

結婚するまでは、ビクリー夫人はクルースタントン家の人間だった。姓は変わったが、そのほかのあらゆる点で、いまだにクルースタントン家の人間だった。彼女は一日に何度となくそのことを夫に見せつけた。

短い婚約期間中、一度ならず、まるで耳よりな面白い話を聞かせてやるような調子で、祖母は、医者と食事を共にするくらいなら執事のほうがまだましだと、口ぐせのように言っていたのに、皮肉にも自分が医師とこうして結婚することになったこと、そして、この話を祖母に聞かせたら、きっとびっくりして死んでしまうだろう、などと笑いながら話した。

妻は折あるごとに、この奇妙な運命の変転について語ったが、ビクリー博士は、そのたびに、お祖母さんが生きておられたら、どんな思いをされるだろうと、同情の意を表明した。

フランシス・アイルズ著『殺意』東京創元社版 p.13より

 

夫の愛人の性格を見抜き、苦言を呈するジュリア

「わたしは、遠回しにいえないたちの女でね、エドマンド。だから、これからいうことは、あなたの耳には痛いだろうし、その点、気の毒に思うわ。でも、言わなくちゃならないわ。今日のミス・クランミアとの会見は、とても有益だったわ。話の要点をここで披露する気もないし、それに、あの娘の云ったばかばかしいことを話すつもりも、もちろんないわ。ただ、わたしの目をあけてくれたことだけは言っておくわ。こんなことを言って、あなたには悪いけれど、あの娘は猫っかぶりよ」

 

「ジュリア」ビクリー博士は色をなして叫んだ。

「猫っかぶりよ」ビクリー夫人は落ち着いてくりかえした。

 

「あなたのことなんか、なんとも思ってやしないわ。ひとりで面白がってるだけよ。あなたと結婚するつもりなど全然ないわ。たとえあなたが独身だとしてもね。あの娘が、あなたを相手にしているときとおなじように、デニス・バーンとも、さんざんいちゃつきまわっていることを、知らないの? あれは、たいへんな気どり屋よ。いつもお芝居をしているのよ。生活に困ったら、すぐにでも舞台に立てるわ。ヒステリーだということも、はっきりしてるわ。それでいて一方では冷静に計算をしているのが見え透いていて、ほんとに吐き気がしてきたわ。ガリガリの利己主義だわ。自分のこと、自分のくだらない気持ちのことしか考えない女よ。つまり、あの娘は信頼のおけない、変質京といってもいいほどの利己主義で、嘘つきのなかでも一番たちの悪い嘘つきだわ⸺他人をだますだけでなく、自分までだましている嘘つきよ。もちろん、わたしだって」ジュリアは、できるだけ公平な態度をとりたいと努力しているように言いたした。

フランシス・アイルズ著『殺意』東京創元社版 p.138より

 

 

妻のジュリアは、確かに悪妻かも知れない。

しかし、彼女には彼女の価値観があり、道理は通っていて、決して馬鹿とはいえない。

彼女は、マドレインが夫の愛人と知るや、愛人宅に押しかけ問答し、マドレインの本性を見抜いて帰ってくる。そして夫に「あんな女はやめなさい」と言う。

 

彼女が評したマドレイン像《猫っかぶり》《嘘つき》《ヒステリー》は、

彼女亡きあと、夫の弁護士が法廷で口にするマドレイン像と見事に一致していたのが愉快だった。

 

 

 

本日の昼ごはん

冷やし 半田そうめん

 

 

 

 

本日の夜ごはん

一晩水につけて煮たおまめさん、昨日の枝豆の酢漬け、ポリポリ大根

 

牛肉と空心菜の炒め物、キャベツの浅漬け ( 塩昆布と昆布茶 ) 

 

空心菜のシャキシャキした食感と牛肉の相性が良かったです。

 

 

 

とじ込みは、『殺意』の登場人物

 

【登場人物】

エドマンド・ビクリー医師 ⵈⵈ ワイヴァーンズ・クロスの開業医

ジュリア・ビクリー ⵈⵈ その妻

  ★

ヘサリ・トア ⵈⵈ 教区牧師

トア夫人 ⵈⵈ その妻

カーニアン・トア ⵈⵈ 牧師の娘

ベンジー・トア ⵈⵈ 牧師の息子・気難しい

  ★

ミス・ワプスワーシ ⵈⵈ 村の老嬢

ミス・ピーヴィ ⵈⵈ 村の老嬢

  ★

アイヴィ・リッジウェイ ⵈⵈ ビクリー医師の愛人

ギニフリッド・ラタリー ⵈⵈ 少佐の娘・ビクリー医師がご執心な女性

マドレイン・クランミア ⵈⵈ 「屋敷」にひとり住む話題の女・ビクリー医師が求婚する女性

  ★

デニス・バーン ⵈⵈ 大地主の息子( マドレインはビクリーを振り彼と結婚する ) 

ウィリアム・チャトフォード ⵈⵈ マーチェスターに事務所を持つ弁護士・アイヴィの夫になるが、妻がビクリー博士と恋仲であったことを知りビクリーに敵対心をいだき、ジュリアの死をもう一度調べるように警視庁にいう。

  ★

ラッセル警部 ⵈⵈ チャトフォードの届け出で捜査にきた警部

F・L・ガンビル ⵈⵈ ビクリーの弁護士

サー・フランシス ⵈⵈ ビクリーの弁護士