Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

椰月美智子『こんぱるいろ、彼方』

 

椰月美智子 著『こんぱるいろ、彼方』を読了。

 

この本は、《私の読書の導き人》のおふたりの紹介で読もうと思ったもの。

あらすじ・解説・感想は、申し分のないおふたりの記事をご覧ください。

 

tsuruhime-beat.hatenablog.com

hikikomoriobaba.hatenadiary.com

 

おふたりと私は、ベトナム戦争をリアルタイムで見聞きしてきた年代である。

リアルタイムの戦争は他にもあるが、私にとってベトナム戦争が深く心につき刺ささったのは、思春期の多感な時期にあった戦争だったからだと思う。

 

特に忘れがたいのが、ベトちゃんドクちゃんの悲劇だった。

米軍が投下した枯葉剤の影響で、結合双生児として生まれたベトちゃんドクちゃんの痛ましい姿や、2人の分離手術をする為に日本赤十字社のドクターが立ち会われたことも強く記憶に残っている。

 

また、ジョンレノンが発表した「イマジン」がベトナム戦争の激化を背景に作られたことも忘れられない。

 

そしてもうひとつ。

本の登場人物、春恵 ( スアン ) のエピソードに、シルヴィ・バルタンの『アイドルを探せ』が出て来たのが驚きだった。シルヴィ・バルタンは私も大好きな歌手だったからである。

 

 

ベトナム戦争で知らなかったこと

私がベトナム戦争をよく理解していたかというと、とんでもないことで、

《上っ面をなめるくらいしか知らなかった》のだと、この本を読み、しみじみ感じた。

ベトナムの南北関係、政治思想の違い、ボートピープルとして外国に脱出しなければならなかった人たちの理由、日本に帰化した人たちのその後どんな生活を送ってきたかもこの本で知った。

 

 

『こんぱるいろ、彼方』

この本は、春恵、真依子、奈月の三世代の女性の話だ。

春恵 ( スアン ) はベトナムで生まれ、結婚した夫と三人の子どもとボートピープルとして日本にやってきた女性。

真依子 ( マイ ) は春恵の娘で、両親と兄姉と日本に来て、帰化した後 日本人と結婚。2人の子どもを育てている主婦。

奈月は真依子の娘で、自分の母方がベトナム人だということも知らずに育った大学生。

 

奈月が母の出自を知ったのは、友達とベトナム旅行に行こうとしたのがキッカケで、パスポートを取る時に、母から告げられた「ベトナム」の話に彼女はショックを受ける。

何がショックだったかというと、自分にベトナム人の血が流れているということではなく、母がそれをずっと隠していたことだった。

 

親子関係が面白い

母娘の性格は正反対である。

娘の奈月は何事にもポジティブで、正義感、向上心、知識欲の強い性格。

自分がベトナム人のハーフだと知るやいなや、ベトナム戦争、ボートピープルついて果敢に調べはじめる。母に聞いても埒が明かないとわかると、祖母や伯父伯母をたずねて聞きまくる。

 

一方、母はとても消極的。

娘は母のことを「適当、いつも曖昧、どっちつかずで、無難にこなしている感じ」と言う。

母は、自分の出自に無関心で生きてきた。

そんな話を象徴するシーンがこちら⤵

姉の蘭は、両親と同居している。蘭の夫は日本人だけれどベトナムで仕事をしていたこともあり、ベトナム語は堪能。蘭はアメリカに留学経験もあり、英語もできる。蘭の夫も英語は得意だ。家庭では主に日本語とベトナム語らしいが、美咲はきっと英語もできるだろう。

「だからわたしは、おじいちゃんとおばあちゃんとあまり話ができないのよ」

奈月が口をあんぐり開けている。声に出さなくても、信じられない!という言葉が顔に書いてある。

「……ねえ、だって、家ではベトナム語だったんでしょ?」

「うーん、小さい頃はそうだったと思うけど、小学校に入ってからは日本語を話すことのほうが多かったから、そのうち自然に日本語ばかりになって、いつのまにかしゃべれなくなってたの」

「……うそみたい。勉強しなかったわけ?」

真依子が正直にうなずくと、人それぞれだからな、と夫が助け舟を出した。

「なんとなくわかる。お母さんの性格……」

姉兄妹でも、考え方や資質、感性はまるで違う。末っ子ということもあるのだろうか。真依子は昔からマイペースでのんびりした子だった。

日本に来たばかりの頃は、もちろんベトナム語も話していたはずだ。それが小学校に通うようになって、中学に入学する頃にはもうできなくなっていた。

 

お姉さんとお兄さんはできるのにどうして? と言われるし、自分でもどうして? と思うけれど、ベトナム語ができないことを苦にしてことはないし、申し訳ないと思ったこともない。さみしいと思ったこともないし、恥だと思ったこともない。ベトナム語を話せないことが不便だなんて、ちっとも思わなかった。日本に住んでいて、日本語ができれば十分だった。両親とは複雑な話はできなかったけれど、友達がいれば、親に相談を持ちかける必要はなかったし、両親のカタコトの日本語と、単語を羅列しただけの真依子のつたないベトナム語を合わせれば、意思疎通はなくとかなった。なんとかならないときは、姉と兄が通訳してくれた。

 

姉と兄は勉強もよくできて、兄は奨学金で大学院、姉は大学まで出ている。真依子は高校卒業後、服飾の専門学校に通った。けれど最初に就職したのは、勉強したこととはまったく関係のない不動産会社だった。

いつも、そのときそのときで選択してきた。計画をしてあれこれ考えるのは苦手だったし、そんなことをしてうまくいった例しもなかった。

p.114

 

親と会話も出来なくても、なんとも思わないでいるなんて・・・・

奈月ではないが、あんぐり口が開いてしまった。

この、真依子の性格、のんびりを通り越してちょっとオカシ過ぎると思った 💦

 

 

奈月が母に、何故ベトナムのことを言わなかったのかと聞くと、

「いじめられたら可哀そうだから」という単純な答えが返ってきた。

それに対して奈月は猛反撃する。

「それって、お母さんは、わたしのことをまったく信用していないってことだよね」

「え?」

「余計なお世話ってこと。親がベトナム人だからなんなの? わたしがハーフだからなんなの? なんの問題があるの? 小中のとき、クラスにフィリピンの友だちいたよ。高校のときだって、イギリスと韓国の子がいた。みんな大好きな友達だよ。なんでいじめられる前提なわけ?」

語尾がかすかに震えていた。

「・・・そうだね、ごめん」

奈月の言う通りだ。実際、真依子はいじめられたことなどなかった。

「わたしたちのせいにして、本当はお母さん自身が隠しておきたかったんじゃないの?お母さんが自分のことをはずかしいって思ってるんじゃないの?」

すぐに言葉が出ない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。わからなかった。自分の出自を、突き詰めて考えてこなかった。

「言い過ぎた、奈月。子どものことを心配しない親はいないから」

夫の言葉に奈月は、

「お父さんも同罪だよ」

と、ぴしゃりと言い放った。

「子どもたちに伝えるべきだ、って、お母さんを納得させてほしかった。だって夫婦でしょ?わたしと賢人の親でしょ?」

夫は目を丸くして、そうだよな、とゆっくりうなずいた。

「奈月、パパは伝えた方がいいって、ずっと言ってたわ。でもわたしが、どうしても言えなかったの。パパの責任じゃないわ」

「ちょっと勘弁して。そういうのは二人でやってよ」

す、すみません、と冗談みたいに夫が舌を出して、肩をすぼめる。

「今さら責めても仕方ないけど、あんまりだと思った」

「ごめんね、奈月」

「OK、その件はもういい、忘れないとは思うけど。本題に入る」

p.109

奈月はそう言って、ベトナムについて自分なりに調べたことや、大量の本を抱えてきた。

 

 

子どもに話すか、隠すかの問題

帰化した二世が子どもに話すかどうかは、その家庭 その家庭で違っていた。

同じ兄妹でも、配偶者や家庭環境によって複雑に違う。

長女の蘭 ( ラン ) の家は、夫が仕事柄ベトナムと関係のあることや、両親と同居していることから、娘にはベトナム人であることを話している。

 

長男の強司 ( クオン ) の家では、妻が強く隠したがるので、娘にも息子にも内緒にしている。

 

二女の真依子 ( マイ ) 家では、夫は「話した方がいいんじゃない?」と言っていたけれど、真依子がなんとなく延ばし延ばしにしてきた。 

 

その結果、従兄同士で秘密ごとが生じる。出自を知る子と、知らない子がいるのだから、どこかでほころびが出そうなものだ。

実際 奈月は、祖父母の話し方が少し変わっていると感じていたが、訛っているのだと思っていた、山深い北の国や、遠い南の孤島、そんなところで生まれ育ったのだと本気で思っていた。母方の家族が、伯父のことを「クオン」と呼ぶのもニックネームか何かだと思っていた。

 

ボートピープルと沖縄の話

ひとことでボートピープルといっても、いろいろ格差があったようだ。

資産家だった祖父の義雄 ( フン ) は、漁船を買い船長を雇い、その船で脱出したという。

これは特異な例で、もっと過酷なケースが多かったようで、15mの長さの船に百人以上乗っていて、屋根まで人が乗りびっしりだった、何人も死んだ、という話も作中で語られている。

 

 

もうひとつ印象的だったのは沖縄とベトナムの関係だ。

沖縄もベトナムも複雑な歴史を持つ。

沖縄は中国や薩摩藩に翻弄され、アメリカに占領され、日本に変換された後もアメリカの基地がおかれている。

ベトナムもフランス領だったり、南北分断があったり、アメリカに軍事介入されている。

作中で「沖縄の人が、沖縄基地から飛び立った米軍の爆撃機がベトナムに向けて飛び立って行くのを見るたびに申し訳なく思った」という話があったのに心が痛んだ。

 

 

タイトルにある、こんぱる色は、明るい深みの鮮やかな青色で、洋色名はターコイズ・ブルー。

タイトルの「こんぱるいろ」は、南ベトナムのニャンチャンの海の色をイメージしているようだ。

 

ターコイズ・ブルーというと、もうちょっと青が強い気もするが、

色というのは、パソコンのモニターを通すと微妙だし、本の色とも少し違う。

 

因みにニャチャンの海はこんな色らしい

 

 

本日の昼ごはん

冷やし中華

 

夜は撮りそびれました。

ん、何食べたんだっけ( ^ω^)・・・