Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

北方謙三『君に訣別の時を』

 

北方謙三 著『君に訣別の時を』読了

1984年 ( 昭和59 ) 発行。

40年も前の本だ。

なぜ今ごろ? こんな古い本かとというと、先日 情熱大陸に北方さんが出ていらしたから。

北方謙三さんの本は、そういえば読んだことはないなあと思い、どうせなら初期の本をと思ったのだ。

 

 

初期の北方さんは “ハードボイルド小説の旗手” として活躍されていたが、昨今は歴史小説の大家となっているが、最近、久々の現代小説『黄昏のために』の出版されたというので、情熱大陸も新刊の宣伝であろうと思われる。

 

北方さんが原稿を書いているのは、三浦海岸の別荘

あらまあ

ここまで特徴的な白くて丸い柱と桟橋がわかると場所を特定するのは簡単。

対岸がリビエラシーボニアマリーナがハッキリ見えるし。

ここに別荘を持っているのは有名な話だろうから、わかられることも承知で出しているのでしょう。

 

ということで対岸のリビエラシーボニアマリーナ。

 

リビエラシーボニアマリーナから見た対岸

 

ここ



いきなり脱線した、本の話します。

「君に訣別の時を」の内容

中古車販売業を営む元レーサーの立花新太郎は、自分のもとにから姿を消した悠子からの救いを求める手紙を受け取った。

彼は東北、三陸海岸の田舎町に飛び、画家の野口が妻と営むスナックを訪ねるが、野口夫婦は面倒事を抱えていた。

立花は何者かに襲われたり、地元の人々に無視されながらも、自分でもわからない何かを確かめるかのように躰を張り、無茶を続けるのだった。

疾駆する男の姿が眩しい力作長編。

集英社文庫より

 

北方さんの文章は、とてもわかりやすくてテンポがいい。

内容は古くて、今ではちょっとお目にかかれないタイプの男の話。

登場人物たちを現在の俳優でキャスティングしようと思ったら似合う人がひとりもいないから。

 

例えば。

主人公の立花新太郎は、藤竜也みたいな人。

元恋人の池田悠子は、中村れい子みたいな人。

画家の野口富夫は、林隆三とか原田芳夫で、妻のまり子は、倍賞美津子。

駐在さんの小沢は、室田日出男。

バイクの若者・山下進は、高柳良一。

まり子を付け狙う夫の息子 根津甚八

 

ネタ元はこちら

友よ静かに眠れの出演者の面々。

同じ北方謙三つながりでキャスティングしてみました。

 

男気のある古いタイプの男の話なので、今の若者にやれっていっても無理です。

こんなシーン出来る人いないでしょう?

野口の絵を毎月買いに来る胡散臭い男たちに、主人公の立花は「自分が絵を買う。セリ落とすか?」と横やりを入れ、男たちにぼこぼこにされる。

警官の小沢が笛を吹き、男たちが逃げる。

「気分は?」

「いいわきゃないだろう」

やっと声が出た。ついでに、胃の中のものまで出そうになった。差し出されたコップの水を、ひと口飲んだ。まり子の手だった。

「ほんとに無茶な男だ」

「忘れたくないんだ」

「なにを?」

「自分が男だってことをさ」

「血だるまになるのが、そうなのか?」

「時にはな」

p.60

 

 

 

こちらは野口と立花の会話。

全く違ったタイプなのになんだかウマが合うらしく、こんな会話をしている。

「いい絵と思うかね?」

「俺には絵なんてわからんが、きみがいま描いているのよりは、好きだな」

「わかるんだよ。そういう眼をもってる」

「いま自分が描いてるのは、駄目な絵ってことかね」

「駄目じゃない。だが、いい絵じゃないね。思う通りの色が、どうしても使えないんだ」

「芸術ってのも、難しいもんだな」

「サーキットでカーブに突っ込んでいく。そんな時、どんな気分になるものかな?」

「どこまで耐えられるか。いつもそう思ったな。横Gってやつが首にくる、遠心力でさ。素人はそれだけでビビッちまうもんだ。だけどそれは慣れる。怕い、と思うことにも馴れる。不思議なことだがね、難しいのはどれだけスピードを落とせるかってことなんだ。走りたい、早く走りたい。そんな気持ちを抑えなくちゃならん。スピードは出るんだ、いくらでもね。しかし、カーブで安全というスピードも確かにいる。そこの境目だな。安全と危険の境目まで耐えて、カーブを曲がっていくんだ」

「ぼくはね、その境目ってやつが見えなくなってるんだと思う。見えるというより、感じるというのかな」

「そう、躰で感じる。そんな具合だ」

「感じなくなったら?」

「死ぬか、惨めな負け方をするか」

野口の顔を見て、私は笑った。野口は笑わなかった。

p.116

 

 

こちらは、立花と野口の妻のまり子の会話。

まり子という女は、一緒になった男をどんどん潰してしまう魔性の女らしい。

「何人、散った?」

私も煙草をくわえた。カウンターの灰皿は、吸殻でいっぱいだった。

「きみのために、何人の男が散ったかね?」

まり子が私を見た。

「こうしてみていると、俺も散っていいって気分になってくるよ」

「馬鹿にしてるの?」

「とんでもない。わからんのか、惚れたって告白してるんだぜ」

力なく、まり子が笑った。いつも、どこかにものうい仕草か表情がある女だ。

「野口富夫って画家をしゃぶりつくして、きみはまたいい女になるのかな」

まり子は、もう笑っていなかった。

p.170

 

昭和の、男と女のドラマです。

とても懐かしいです。

面白かったです、北方さんの本