西崎正夫 編集『関東大震災 朝鮮人虐殺の記録』を読んでいる。
図書館から借りて4週間になるが、まだまだ全部は読み切れない。
読み切れない理由は二つの《重さ》にある。
510頁もの分厚い本がずしりと重いことと、
ひとつひとつの証言に胸がしめつけられ心に重くのしかかったことだ。
本の小口にインデックスがついていて、地区別にまとめられている。
証言の多い地域 ( 区 ) や、少ない地域 ( 区 ) が一目瞭然にわかるので、地域を抜粋して読むことも出来る。証言の中には、デマに惑わされる人がいる一方 冷静に判断できる人がいることも興味深かった。ひとつひとつの証言に引用元が明記してあるのを見て、こんなに多くの書籍や文書を集めていることにも感嘆した。
証言者は多岐にわたる。
色々な層の有名、無名の日本人や、朝鮮人の証言もある。
実際に惨殺される現場を目撃したというもの、噂を聞いて逃げ惑ったというもの、
実際に暴行を受けた証言まであった。
巻末には証言者・人名の検索が付いている。
もうひとつ、巻末に収められていた「関東大震災朝鮮人関連証言の改ざん例」という資料にも驚いた。「子供の震災記」という本「原本」と、検閲した刊行された本があり、検閲後の本は多くの文言が改ざんされているというのだ。
改ざん例をみると、当時の検閲のありようがよくわかる。
- 不逞鮮人・鮮人・朝鮮人→変な人・泥棒・盗人・悪い人など
- 朝鮮人襲来・朝鮮人さわぎ→大騒ぎ・夜警備のさわぎなど
原文にある朝鮮人惨殺関連の証言のほとんどは、刊行本では削除され、空白が目立つ場所は写真でスペースを埋めている。
- 鮮人がひなんしたのを殺された→知らない人が来たのでぶったりした
- 今も1人殴り殺された→削除
- 足でふまれ木でたたかれて泣き声をあげている→削除
- 目隠しして射殺し、死にきれないでうめいていると「私にも打たして下さい」と来て、皆でぶったり叩いたりするので遂に死ぬ→削除
社会主義者などに関する証言も変えられている。
- 大本教・社会主義→悪者共
大震災当時、集団狂気 ( マス・ヒステリア ) に陥った大人たちの内、さらに血気に走り残虐な行為の及んでしまった大人たちを見た子どもが、純真な目で真実を書いた文章が、さらにもう一度、大人の手によって改ざんされたり隠蔽されたりしまったことを知り愕然とした。
関東大震災当時のこういった史料を読む時、現在の私達の多くが「信じられない」と言う。
自分たちとは別ものの他人事の行動のように思いがちだけれど、果たしてそうだろうか。
もし自分がそこに身を置いていたら同じような噂を信じてしまっただろうし、絶対に過ちを犯さないといいきれる自信は、私にはない。
現在のヘイトスピーチや、SNSを通した虐めの行動も、根底は変わらないのではないかと思った。
最後に、本書に対するAmazonのレビューでこんなコメントを目にした。
★☆☆☆☆
嘘を広めるプロパガンダ。
事実に反することを延々と書き綴ったプロパガンダ本。証言した人達が実在しているかも怪しい。逆に当時の新聞には共産党と組んで暴動を起こし日本人を襲った朝鮮人が地元民から撃退されたという記事はちゃんと残っている。
件のコメントを読み、こういう見方をする人もいるのかと驚いた。
「本に書かれたことを鵜呑みにするな」というのは間違いなく妥当な意見だ。
本にしても、流言にしても、実際に体験したことでなければ疑ってかかり、自分の目で判断することは大切なことだと思う。
だが、この方が言われていることが正しいかというと、根拠なき意見と言わざるを得ない。
「怪しい」と片づけてしまっているけれど、掲載された引用が間違っているかどうかを調べることもせずただ否定するのは、当時流言を信じて行動した人と同じくらい《感覚でものを言い、考え、行動している人》と同じだ。
本書の証言は、その全てに引用元が明記されている。
例えば、里見弴、泉鏡花、大岡昇平、千田是也、梨本宮伊都子、藤田佳世などを拾い上げてみても実際に刊行された本からの抜粋で、私も実際に読んだことがある文章だった。
では、無名の人は不明瞭かというと、何年の新聞に掲載されたものとか、何年の何という本に掲載したものとか、出どころまでキッチリ明記されている。
このように、実際に刊行された本や資料を明記し掲載しているにも関わらず、
「怪しい」で片づけてしまうのは実に残念なことだ。
更にコメントには「当時の新聞には共産党と組んで暴動を起こし日本人を襲った朝鮮人が地元民から撃退されたという記事はちゃんと残っている」とあるが、《ちゃんと》という幼い言葉ではなく、日時と新聞名を明記しなければ議論にならない。
仮にこの方が言う「朝鮮人が日本人を襲い、地元民が撃退した」という事件があったとして、それが一人歩きし、別に地域でただ朝鮮人だというだけで罪を犯したかどうかもわからない人を惨殺していい理由にはならないのではないだろうか。
「罪を犯したら裁判にて審議をはかり、それにより罰を与える」というのが社会の最低なルールであり、民間人 ( 警察も ) が勝手に処罰していいということではない。
大地震の非常事態には、日本人であっても火事場泥棒のような行為にいたってしまう人もいたはずで《朝鮮人》《共産党》が惨殺の対象になったということは、やはり異常なことだ。
これを集団狂気というのであって、根底に差別があったことを忘れてはいけないと私は思う。
関東大震災で起きた惨事の記録を克明に調査した人や行為に対して、ただ感覚で「怪しい」とか「プロパガンダ」だとか言って片づけてしまうのは、ヘイトスピーチを助長することにつながる気がしてならないと私はどうしても思ってしまった。
膨大な資料を読み、そこからこれほどの量の証言を収集したことに対して、私は「よくここまで調べあげたものだ」と感嘆するが、こうした引用元が書いてあるにも関わらず「怪しい」と感覚でものを判断してしまう人もいることも、大きな驚きであった。
本日の昼ごはん
ナポリタン
本日の夜ごはん
なんだか滅茶苦茶( ´艸`)
スープは昨日のにんにく鍋の具を使ったもの