Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

松本清張 著『時間の習俗』

 

先日の鎌倉で、古本を買った。

 

光文堂書店は由比ガ浜通りにある、私が一番好きな店
tanosii-kamakura.jp

 

公文堂の包装紙には、高橋幸子さんの木版画が使われていて、

文庫本など2~3冊の購入でも、帯状の包装紙を巻いてくれる。

今回購入したのはこの三冊

幸田文さんの文庫 ( 新潮文庫 ) 二冊と、カッパノベルス版 松本清張「時間の習俗」。

 

 

しかし古いなぁ

初版は1962年だから、写真の清張さんもまだ52歳ぐらいだろう。なんたる貫禄。

 

 

前置きが長くなったが本題はここから。

「時間の習俗」

この作品は、ミリオンセラー『点と線』の三原警部補と鳥飼刑事が再びタッグを組んで、

犯人のアリバイを崩していく話。

 

《あらすじ》

関門海峡に面した門司市の古社・和布刈めかり神社において、旧暦元旦の未明に行われる「和布刈神事」に対する、写真撮影が殺到していた。他方、その前日深夜23時頃、神奈川県の相模湖近くの弁天島で、交通関係業界紙の編集人・土肥武夫の死体が発見された。土肥の投宿していた宿の女中は、女性が同行していたことを証言するが、その女性は行方不明になっていた。

 

有力な容疑者も挙がらず手がかりが掴めない中、三原警部補は土肥の交際人物のリストから、行動に作為の感じられるタクシー会社の専務・峰岡周一に着目する。だが、峰岡には「和布刈神事に行っていた」という完全なアリバイがあった。

 

 

峰岡周一のアリバイは、彼自身が撮影したという「布刈神事」の写真がネックになる。

本紙には所々にこうした写真や地図が掲載されている

古い手口のトリックが かえって面白い

清張さんの考えたトリックは、当時をよく映し出している。

60年前といえば、大金持ちの道楽者しか所有出来なかったカメラが、勤め人でも貯金をはたいてようやく買えるようなった頃、素人がカメラを持つのが流行った時代である。

和布刈神事にも見物人が殺到し、神事が最高潮になれば、しきりにフラッシュがたかれた。

新聞社などの職業的な人間もいたが、多くは素人のカメラマンだ。

そんな風潮が本作に投影され、ネガフィルムが鍵になっている。

 

具体的にいうと ( ネタバレにはなりません ) 

和布刈神事のネガが、容疑者が撮った14 ( 会社スナップ ) と、23 ( 女中のスナップ ) の間にあることでアリバイになっているのだが、、、、

三原警部補は、和布刈神事のスナップは実際に現地で撮ったものではなく、

「テレビのニュース画像を撮影したものではないか」とか、

「カメラを第三者に預けて撮ってきたもらったものではないか」などの考えを巡らせる。

 

 

トリック 画像の今昔

現在では、誰もがスマホで簡単に撮影できるし、

他人が撮影した画像を簡単にコピペしたり、スキャンしたりも簡単に出来るから、

ネガフィルムが云々というアリバイ工作は皆無だろう。

と同時に、平成生れの読者だったら、トリックの意味すら理解に苦しむハズだ。

 

今なら、YouTube動画も沢山あるし、

そこからこんな風にスキャンをすることも簡単なのだから。

三原警部補は直感の人、コイツと決めたらとことん追いつめるタイプの刑事。

鳥飼刑事も昔気質の人、足を棒にしてしらみつぶしに聞き取り調査をしていく刑事。

こんな刑事に睨まれた容疑者はたまらない。

 

捜査方法も昔ながらだし、トリックも今では考えられないようなものだったので、

新旧を知る私にとってはノスタルジックに浸れる読書となった。

 

この本は、3回ドラマになっているらしいが、

私の中での三原警部補は渡瀬恒彦さん、鳥飼警部は若山富三郎さんかな。



景勝地の今昔

因みにこちらも、本に出て来た景勝地の写真。

本書ではこんな風に書かれている。

「来たる四月二十五日に沈鐘の伝説で有名な鐘崎探勝をかねて吟行を催します。

同地は玄界灘に面した風光絶佳な海岸で、その漁村は、交通不便のせいもあって、いまだに純朴であります。

その沖合約二キロの海底には、昔、太閤秀吉が朝鮮から持ち帰らせた鐘が沈み、今でも天気のいいときは、その姿を舟の上から覗くことができるといいます。

昔、黒田藩ではなんとかしてこの鐘を引き揚げようとし、城内の婦女子の髪を切って綱を作り、引き揚げましたが、いかんせん、女の髪毛も相手が無機物の鐘とあっては功を奏せず、ぷっつり切れて、いまだに引揚作業が成功できないでいます。

ハウプトマンの『沈鐘』にも比すべき同地を訪れて、心ゆくまで逝く春の詩情に浸りたいと思います。ご希望のかたは、午後二時三十分までに鹿児島本線赤間駅にご参集ください。」

松本清張 著『時間の習俗』p.316より

 

上は、作中に登場する《俳句の同人誌》に載っていた文章だ。

今でも天気のいいときは、その姿を舟の上から覗くことができるといいます

というのでどんなところか調べてみた。

 

 

ヒットしない!

探勝林」は、あるにはあるが、今では「さつき松原」という名前で通っている。

玄海風致探勝林:九州森林管理局

むしろこっち

「さつき松原」のパンフレット⤵

https://www.city.munakata.lg.jp/machi_hito_nabi/010/20230112_01/walkingLoad.pdf

 

沈鐘」は「さつき松原」のパンフレットに記述があった。

織幡神社

宗像五社のひとつで、参道の横には沈鐘伝説にまつわる巨岩があります。

 

織幡神社を訪れた人の記事をいくつかさらったが、巨岩についての記事はなく、

( 現在の ) 観光の目玉ではないのかも知れない。

因みに、織幡神社のWikipediaにはこう書かれている。

織幡神社 - Wikipedia

織幡神社の鎮座する鐘ノ岬では、異国の釣鐘が海に沈んでいるとする伝説(沈鐘伝説)が知られる。

「鐘ノ岬」の地名はこれに由来し、同様の沈鐘伝説は全国各地で知られるが、当地と福井県の金ヶ崎は特に有名である。

ただし、鐘ノ岬の海底で釣鐘と見られていたものは大正8年(1919年)に陸に引き揚げられたが、この時に引き揚げられたものは釣鐘ではなく巨石であった。

この巨石は、現在は織幡神社参道に安置されている。 

 

上の画像の碑文を拡大してみた。

大正十八年に引揚げ作業があったが、姿を現わしたのは釣鐘ではなく巨石だったとのこと。

「人々はいまでも本当の釣鐘は海底に沈んでいるとの思いを捨てかねている」とあるが、

松本清張が本に書いているような「今でも天気のいいときは、その姿を舟の上から覗くことができるといいます」という記述は見当たらない。

 

時代の移り変わりで、トリックも景勝地の言い伝えも変化しているのだろうが、

こういったことも含めて、60年前の長編トリック小説を読むのも一興だ。

 

www.mekarijinja.com

 

 

 

 

本日の昼ごはん

半田そうめん

 

 

本日の夜ごはん

 

れんこ鯛の干物は、身もあまく適度な脂で塩加減も絶品。

 

蒸しもち麦で作ったとろみのある鶏スープ。

えのき、春雨、ズッキーニがいい感じだった。

 

上のスープを作るために使った鶏肉は棒棒鶏に。

味変でハリッサをつけたら、たまげた美味しさだった。

 

 

〆に、図書館の帰りに買ってきたコムギノホシのパン。

多目に買っても、その日の内にMOURI のお腹に入る。私のお腹にもだけど。