「娘・妻・母」を鑑賞。
成瀬巳喜男さんは、「山の音」という作品を観てファンになった監督。
同世代の小津安二郎監督も素晴らしいが、登場人物の動かし方の巧さの点でいえば、成瀬監督の方が好きです。
今回の作品も、お正月のご祝儀番組のような豪華絢爛のキャスティング
まあ、よくも集めた集めたという面々。
物語は、山の手の高台に住む長男一家と、その兄弟たちの人間関係を描いたもので、お金が物凄く絡んでます。
母親 は、
長男夫婦 と
三女 と
代々木上原あたりに住んでいる。
長女 は、
日本橋の旧家に嫁いでいる。
次女 は、
学校教師の夫 と結婚し、狭い家で夫の母と同居。
カメラマンの次男 は、
妻 が経営する銀座の店の2階にスタジオを持っている。
次男 ( 宝田 ) 夫婦と、次女 ( 草笛 ) 夫婦は、お互い共稼ぎ所帯だが、
羽振りの良い次男夫婦に比べ、次女夫婦は経済的にかつかつの暮らしをしている様子。
長女 ( 原 ) の夫が不慮の事故で亡くなると。
次男 ( 宝田 ) は、通夜の香典に、他の兄弟に相談なく大盤振る舞い。。。
次女 ( 草笛 ) の方は喪服もなく。。。
吝嗇家(りんしょくか)の義母 ( 杉村 ) に
「会ったこともない人なんだから香典は500円 ( 現在の5,000円ほど ) で十分」
などと言われ、肩身の狭い思いをする。
長女 ( 原 ) が嫁ぎ先から戻されることになった。
家族会議では母親の眼前で、家屋敷がいくらだの財産分与の計算まで始める始末。
長女 ( 原 ) が実家に戻ることに決まると、
長男の嫁 ( 高峰 ) はさっさと女中に閑を出してしまう。
三界に家なし。
長女 ( 原 ) は、三女 ( 団 ) が家に入れているという額の2倍を申し出るが、
そんな娘が、母 ( 三益 ) は不憫でならない。
母を心配させてはならないと、長女 は、
夫の保険金100万円 ( 現在の1千万円程度 ) があると打ち明けるが、
それを聞いていた甥っ子が、
伯母さんに漏らしてしまう。
長男 ( 森 ) と次女 ( 草笛 ) は、その金をあてにする。
実は長男 ( 森 ) は、家を担保に妻 ( 高峰 ) の伯父 ( 加東大介 ) に金を貸し、
利ザヤを稼いでいたのだが、伯父から更なる融資を頼まれて困っていた。
次女 ( 草笛 ) の方は、義母 ( 杉村 ) と別居をしたい為の費用。
嫌と言えない長女 ( 原 ) は、30万だけ手元に残して兄弟に貸すことに。。。
もう結婚はこりごりという長女 ( 原 ) だが、想いを寄せる年下の青年 ( 仲代達矢 ) に、
好意を持つようになる。
しかし親友 ( 中北千枝子 ) の計らい ( 策略 ? )で、
京都の茶道の家元 ( 上原謙 ) と見合いをさせられたりもする。
一方、金を貸していた義伯父 ( 加東 ) の会社が倒産し、
義伯父が雲隠れしてしまう。
そうなると困るのが長男 ( 森 ) で、貸していた金は返るどころか、
兄弟に内緒で家と土地を抵当に入れていたのだった。
さあ大変。
兄弟がうちそろい、家族会議です。
財産分与をあてにしていた兄弟たちは長男をなじる。
兄弟たちの話題は、
母親を誰が引き取るかという話にまで至る。
長女 ( 原 ) は、年下の青年 ( 仲代 ) に別れを告げ、
母を連れ、家元 ( 上原 ) の元に嫁ぐ決心をする。
長男の嫁 ( 高峰 ) は、夫 ( 森 ) に
「お母さんはわたし達が面倒をみましょう」と持ちかける。
物語は、母が誰と同居をするのか、わかる前に終わるのだが。。。
ラストシーンで、いつも公園で挨拶を交わす老人の事情があきらかになる。
とまあ。こんなお話なんですが、お金にまつわるごたごた話の連続で、
母親を押し付け合うような話を、本人の前で繰り広げる子供たちの凄まじさも尋常ではありません。
でも見終わって、それほど後味が悪くはないのが不思議でした。
原節子、高峰秀子、草笛光子など、出演する女優陣の「根っこの部分に卑しさがないからではない」からのような気がします。
また、子供たちに邪魔もの扱いされる母親の背中が、
寂しげに見えるラストシーンでしたが、
幸せそうに見えた老人が、
実は自分同様、不幸な境遇におかれているという顛末にしたことにより、
後味の悪さが薄れ、感慨深いものに一変されたのかも知れません。
またここでも、笠智衆という気品のある方を抜擢したことが功を成している、
この辺に、成瀬監督のセンスを感じた次第です。
本作の主役はというと。。。
原節子・高峰秀子の二枚看板なんだけど、
長女の原節子の話が多い為、高峰秀子は分が悪い形になってます。
まあ主役はどちらでも、、というより脇役に目が行くたちなので、
モデル役の笹森礼子や。。。
狂言回しとして重要な役回りの中北千枝子や。。。
塩沢ときが面白い。
だが、秀逸なのが淡路恵子。
浮気性の夫 ( 宝田明 ) に、姉さん女房としてハラハラしながらも、
毅然と対する姿が愛おしく。。。
背筋が伸びた、きりっとした女っぷりが素敵です。
淡路さんは、
夫や息子のことで苦労も重ねられ悲しいことの連続だったのに、常に毅然としてらして。
ドラクエ好きだったというイメージのギャップも可愛らしく。
何よりも、淡路さんの煙草を吸う仕草の美しくて。
大好きな女優さんでした。
実は本作でも「ロケ地探求」の発作が起こりましたが、今回は無理でした。
代々木上原あたりという設定のようだけれど、ロケ地がそうとも限らない。
Googleを駆使して戦ってはみましたが。
流石に50年も昔のこと。。いつものようにはいきません。
こうなったら人海戦術か。
上原で生まれ育ったという米屋のオジサンに、
今度お米を届けて貰う時にでも、聞いてみようかなと思ってます。