去年に続き、美味しい酒と料理を堪能したいと選んだ先は北陸でした。
去年は富山と金沢に、岐阜白川郷というコースでしたが、今年は福井にも足を伸ばしてみることに。
福井はまだお隣の国からの観光客が少ないのだそうです。
往路は東名高速。
太平洋側を南下して名古屋から琵琶湖を抜けて入るコースにします。
しかしこの時点で宿泊地は未定。土曜や事前に宿を確保しておかないと危なそうな日はともあれ、
平日の宿は行き当たりばったりなのが 我が家流。
東名高速は、大きなトラックがピュンピュンと車線を変え普通乗用車を怖がらせます。
バックミラーに映る風景はさながら、スピルバーグの映画「激突!」
いや~ほんとに怖かった。
あまりに怖すぎてサービスエリアに避難、ていうかお腹は空いていないけれど 昼を食べておきましょう。
軽くね。
夜の美味しいお酒と食事を期待して、胃を休めるようなお昼ぞ
気を取り直し、勇気をしぼって、再び高速の本線に突入。
なんだろうなぁ。
関越も中央高速も東北自動車道も、こんなに大型トラックはない気がします。
仕事で急ぎ荷物を運ばないといけないんですものね、
普通自動車は「じゃまだじゃまだどけどけー」という感じなのか、それとも眠気ざまし?
女性のわりには運転普通に出来るつもりなんだが、お兄さんたちにしてみると邪魔なんだろうかなぁ
あはは。まあいいか。
そんなこんなで運転中の写真はまったくありません。
お昼を食べ沼津を過ぎたあたりから、第一日目をどこにするか検討に入ります。
豊橋案。名古屋案。岐阜案。
など色々出ましたが、なるべく都会じゃない方がいいかねとか、うなぎ食べたいとか、次の日を考えてなるべく行けるところまで行こうとか、
紆余曲折、決定したのが浜松でした。決め手は、美味しい料理屋があるらしいという話。
「太田和彦の居酒屋百名山」に掲載されていた浜松・貴田乃瀬に行こう ということになりました。
予約しないで入れるのかい? ダメならどこぞを探せばいいか。
宿は? おう、いつものアパがある。
てなことで「アパホテル浜松駅南」のダブル。
我が家の宿選びはしごく単純。夕食なしにリーズナブルな宿。
いいかげん飲んで帰って寝るだけだもの。景色も必要なしさね。
アパホテルは、コンセントの数が沢山あります。もちろんWi-Fi完備だし。。。
残念ながらこのアパには大浴場 ありませんでした。
一階のレストラン
ここが朝食を食べるところ。
街に繰り出そう
浜松 都会だ。そりゃそうだ。
普通に通勤・通学の人たち
新しい建物の中に、立派な銀行があったり、、、
ちょっと気になるバルがあったり、、、
あら この建物すてき
ひと部屋 ひと部屋が出っ張っているんだけど、そのせり出し方が直角じゃないの、
三角のバルコニーになっているところを見ると45度斜めにせり出しています。
目的の店は、繁華街を通り越し、民家がちらほらし出した先にある。
いや~ 知らなかったら絶対に来ない場所だ。
ありました 貴田乃瀬。
一応ホテルを出る時に電話をかけて、席はとっておいていただきました。
来た方向を振り返ったところに入口。
もう一度言う。知らなかったらたどり着かない店じゃ。
貴田乃瀬
食べログには一応「全面喫煙可」となっていますが、入口の所に灰皿がある。
美味しい魚と酒を味わうとなると、座った場所によってはタバコ我慢ですな MOURI。
通された席は、親方さんの調理台の前のカウンター席。
特等席ですわね
料理の手許が楽しめるもの、最高じゃないですか。
「貴田乃瀬」は親方の眼鏡にかなった銘酒を60種以上も常備しているそうだから自分でチョイスしてもいいが、料理に合わせて親方が選んでくれたお酒で楽しむ方法もあるらしい。
醤油は自家製。塩もどこぞの岩塩。料理は殆どが親方が工夫を重ねられた唯一無二の品らしい。
ならばお酒はお任せでお願いするのも楽しいかな。
お通し
鯖を醤油で薄く煮たものを燻してある。右は丸太のように切った茄子漬。
まあ、どれも美味しそな予感。お値段表示はありませぬ。
迷う、迷う。
しめ鯖
厚めに切ったしめ鯖が、キャンプファイヤーの井桁のように組みあげてあります。
新しい光景 w
奥にあるキューブはあおさの寒天でしょうか。。。
親方がこれに合わせてくだすったのが「萩錦」
地元の銘酒だそうです。
一口目。ほんのり甘いがスッキリした味?
それが、親方が〆たしめ鯖の酢加減と醤油の風味とぴったり。
なるほど。
相乗効果というのはこういうことなのですね、
「肉厚でこんなにウマいしめ鯖はない」と舌鼓を打ったのですが、
萩錦を口にふくみ、もう一口食べると、極楽への階段をひとつ登った心地になる。
しめ鯖は、試行錯誤の上いきついた作り方のようで ( あとから本で読みました ) 、親方は開店している時間よりも多くの時間を仕込みに費やしていることでしょう。
いい仕事。丁寧な仕事。というのはこういうことざんしょうか。
厚めに切ったしめ鯖は、頭とお尻の部分をかなり残して皿に盛られます。
頭とお尻の切れっぱしは、、、親方トレーごと暖簾の奥のバックヤードに持っていきました。
ああやって沢山のご馳走が店の人達の賄いになるのか。。。
「ああ、ここんちの子供になりたい」
勢いつぶやき、MOURI に笑われました。
黒豚の黒胡麻煮
「お好みで後から粒マスタードを、、、」との由
これ以上柔らかくは出来まいというほどの豚肉が黑胡麻さんをまとっています。
鎌倉大根みたいなシャキっとした大根がいいアクセントに。
たっぷりかかった黒胡麻ソース、上品な甘さとコクにやられました。
いつまでも舐めていたい。
鎌倉 ( じゃないけど ) 大根のきれっばしをもう少し恵んでもらえたら、
それにつけて食べきりたいうまさですの。
黒豚と黒胡麻煮に合わせてくだすったのが、やはり地元土井酒造場の「呑み切り一番」
先ほどの萩錦とは全然違う風味です。
爽やかで少し酸味のあるキリッとした味わいは、黒胡麻の甘くねっとりした味を面白いように引き立てる。
いや~面白い。こういう合わせ方があるのか。
この辺のところを親方さんとお話したいところですが、
とても忙しそうに立ち働いていて、お声をかける隙もなく。。。
聞いて見たかったのは
「このお酒には、どんな料理が合うかを考えて、一品作られるんですか?
それとも、作った一品に何が合うかなと思って酒を選ばれるんですか?」
というくだらん話。
・・・しなくてよかった。愚問です。どちらもまたありでしょうからな。
まあね酒飲みですから、そんな他愛もない話をしてみたいわけです。
でも、忙しそうなんだもの。。。シュン
冷たい野菜のたき合わせ
いや~~~うまい。
湯むきしたトマトも、縦に立たされたオクラも長芋も芋がらも、
それに寄りかかったアスパラも、すごーく美味しい。
ああなんてボキャブラリーの欠如か。
〔例えばトマト〕
甘すぎもせず、酸っぱすぎもせず、程よい酸味に丁度おでんに入れたトマトのようにたっぷりの出汁を含んでいるんです。
その出汁のウマいことといったら。暖かい出汁と違って冷たい出汁はごまかしが利かない。
それをこんなにも上品に、雑味を感じさせない出汁を含ませるなんて、ここの親方はどうかしているぜ。
〔そして例えばアスパラガス〕
アスパラって茎まで柔らかくと思うと穂先がクタッとしてしまうでしょう?
こちらの茹で加減は神業です。
穂先から茎の方まで、均等に感動するほどの食感なのです。
〔そしてそして例えば芋がら〕
芋がらを白く、美しく、上品に煮付けるのはそれは大変な苦労と思われます。
トレイに並んだ芋がらさんは、5~6本ずつ紐で結わえてありまして、
紐でくくった部分から惜しげもなく余分を出して、ザクッザクッザクッと切っていくのです。
切られた芋がらさんはそのまま、起立 ( きり~つ ) の姿勢で皿の中央に立てられるのです。
「身上起」
こちらもまた地元・静岡の志太泉酒造のお酒です。
一口飲むと、うーむ難しい味だ。
甘味も香りもほんの少々。途中から酸味とほんのちょっと苦味が出てくる気がします。
そうなのか。
この広がり方、まるでお出汁と同じだわ。
親方が身上起と冷たい野菜のたき合わせを合わせたのは、出汁のうま味苦味とお酒のそれとが同じ方向だったからなのかしら。。。
深い、深すぎる。
貴田乃瀬の楽しいのは味だけではない、酒器もまた稀なり。
こんな徳利、どこでお求めになられるんでしょう。
お猪口も涼しげ
ブルー系の酒器はあまり好みではなかったのですが、考えが変わりました。
いつまで見ていても飽きない。美しさ。
私が酒器を眺めていた頃、MOURI は親方が取り出した緑の代物にロックオン。
「あの、それは何ですか?」
「えっこれですか? 空豆です。空豆を豆腐状にしたもの」
「ください。それ。食べたいです」
余所の方が注文した料理を真似できるのもカウンターならではの特権。
空豆をつぶして豆腐状に固めてあります。白い部分は卵豆腐かな?
まあああああ
なんて手のかかったものでしょう。
ひとつひとつが吟味され、日々改良され、季節や湿度や仕入れによっても変化していくんでしょう。
「ここんちの子供になりたい」とつぶやいてしまいましたが、しめ鯖の切れっぱしだけでない。
大胆に切り落とした芋がらの切れっぱしにしても、あななごちそうや、
素晴らしい神の舌を持った親爺さまの試作品を食べて育ったら、
どんなにお利口な子に育つものやら。。。。
間違いなく正しい呑兵衛にはなるでしょうな。
ちなみに、貴田乃瀬の親方は私たち夫婦と同じ年だと判明しました。
ああ、お話してみたかった。
それには何回も通わんといかんのだろうなあ。
貴田乃瀬さん、本当に美味しかったです。
ごちそうさまでした。
旬肴地酒 貴田乃瀬 復刻版