『この地上において私たちを満足させるもの』を読了。
よんばばさんおっしゃる通り、深い感動と余韻に包まれました。
大人の美文を堪能しました。
紹介してくださったのは、よんばばさん
hikikomoriobaba.hatenadiary.com
毎度のことながら、よんばばさんの書評を読むと、図書館のネット予約に走ってしまう。
ようやく順番が回ってくるまで一ヶ月半、人気の本だったのです。
【内容】
貧しい家に育ち、農家の仕事を兄に任せて出奔した
肉親との縁が薄かった光洋はその分、放浪先での人々と深く関わりキヅナを結びます。
パリでは女性画家の部屋に間借りをし、スペインでは妹と障害者の弟がいる「乞食」を生業とする男の家に転がり込み、マニラではマルコス政権の下貧困にあえぎながら娘を育てるシングルマザーの家計を助けて暮らします。信州の温泉宿で働くミャンマー人の女性の賢さに触れたりと、光洋の出会う世界の人々はみな健気に逞しく生きています。
帰国した光洋は、放浪の旅で得た経験や想いを元に物を書く仕事につきます。
書きたいことは余りある、が、ただ書くだけではなく自分らしい文体を求めるために命を削ります。
大成し穏やかな余生を迎えた光洋は、パリで自死した女性画家の絵との40年ぶりに邂逅を果たし、偶然テレビで見た老ボクサーがマニラの隣家の少年だったことに驚き、マニラのシングルマザーが娘のサラを立派に育て上げ、貧困から脱却したことを喜びます。
そして「母と私に良くしてくれたことを忘れない」というサラが寄こしたソニアという少女を育て、ソニアからの身の周りの世話を受けながら終幕を迎えていきます。
この本で印象的だったのが《人との出会い》でした。
放浪先の色々な国の人たちとの出会いの章にも、それぞれ深く感銘を受けましたが、
早苗という女性編集者との暮らしが心に沁みました。
敏腕編集者の早苗は、光洋と籍は入れなかったものの良きパートナーとして生きました。
彼女は一日 座る暇もないほど立ち働き、朝は光洋が書いた数枚の原稿を丁寧に読み、
たいていは駄目だしをして出かけます。
「今は高橋光洋の文体を作るときよ、ほかのことはどうでもいいわ」
彼女はつねに光洋を叱咤激励します。
「どん底はまだ先よ、そこから這い上がるから大丈夫、うなだれないで」
優れた編集者というのが、作家にこれほどまで寄り添い、意見をし、苦楽を共にするものなのだと知り、大変興味深く思いました。
一日に一行ということもある。
そうやって珠玉の文体が作られていくのだとあらためて知りました。
乙川さんが追求する美しい文体もまた、こういう想いと鍛錬によって彫琢されているのだなと痛感。
いやはや、本当に秀作を読みました。
本日の朝ごはん
サンドイッチ、コーンスープ、コールスロー
サンドイッチはチーズ、ハム、玉子でした。