Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

北村 薫 著『夜の蝉』

 

北村 薫 著『夜の蝉』を読了。

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※ 写真はメルカリで安く手に入れた本で、4冊中、この本だけがしわしわでした。

 

 

「円紫さんと私」シリーズに第2弾。

大学生の「私」の話が3編、収録されています。

 

まず本のお話をする前に、気になっていたこの案件から⤵

【円紫さんと私の出会いのシーン考えるの大変だろうなぁ案件】

この本の主人公は落語家と女子大生。

立場も住む世界もかけ離れた2人です。

その2人は毎回、色々な機会を得て出会わないと謎解きの話にならないのです。

作者にとっては、謎解きより《2人をどうやって会わせようか》を考える方が大変なんじゃないかしら。

ホームズとワトソンよりも接点ないでしょう、落語家と女子大生って。

 

そんなワケで、彼らがどんな設定で会ったかも気をつけながら読んでみました。

※ それぞれの出会いを赤文字にしておきました。

 

第一話 朧夜の底

大学の同級生の正ちゃんの「創作吟発表会」に、江美ちゃんと行った。

正子や江美とは文学の話のみならず、漢詩から日本絵画から幅広い話題を持ち、

お互いの知識を分け合うように会話をする仲良しだった。

⤴ こんなインテリな会話をする女子大生っているのだろうか、と思ってしまうが。。。

正ちゃんの発表会で知り合いになったのは「あんどーさん ( 坂入 ) 」という先輩大学生だった。

彼が「私」が読みたいソログープの本を持っているという話から、本を借りることになる。

⤴ なんだかこの先の展開に何かありそうな予感もする人でした。

 

話は転じて、正ちゃんのバイト先の本屋に行った時のこと。

売場の書棚の本が奇妙な置かれ方をしているのである。

客の悪戯か?

「私」はこの謎を、加茂先生の教え子の陶芸家の個展で会った円紫さんに話す

円紫さんと2人で本屋に行ってみると、問題の本棚でもうひとつ奇妙なことがあった。

一冊の本の函と中身が違っていたのである。

さて、円紫さんの見立てはいかに。

 

第二話 『六月の花嫁』

円紫さんの選集のスタートを記念して、色紙にサインをくださるということで

「私」は円紫さんと合うことになった

今回の謎は、ちょっと前にあった別荘でのできごと。

江美ちゃんの友人-峰さんの軽井沢の別荘に泊りがけで遊びに行くことになった。

「別荘の冬支度で水道の元栓を締めに行くので、折角だから皆で行かない?」というお誘いだった。

メンバーは、峰さん、男友だちの葛西さんと吉村さん、江美ちゃん、「私」の5人だった。

※ 葛西さんは峰さんの恋人らしい。

別荘でチェスをすることになったのだが、白のクイーンの駒が無い。

そして別荘にあるクイーンの駒・卵・鏡の置き場所が入れ代わっていたのである。

さて、円紫さんの見立てはいかに。

 

第三話 『夜の蝉』

ある夜、酔って帰ってきた姉が打ち明け話をし始めた。

姉妹の小さい時のスリッパの話になり、付き合っていた男性と話になった。

 

姉の恋人とは、銀座の居酒屋でバッタリ合った時の姉と、一緒にいた人だった。

今日姉はその人と別れてきたという。理由は三角関係のもつれだった。

彼が《後輩の女の子を付き合っている》という噂を聞いた姉は、真意を確かめようと、

彼に歌舞伎のチケットを郵送した。

ところが、どうしたことかそのチケットは彼の元には届かず、件の女の子の家に届いたのだった。

会社の封筒とあて名書きとチケットの謎。

さて、円紫さんはどう見立てるか。

円紫さんとは地元の寿司屋で催された落語会の打ち上げでその話をすることになる。

 

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以上がこの巻の謎でしたが、今回の本には《家族間の人間関係や姉妹の話》も色々書かれています。

「私」の姉は誰もが羨むような絶世の美女。

そんな姉に対して「私」は怖れにも似た感情を抱いて育ちます。

しかし、姉には姉の悩みや葛藤やがありました。

この本には、そんな姉妹の心理描写が鋭く鮮明に描かれています。

 

例えばこんな話。

酔っぱらった姉が、突然し始めたのは「赤いスリッパ」の思い出でした。

「わたしが小学三年であんたが四つの冬。お母さんが、あんたに可愛いふかふかのスリッパを買ってきた。赤いスリッパだった。わたしはいつもと同じように、自分にも買ってくれといって金切り声を上げて騒いだ」

 

そうだった。最後には、スリッパを履いて廊下を歩いている私を、障子を開けていきなり飛び出した姉が押し倒した。

 

        ~中略~

 

「結局、次の日、お母さんがお店に連れて行ってくれた。一人でおいておくわけにもいかないから、あんたも一緒だった。サイズがいろいろあるから大きいのを買いなさい、といわれた。二人でそのコーナーに並んだ。⸺あんたの顔色が変わった。スリッパの色は三種類あったから。青と赤、それからどぎつくない上品なピンク」

 

そうだった。私のものはすでに買われている。更にもう一足、などとは頼めない。

もうどうにもならない。こぶしを固く握った。選択権がないということ、私にはそれがすでに失われていることが、たまらなく切なかった。スリッパの山がすぐにぼやけた。涙が溢れた。

 

「わたしはね、昔っから、あんたの考えてることがよく分かったの。赤は嫌いでしょう。⸺お下がりは素直に来ていたけれどね」

 

いわれるまでもない。私の気持ちが手に取るように読めたからこそ、あの時姉は選んだのだ。

わざとピンクのスリッパを。

北村 薫 著『夜の蝉』p.209より

 

一方「私」のエピソードも、やはり《赤》にまつわるものでした。 

我が家のアルバムを見ていると姉の素晴らしい写真が何枚もある。

芥子の花のような、はしたないほど明るい赤のドレスを着て ( 胸元には大きなリボンまで付いている! ) 立っている姉。

その赤に一歩も引けを取らない笑顔はまさに童話の国の王女様のようだった。

 

並んだ父の手がそっと伸びて、やさしく右の肩にそえられている。

⸺例えば、そんな写真である。

 

そして私も一年一年大きくなり、姉がそれを着た年を迎える。

間違いなく同じドレスが出され、私はそれを身にまとう。しかし、鏡を見るまでもない。

私が着るとその色は、ただのはしたない赤になってしまうのだ。

《まあ、可愛い》と決まって母上はいう。

私は微笑する。

母上は本気でいっている。

          ~中略~

スカートの裾が整えられ、リボンの向きが直され、馬子にも衣装の完成となった時、姉はすらりと立ち上がり、私の横を通って部屋から出て行く。

《よく似合うよ》と明るく言い残して。

 

外に出れば近所の人も、そして友だちも褒めてくれるだろう、心から。

だから私も、やっぱり可愛いのである。

けれど長い耳は兎に似合う。

間違いなく姉の服は姉が着る時一番《素敵》なのだ。

北村 薫 著『朧夜の底』p.11より

 

 

これに似た思い出は、私にもありました。だからよくわかります。

私の場合は弟でしたが、もしも姉妹だったら嫉妬や憧れの感情は更に強かったかも知れません。

年下の人間にとっては、姉 ( 兄 ) は頭が上がらないもの

年が離れていればいるほど、うっとおしい存在でしょう。

 

しかし上には上の悩みもある。

いつも「お姉ちゃんなんだから」と私が叱られる。

いつもそうやって我慢をしなければいけないのは年上の方だと焦れていました。

 

どちらが親に可愛がられたか問題も、お互いに話をつきあわせてみると違っている。

両方とも《相手の方が可愛がられている》と思い込み、嫉妬していたりします。

 

この本の姉妹もそうでした。

「私」は、美しい姉は両親にとって自慢の娘なんだろう、と思っている。

一方、姉はこんな風に言っています。

「取る取られる、っていったら、わたしなんか、あんたが生れた時、世界をまるまる取られたと思ったわよ。そうじゃない、って気がつきくの五年かかった。それまで、父さんにも随分ぶたれたわ」

 

わかるなぁ、姉の気持ち。

年長者は、下が生れるまで親の愛情を一身に集めますから。

流石に私は、父親にぶたれるということはなかったけれど。。。

 

ふとしたきっかけで、兄弟姉妹でこんな話をした経験は、皆さんもあるかも知れませんが、この本には「あるある」「わかるわかる」と思うような姉妹間の微妙な深層心理や会話が沢山書かれていて身につまされました。

 

円紫さんと私 シリーズ。

謎解きや、本や、落語の話だけでなく、こんな人間関係の機微も素敵に書き込まれていて、これもまたひとつ魅力となりました。 

 

 

 

本日の夜ごはん

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朝食に使ったコーンスープの残りのコーン缶を消費すべく、スクランブルエッグに入れました。

とうもろこし美味しくて癖になります。

 

久しぶりに酢の物。忘れてたわ、酢の物。

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本日のメインは焼肉。

八百幸で買っておいた牛肉とマトンを焼きました。

これは牛

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ご飯のおかずにはたらこ。

明太子はよく食べるのにたらこは最近ないなぁ。

このたらこ、塩分が低くてちょっと物足りない。

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叙々苑のたれで、いただきます!

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マトンも美味しかったです。

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とじ込みは、 本に出て来た書籍や落語の備忘録です⤵

 

p.31 『小悪魔』は退屈

p.50    『滅びの美』のようなものに魅かれた

ja.wikipedia.org

 

p.40  山崎屋

 

 

p.45 『北洋船団女ドクター航海記』

booklog.jp

p.56 『気がつけば騎手の女房』

bookmeter.com