garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

サマセット・モーム 著『お菓子とビール』

 

サマセットモーム 著『お菓子しビール』読了。

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いやぁ、面白かった!

行方昭夫さんの翻訳も素晴らしく、サクサクと読めました。

 

 

冒頭から掴まれてしまいました。

留守をしているときに電話があり、御帰宅後すぐお電話ください、だいじな要件なのでという伝言があった場合、大事なのは先方のことで、こちらにとってではないことが多い。

うまいこと言いますなぁ、モームさま。

 

 

主人公の《僕》はそこそこ活躍している作家で、電話をかけてきたのは売れっ子作家のアルロイ・キア。

冒頭に2人の関係性がこんな風に書かれています。

ロイ ( アルロイ・キア ) と《僕》は、3ヵ月前にパーティーで数分喋ったのが最後。

その時 ロイが「今度、ランチでもいかが?」と言い、私が「ああ、そうしよう」と応じる。

ロイは「家に帰ってから手帳を見て電話するよ」と言ったが、ロイが手帳をチョッキのポケットにいつも入れていることも知っていた《僕》は、社交辞令だということも十分わかっていた。

 

そんなロイが会いたがる理由は何かと《僕》は思案するんですね。

そのあと本には、ロイがどんなキャラクターなのか10ページにわたって綴られます。

それが実に面白く、読ませてくれます。

とにかくロイは世渡りがうまい人物で、しかし おべっか使いで のし上がってきたのでなく、人に対して誠実で、相手の心をがっちりつかんで成功してきました。

 

 

そんなロイから相談されたのは、ドリッフィールドのことでした。

ドリッフィールドとは、最近亡くなった大御所作家です。

ドリッフィールドの後妻から伝記執筆の依頼を受けたロイは、晩年のことは直接知っていたのだが、前半生に関しては何も知らないので、無名時代の彼とその最初の妻と交友のあった《僕》に情報の提供を依頼したのです。

 

受けるとも受けないとも言わずに別れた《僕》は、ドリッフィールドと最初の妻-ロウジーのことを回想していきます。

 

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写真は、エドワード七世 ( 在位、1901~1910 ) の時代、サイクリングに興じる若者たち。

ドリッフィールド夫婦と《僕》が、自転車で遠出して教会の墓石の石摺りをした頃のイメージ?

 

 

このお話の格となるのは、

物故作家の栄誉をたたえようとするロイや後妻から見た晩年のドリッフィールドと、

《僕》の知っている無名時代のそれとの違いの面白さではないかと思います。

晩年の彼の取りまき達や後妻にとって、最初の妻-ロウジーは評判の悪い人物で、

ドリッフィールド史から消し去りたい存在です。

しかし《僕》の知るロウジーは無邪気で魅力的であり、彼女を愛するドリッフィールドも自由奔放な人物でした。

 

人の見方は色々であるということの面白さ

そんな《僕》も、はなからドリッフィールド夫妻に良い印象を抱いていたかというと、そうではありません。

初めて2人に会った時は15歳の少年で、時代はヴィクトリア朝の末期でした。

牧師の伯父に育てられた《僕》は出生や肩書にとらわれドリッフィールドの俗物ぶりを批難します。

彼らの生活が道徳観から逸脱し、無節操だったからです。

 

しかし年を経て、そんな印象は変わっていく。

再会したのはエドワード七世の時代の、道徳的な厳しさも緩んでいた時期で、

20歳になった《僕》の目には魅力的な人物に感じます。

 

このように同じひとりの人間でも、年齢や立場や時代が変われば、人の見方が変わる。

それが後妻という立場だったら、取り巻きの立場だったら、どうだろう。

モームはあるゆる角度から上手に描きわけています。

 

 

モームは、初版から数年して出した選集版 (1934年 ) に付けた序文の中で、こんなメモを公表しているそうです。ずばり。これがこの本の的確なポイントです⤵

著名な小説家の回想録を書いてくれとの依頼を受ける。私の少年時代の友人で、平凡な妻と共にWに住んでいる。妻は夫を平気で裏切る。その土地で彼は優れた小説を何冊も書く。後に秘書と再婚し、今度の妻は夫を守って著名人にする。晩年の彼が、著名人に祭り上げられてしまって、いささか落ち着かない気分を味わうのではないか、と推測する。

 

どの人も面白い

私はこの本の、登場人物のどの人にも好感を持つことが出来ました。

世渡りのうまいロイの気持もわかります。

彼は自分に誠実に、人には親切に生きているだけなのだから。

後妻にも、彼女なりの夫への一途な愛を感じます。

彼女が夫にやかましく言うのは誰の目からみても尊敬に値する人物でいて欲しかっただけだから。

 

ドリッフィールドの前半生の、自由奔放な冒険に富んだ生活を知っている《僕》にとっては、ロイや後妻の奮闘ぶりは滑稽にうつるでしょうが、そんなものです世間とは。

世間体をつくろい勿体ぶった人物というのは、世の中に溢れているでしょうし、

当時のイギリス社会全体が持っている意識だったのだと思います。

 

ラストに、ロイが書こうとする綺麗ごとの伝記を書けないような隠し玉が用意されているのも痛快。

この本は刊行後、モデル問題が起きたそうですが、詳細はよしておきます。

一旦読んでから知るのが一興と思うからです。

 

《印象的なシーン》

晩年のドリッフィールドが、80歳の誕生日に贈られた自画像を前に「くだらん、とてもくだらん」とひどく、くたびれていたというのも愉快だし、

取り巻きたちをよそに《私》に向ってウィンクをしてよこしたのもチャーミングでした。

 

なんかねぇ私、ロビン・ウィリアムズで観たかった。

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無邪気で自由な無名時代のドリッフィールドも、

最晩年の退屈そうなドリッフィールドの横顔も、

彼ならば両方を魅力的に演じ分けてくれただろうから。

 

 

 

本日の昼ごはん

カレーライス

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本日の夜ごはん

豚の薄切り肉と、大根・にんじん鍋

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我が家のお出汁に、大量のにんじん・大根の千切りを入れ、

豚の薄切り肉をしゃぶしゃぶしただけのシンプルな鍋です。

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鍋が出来上がるまでのつまみ、八百幸の玉子焼き

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大根、にんじん、豚肉のシンプルなものなのに旨味たっぷり。

ポン酢、柚子胡椒、出汁醤油と味を変えて堪能しました。

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