小川洋子『ミーナの行進』を読了。
小川さんの本はこれが初めてです。
最初の本をこれにしたのは、タイトルに魅かれたからでした。
ミーナの行進って何だろう、行進、何だかワクワクするイメージでした。
その行進って、、、、
これがまたユニークなものなんですよ、想像するだけで顔がにんまりしてしまう風景なのです。
ふふ。
あらすじ・登場人物の紹介
12歳の朋子は1972年の春から一年間、伯母の家で暮らすことになった。
癌で他界した父代わりに洋裁で身をたてていた母が、
キャリアアップの為、一年間東京の洋裁学校に通うことになったからだった。
朋子が預けられた家は、芦屋の高台にある大きなお屋敷だった。
朋子の伯母が結婚したのは飲料メーカーの社長さんで、お屋敷はその伯父の父親が、ラジウム入りの清涼飲料水「フレッシー」の販売で成功を収めたことによって建てられたものだった。
1500坪の敷地面積を有するスパニッシュ様式の洋館にも朋子が驚かされたが、
もっと驚いたのが、庭に住むペットのコビトカバでした。
芦屋のお屋敷にはこんな人たちがいました
ドイツ人のハーフであるダンディーな叔父さん
書物の誤字を探すのが趣味で、ちょっとアル中気味の伯母さん
朋子より1つ年下で喘息を患う従妹のミーナ
叔父さんの母親でドイツ人のローザおばあちゃん
叔父さんの父親の代から勤めているという、お手伝いの米田さん
コビトカバのポチ子
通いの小林さんは、庭師であり、運転手であり、ミーナの学校の送り迎えもするポチ子の世話もするおじさん。
この本の魅力はこんなこと
中学一年生という多感な時期に、裕福な親戚に預けられた女の子の一年間が綴られているのですが、
登場人物はみな温かくて、心根の優しい人たちです。
金持ちだからといって傲慢でも気位が高い人は一人もいません。
生活は基本的に質素なもので、実直な人達のくらしぶりが素敵です。
叔父さんは留守がちで、ちょっとだけワケあり風、
伯母さんも煙草とウィスキーがお友だちの、ちょっとアル中風だけれど、
朋子の目からはそれすらどこか暖かく映り、描かれています。
本の中には、色々なエピソードがチャーミングに綴られています。
屋敷にはかつて、タイワンザル、ヤギ、孔雀、オオトカゲもいて「フレッシー動物園」と言われていたという話や、
ミーナと朋子の淡い初恋の話や、彼女たちが熱中したミュンヘンオリンピックの男子バレーの話や、
ミーナが収集するマッチ箱とそれにまつわるミーナの作った物語などなど。
どれもが静かに胸に沁みるような話です。
私が特に好きだったのは、ローザおばあさんと米田さんの話でした。
83歳の同い年だった2人は、性格も趣味も見た目も正反対。
付き合いはローザおばあさんが日本に嫁に来た時からの56年間も続くものでした。
2人の歌声は、まるで双子のように揃っていて素敵で、
晩年のローザおばあさんが、日本語を忘れても米田さんとだけは意思疎通が出来たという話にも泣けました。
そんな2人の話をひとつ書いておきます。
「米田さんには内緒ね」
「どうして?」
「あの人、子どもがお化粧するの、好きじゃない」
おばあさんは鏡に映る私に向ってウィンクをした。
確かにお化粧に関しても老女二人は対照的だった。ローザおばあさんは毎日、朝食の席に着く時には既に完全なお化粧を施していた。洋服の色に合わせて口紅も髪に飾るピン留めも変えていたし、小指の先をほんのわずか引っ掛けただけで、十本の指全部のマニキュアを塗り直した。
それに引き換え米田さんは、へちま水を申し分程度にすり付ける以外、何も手入れもしなかった。お化粧よりも台所で鍋をかき回すことに、お洒落な洋服を着るよりも誰かの洋服を繕うことに、喜びを見出す人だった。
p.60
この本に詰まっている、12歳の女の子の一年間は、
読み手の私の思い出でもあるかのような、生き生きとしたものでした。
そしてもうひとつ、この本の魅力といえるのは挿絵です。
ところどころにひっそり描かれた寺田順三さんの挿絵に想像力を広げてもらえました。
人物は全て後ろ向き、それも良かったのだと思います。
小説なのに、まるで絵本のような本。
挿絵を見るだけでも十分に楽しめるこの一冊は、
皆さんにも手にとって見てもらいたいと思った本でした。
本日の昼ごはん
本日の夜ごはん
今日の酢の物はタコ
奥は鶏肉と白菜のオイスター炒め
煮魚が食べたいという人のために、今日は銀鱈の煮付け
程よく脂の乗った銀鱈で、美味しく出来ました。
感動の味に涙!