Garadanikki

日々のことつれづれ Marcoのがらくた日記

林真理子『小説8050』

 

林真理子 著『小説8050』を読了

 

人間性と経済問題について深く考えさせられた小説だった

 

私は林真理子さんがあまり得意ではない。

インタビューなどを拝見して「この人とは肌が合わないな」と思うこともあった。

林さんの小説はとても売れているというのは知ってはいたが、私はずっと通り過ぎてきた。

今回初めて彼女の本を手にしたのは「8050」のワードが気になったからで、

その問題を林さんがどう解釈し、料理し、社会に提示するかに興味を抱いた。

 

一気に読めた、がしかし・・・

サクサクと読めるところが素晴らしいと思った。

だがしかし、解せないというか腑に落ちないいくつか浮かび上がる。

違和感のひとつに、家族の人間性というか、変わり身に早さにあった。

  • 父親は息子の引きこもりの原因がわかると猪突猛進する
  • 母親はその行動力についてはいけずに非難ばかり言う
  • 姉は自分は弟の被害者、迷惑だとしか考えられずにいる。

そんな人物が、問題が良い方向に向かうと、和解したり、愛情を取り戻したりする。

その変わり身の早さの描写が、私には嘘くさくみえてしまった。

物事そんな単純なものでもないだろうになあ、と。

 

タイトルに8050とあるが、ひきこもりの問題が途中からいじめ問題に移行する。

作者の興味が途中から方向転換してしまったのだろうか。

 

大澤家のおかれた問題

物語の家族がおかれた問題を少し整理する。

大澤家の家長は親から継いだ歯科医院を経営している。

三階建て一階が医院で、二階、三階が住居。

三階には20歳になる長男が7年間引きこもっている。

長女はいい大学を出て、いい会社に入社して、近々結婚を考えている。

 

そんな大澤家の引きこもり問題が動き出したのは、ひとつの事件だった。

大澤家の夫婦 ( 正樹と節子 ) が、近所の家から、引きこもり男性が連行される場面に遭遇。

その家は四十坪の土地に建つ木造の二階家で、夫婦が亡くなった後、一人息子がひっそり暮らしていた。

地主との契約が切れたため、息子に退去命令がくだり、強制執行の日がきた。

弁護士に付き添われて出てきたのは、肥満したジャージ姿の中年男だった。

男は別段嫌がる風もなく“きょとん”としている。

親が死に、なすすべもなく、ひたすら閉じこもっていた男は、これからどうなるのか。

 

その光景を見た夫婦は言葉を失う。

「あれって、うちの三十年後の姿なのよね・・・」

「考えすぎだろう、翔太がこのまま年をとるはずがない」

 

暖房の効いた部屋で、ぬくぬくと無為なときを過ごしている息子をみて、正樹は

「お前が甘やかしたんだ」と言いかけ

「俺たちが」と変える。

 

「もう小遣いはやるな。飯をつくってやることもない」

「そういうわけにはいかないでしょう・・」

「いや、それがあいつのためだ」

 

それが夫婦の会話だった。

息子に対して互いを攻め合う日々の後、無視する作戦をとっていた両親だったが、

それなりに手はかけてやっていた。

そこにきて目撃した近所の光景と、娘の由依の結婚話。

 

由依は、ひきこもりの弟をよそ眼にひたすら勉強し、それなりの会社に就職し、

会社で知り合った男性からプロポーズを受けていた。

相手から「両親に挨拶をしに行きたい」と言われているのをずっとはぐらかしてきた。

 

そんな由依に、正樹は言う。

「引きこもりだって、ちゃんと言えばいいじゃないか」

「いやよ、弟が引きこもりだなんて、私、絶対に言いたくない」

 

この辺から家族がぎくしゃくしてくる。

由依は、自分の結婚話の不利になる弟を引きこもり専門の塾に入れろと提案。

それがダメになると、精神病院に入れてしまえと言い出し、

暴れまくる人間も、ちゃんと移送してくれるという業者まで探してくる。

「その替わりすごくお金がかかるみたい。五百万とか」

 

ドア越しに、翔太と話をする正樹

正樹は、翔太の部屋の前に座り込み、ドア越しに息子に話かける。

  • 由依がそんなことまで言い出している
  • そういう娘にしてしまったのは親である自分たち親だ
  • 無理やり連行させることはしたくはない、せめて精神科を受診してほしい
  • 病院とは名ばかりの施設に隔離されるか、自分の友達の医者のところに行くかお前が決めろ。

とつとつと話しかける父親に、息子が初めて心のうちを明かす

「オレは狂ってない」

「オレは病気じゃない」

「オレはあいつらにただ復讐したいだけなんだ」

引きこもりの理由が、いじめにあったことがわかった正樹は言う

お前、復讐しろ。とことんやれ。父さんが手伝ってやる

 

 

引きこもりの原因が、家庭内にあったのではないことが判明し、父親は俄然 息巻く。

「父さんはずっと悩みながら、五百万っていう金を用意した。

 心配するな、うちにはまだ金はある。

 お前の出方次第では、この五百万で移送業者に頼むつもりだったが、

 この五百万で弁護士を頼もう。

 そしてお前の復讐をするんだ」

 

このあと家族は、弁護士に会い、証人探しをし、裁判と、最後はそれなりのハッピー(?) エンドになるのだが、なんとなく釈然としないものが私の中にたまった。

根本的に、家族間の問題は何も解決をしていないのではないかと。

 

行動的に見える父親だが、さんざん妻を冒とくし自分の思う通りに物事をすすめてきた。

母親は、言い出したら聞かない夫を憎み、息子には今まで通りを決め込んでいる。

娘は、自分の幸せが最優先だが、物事が解決しだすといきなり兄弟愛に目覚める。

 

今回の大澤家の引きこもりの原因が、中学の時の同級生三人のいじめにあったが、

原因がもっと複雑で曖昧模糊としたことであることの方が、多いのではないだろうか。

 

例えば

対人関係との問題はいじめだけではなく、社会に馴染めないということでも発生する。

仕事や学業に失敗した場合、プライドが高ければ余計に逃避で引きこもることもある。

生きがいを感じないという理由で引きこもることもあるという。

 

要するに

ひきこもりの理由はひとつではないし、解決法にも正解はない。

ちょっとした生活の変化で立ち直れることすら、あるのだから。

ただしそこには、家族の陰ながらの応援は必須である。

陰ながらというのが重要で、引きこもりの子にかけてはいけない言葉のひとつに

「頑張れ」というのがある。

「お父さんやお母さんより、本人が一番きついのです」

これは医者もカウンセラーがよく言うセリフだが、放任と甘やかしの境目が極めて難しい。

 

今回の大澤家は、夫婦が離婚をしようが、娘が嫁ごうが、そこそこの財産があるので、

息子が一生引きこもったとしても、世にいう8050問題とはお財布事情も違っている。

正樹は息子に「五百万を定期預金を解約しておろしても、金の心配をしなくていいという財力がある」と明かしているくらいだから、大澤家の問題は財力あったから解決したといっても間違いとはいえない。

 

世の中で問題になっている引きこもりの問題は、経済的にも精神的にも深刻なのではないかと思うし、

いじめの問題も、こんなに気持ちよく相手に復讐できそうにもない。

 

お父さんの自分の意見を押し付けるところや、

お母さんの自分では何もしないのに、目を吊り上がらせて頑固で口が達者なところや、

お姉さんの自分勝手な考え方や、

そんなところにひとつも反省点がなされていないところも不思議に思う。

そういう家族の色々なことが原因になっている場合も多いような気がするのだが。

 

 

 

 

本日の昼ごはん

ナポリタン

 

 

本日の夜ごはん

なんかナポリタンが・・・

 

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