斉魚 ( えつ ) おばちゃん
僕の名は棗 ( なつめ ) 。
お母さんは、ちょいと。おばあちゃんはあかちーって言うの。
ちょいと母さんは「ご飯は美味しいわねぇ。棗、お腹がすいたら 世話人のお兄ちゃんたちを頼るのよ」というのが口癖でした。そんな母さんは、優しいおばあさんの家に貰われていって、今ここにはいません。
僕はね、じゃいあんっていう強い大伯父さんが怖くて《ほうろうのたび》というのに出たんです。
でも、半年くらい前に勇気を出してここに戻ってきました。
初めはビクビクして隠れて暮らしてたんだけど、ずっとそうやってるワケにもいかないでしょう?
そうっと出てきたら、じゃいあん おじさんが人が変わったように大人しくなっていた。
まるちゃんは、僕のことを「いくじなし」っていうけど、仕方ないさ、怖いもん。
そんな僕だって、たまには頑張るんだ。
今日は、従兄妹のミーシャが、奈津っていう つっよい姉ちゃんに追っかけられてたから、
「苛めちゃ ダメ―」って《ちゅうさい》したんだ。
ミーシャは助けることが出来たけど、代わりに僕が奈津に引掻かれた。
まるちゃんたちは、「名誉の負傷だ」とか「丹下作善みたいだ」と笑っているけど、
痛いんだよ~。
みんなが言うには「猫は相手の目を見て闘わなきゃいけない」んだって。
でも、僕は目をつぶって、おでこで突進する癖があるの。
普通《どうぶつ》は鼻の頭なんか絶対に引掻かれないんだって。
《きゅうしょ》だからなんだって。
でもしょうがないよね、クセなんだもの。
ああ、皆仲良くすればいいのになあ。
斉魚おばちゃん、こんど、いつ日本に来るの? 早く会いたいなぁ。
そしたら友だちのロミって子を紹介するからね。
じゃね。バイバイ
棗
斉魚さん
お元気ですか?
斉魚さんがウィーンに引越してしまってから、この辺も随分変わりました。
私は、沙羅、ちょいと、葵という三姉妹を産んでから、
次の年には、ロミとサミという男の子を産みました。
その次の年には、コタヌとジュニアという男の子を産んだんだけど、つくづく思うの。
男の子は難しいわ。
ちっとも言うことをきかないし、そのくせ 女の子より弱虫なんです。
一生懸命木登りや狩りを教えても最初の三姉妹には適わない。下手なんです。
もう途中で嫌になっちゃって、育児放棄してしまいました。ふふ。
今ではコタヌはこんなになっちゃった。布団でくるまって寝るんですよ。
佐藤くんたち人間が甘やかすんですもの。
「猫の風上にもおけない。堕落じゃ」
とまるちゃんが呆れて言うんです。
母親として恥ずかしい。
そんな私ですが、まるちゃんに言わせれば赤ちゃん返りなんですって。
まるちゃんの膝は暖かいんですもの。
あら(?_?) これじゃぁ、コタヌのこと言えないかしら。
うふふ。
でも、いいの。
もう何を言われたって、降りないから♥
あかちー