黄色いゼリーをキッカケに、井上靖の「しろばんば」を読み始めています。
しろばんば、しろばんば、しろばんば
しろばんばって、雪虫のことだったんですね。
私は一度、その雪虫を見たことがあります。
東京ではあまり見られないそうですが、夕暮時、ふわりふわりと飛んでいるものがありました。
何かと思って近づいてみると、それが雪虫だったんですね。
飛んでいるというよりも、浮遊している感じ。
その頃、と言っても大正四、五年のことで、いまから四十数年前のことだが、夕方に決まって村の子供たちは口々に “ しろばんば、しろばんば ” と叫びながら、家の前の街道をあっちに走ったり、こっちに走ったりしながら、夕闇のたちこめ始めた空間を綿屑でも舞っているように浮遊している白い生き物を追いかけて遊んだ。
素手でそれを摑み取ろうとして飛び上がったり、ひばの小枝を折ったものを手にして、その葉にしろばんばを引っかけようとして、その小枝を空中に振り回したりした。
しろばんばというのは “ 白い老婆 ” ということなのであろう。子供たちはそれがどこからやって来るか知らなかったが、あ夕方になると、その白い虫がどこからともなく現れて来ることを、さして不審にも思っていなかった。夕方が来るからしろばんばが出て来るのか、しろばんばが現れて来るので夕方になるのか、そうしたことははっきりとしていなかった。
しろばんばは、真っ白というより、ごく僅かだが青味を帯んでいた。明るいうちはただ白く見えたが、夕闇が深くなるにつれて、それは青味を帯んで来るように思えた。
夕方の虫といえば、もうひとつ「豊年虫」も思い出しました。
豊年虫はカゲロウの別名であり、志賀直哉の短編のタイトルにもなっています。
以前その作品を読み、母が住む上田市から「豊年虫」の舞台となった温泉宿が近いことを知りました。
母が上田に住んでいる間に是非、その地を訪れてみたいと思っているんですが、
折角なら豊年虫が飛ぶという夏の夕暮れが良いでしょう。
もう一度、短編「豊年虫」も読み直したい衝動にかられますが、まずは「しろばんば」。
併読という悪い癖も困ったものです。