garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

コレット著『青い麦』について

コレットの『青い麦』を、石川登志夫さんの訳で読了。

 

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この作品は、避暑地で過ごす16歳の少年フィリップと、15歳の少女ヴァンカと、

年上のダルレー夫人との三角関係の話です。

 

三角関係と片付けてしまうと雑で野暮かも知れませんが、

思春期の青年が、 幼馴染と年上の女性に、翻弄させられる話ですから。

 

コレットさんは「女性はドライで強いのよ」と伝えたかったのかなと第一印象感じました。

それこそ雑で野暮な感想です (-_-;)

 

何故そう感じたかというと、こんなところを総合してです。

✔ フィリップは、ダルレー夫人と関係したことをヴァンカに内緒のつもりでいます。

✔ しかし、ヴァンカはとうの昔に感づいてます。

✔ バレていると知ったフィリップは、ヴァンカが傷つき死んでしまうのではないかと心配します。

✔ ダルレー夫人はフィリップに別れもせず、さっさとパリに帰ってしまいます。

✔ ダルレー夫人のことをドライだと思っていたフィリップですが、

  ヴァンカは、夫人に輪をかけて冷静でしたたかでした。

 

思春期のフィルは、2人の女性の間で翻弄されるのです。

 

人間関係はそんな流れだったなぁ 

「そんな話だったよなぁ」と、頭の中を整理するのにとても時間がかかりました。

短編なのに、話のテンポがゆっくりで、『ジジ』同様、起承転結が少ない作品です。

登場人物の気持ちの流れを、読み取るのが難しい文章でした。

 

自然描写が豊かなのがコレットの魅力でしょうし、ファンはそれが楽しみなのだと思います。

しかし私にとっては、その自然描写の多さが 物語の流れの邪魔になりました。

 

興味深かったところ 

ダルレー夫人は非常にエキセントリックに描かれています。

多分それは、作者の意図したことだと思います。

感情の起伏が激しい二人の女性にはさまれるフィリップですが、

幼馴染の気心知れたヴァンカと違い、ダルレー夫人の性格をつかみきれないでいます。

それが、若いフィリップにとっては刺激となったのでしょう。

 

例えばこんなシーン。

誓いでもお立てになったの、それともお好きで、着るものを着てらっしゃらないの?

冷たい血が、さっとフィリップの耳と頬へあがったかと思うと、またたちまち熱くなった。

「とんでもありません、マダム」と彼は甲高い調子で叫んだ。

「パパがお得意へ打つ電報を局へ持っていかなければならなかったんです。家にはすぐに行ける人がいなかったので。この暑さでは、まさかヴァンカやリゾットはやれませんよ!」

「わたしの喧嘩を吹っかけるのはよしてちょうだいな」と白服の夫人が言った。

「わたし、とても感じやすいんですから。ちょっとしてことにも、涙が出てくるんですもの」

裸に近い恰好を突っ込まれたのだからドキマギして、支離滅裂になってしまっただけなのに、何故それが『喧嘩をふっかけられた』と言われるのだろう。

多分フィリップは混乱したと思います。

 

面と向かって突然こう言われて、女が何に傷ついたかをわかる男はいないんじゃないかしら。

しかし、本を読み返してみると分かるのです、夫人が《ヴァンカ》に反応していたことが。

 

 

初めて夫人が登場した場面を読み返して確信しました。

ヴァンカって、どなた? 妹さん?

「いいえ、友だちです」

「ヴァンカって ⵈⵈ 外国の名前ですの?」

「いいえ ⵈⵈ つまり、それはつるにちそうという意味です」

「あなたと同じくらいの年頃のお友だちですの?」

「彼女は十五歳です。僕は十六歳です」

「十六歳ね ⵈⵈ 」と白服の夫人は繰り返した。 

遠くからヴァンカがやって来たのを潮に、夫人は立ち去ります。

もうその時点で、夫人とヴァンカの間には火花が飛んでいたのです。

 

ヴァンカの方も、自分が来る前に立ち去った夫人を意識していました。

「フィル! あの奥さんはだれなの?

両肩と顔全体で、彼は何も知らないと説明した。

「知らないのに、話をするの?」

「返事をしたらどうなの?」

「ばかだなあ、ほんとに! あれは自動車で、道を間違えた女の人だよ。もう少しで、自動車がここにはまりこむところだったのさ。あの人に教えてやったんだよ」

「あら、そうなの ⵈⵈ 」

「でもなぜあの女の人は、ちょうどあたしが来たとたんに、あんなにさっさと行ってしまったのかしら

 

フィリップは答えるまでに少し間をおいた。

彼はあらためて、あの未知の女の、身振りには出さない自信のほどと、

しっかりした眼差しに、それにその瞑想的な微笑を味わい楽しんだ。

彼女が自分を、重々しく『ムッシュ!』と呼んだことを思い出した。

それに、ただ『ヴァンカ』と敬称もつけずに、ごく短く、あまりにも馴れ馴れしく、

少し侮辱したように、彼女が言ったことも思い出した。

 

彼は眉をひそめた、そしてその眼差しをもって、女友だちの無邪気な取り乱し方をかばってやった。

彼はしばらく考えて、小説にあるような空間的な秘密に対する自分の趣味と、ブルジョワの少年らしいはにかみと同時に満足させるどっちにも取れる返事を思いついた。

「あの人は気を利かしたんだよ」と彼は答えた。

コレット著『青い麦』旺文社文庫 石川登志夫訳 p.32より

 

ここ、ここ。「かばってやった」という部分も大事なところです。

フィリップは、ヴァンカのことは何でもわかるとタカをくくっています。

しかし、そうではないんだな これが。

女はそんな甘くないということにフィリップが気づくのはまだまだ先でしょう。

「かばってやった」と言っているフィリップより、女ははるかにドライでしたたかで大人なのですから。

 

この本は、一度読んだだけでは気づきにくい女性の言動が、所々に見え隠れしています。 

本を読み返すことで、やっとわかるくらいにさりげなく。

思春期の青年に、それを汲み取れるはずはありません、実生活において

 

 

最後に、印象的なシーンを二つ。

 

一つ目は、フィリップが初めてダルレー夫人の家に行ったときの話です。

夫人はフィリップにオレンジエードを飲んでいけとすすめ、召使のトトートに命じます。

運ばれてきたオレンジエードを前に、ダルレー夫人はこんなことを。。。

「すぐに召し上がらないでね」とダルレー夫人の声が言った。

「トトートや、あんた、どうかしてるわよ、氷なんか入れたりして。地下室は、けっこう冷えてるのに」

白い手がコップの中に、三本の指を突っこんだと思うと、またすぐに抜き出した。

ダイヤモンドの炎が、三本の指にはさまれた角形の氷に反射して光った。

コレット著『青い麦』旺文社文庫 石川登志夫訳 p.60より

 

 

二つ目は、オレンジエードのお礼にと、摘んだ青あざみを持って夫人の家を訪ねたシーンです。

「ねえ、ムッシュー・フィル ⵈⵈ おたずねしたいことがありますの ⵈⵈ 。

 簡単なことですけれど ⵈⵈ 。

 この見事な青あざみを、あなたはわたしのために、わたしを喜ばすために、

 お摘みになりましたの?」

「そうです ⵈⵈ 」

「すばらしいわ。わたしを喜ばせるなんて。

 でもあなたは、これをいただくわたしの喜びよりも ── いいですか、

 ここのところをよく分かってくださいね ──

 これを摘んで、わたしの前に差し出すご自分の喜びの方に、

 ずっと心をひかれてらっしゃるのではありません?

 

彼には、彼女の言葉がよく耳に入らなかったので、まるで聾唖者のように、話している彼女を見つめて、口の形と、まつげのまたたきに気をとられていた。

彼にはいったいなんのことか分からなかったので、行き当たりばったりに返事をした。

 

「あなたに喜んでいただけると思ったからです ⵈⵈ 。

 それにオレンジエードをご馳走になっていますから ⵈⵈ 」

 

それまでフィルの片方の腕においていた片手を、彼女は引っ込めると、

半分閉めかけてあった門扉をいっぱいに大きく開いた。

 

「では坊ちゃん、いいからもうお帰んなさい。二度とここにくるんではありませんよ」

「どうして?」

「わたしを喜ばしてくださいなどと、だれもあなたに頼みませんわ。

 これからは、きょうみたいに、青あざみをわたしに投げつけるなんて、

 そんなご心配はご無用よ。

 さようなら、ムッシュー・フィル。それともこのつぎには ⵈⵈ 」

 

彼女は、きっとした額を、すばやく2人の間に閉ざした鉄格子にもたせかけて、小道の上で身動きもせずにいるフィリップをじろじろと見た。

 

「それともこのつぎには、わたしがあげたオレンジエードのお返しに、

 棘だらけの花束を贈ろうとなどというのではなく、ほかの理由で、

 ここに来てくださるのなら、それはまた別ですけど ⵈⵈ 」

「ほかの理由で ⵈⵈ 」

「まあ、なんてあなたの声は、わたしの声に似てきたんでしょう、

 ムッシュー・フィル!

 そのときこそ、わたしの喜びが問題かあなたの喜びが問題か、

 ちゃんと分かるときですわ。

 ムッシュー・フィル、わたしはね、乞食か飢えた人しか愛さないのよ。

 だからもし、もう一度来てくださるなら、そのときはね、

 乞食みたいに物をねだる手を差し出していらっしゃいな ⵈⵈ 。

 さあ。ムッシュー・フィル、お帰りなさいな ⵈⵈ 」

 

彼女は鉄格子を離れた。

コレット著『青い麦』旺文社文庫 石川登志夫訳 p.69より

 

思春期の青年が、こんな強烈な女性に関わったら、ひとたまりもないでしょう。

 

 

ごちゃごちゃと長くなりましたが、やはり私はこの作品の流れや良さがイマイチ味わいきれません。

《読了》と、さっさと本棚に仕舞い込めない何かが残っています。

夫人のことを忘れられないフィリップのように、私にも何か気になる棘のようなものがあるようで。

ダルレー夫人のことだけでもこれほどです。

フィリップの視点、ヴァンカの視点にたったら、まだまだ色々、面白い発見が残っていそうです。

 

コレット  青い麦  他の訳でも読んでみようかしら。  

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翻訳物って、外国の文化や風習がわからないと、注釈があっても読みにくいですよね。装飾が多いと余計に難解😱この『青い麦』も『ジジ』のように映画化されていると、とっつきやすいんですけどねぇ…。

mamanさん<<<

「翻訳物って」そうなんですよね。文化も風習も、当時の景色も映画の力を借りるとよくわかります。で。一応あるんです映画。流石にレンタルはないんですが、1000円くらいで手に入るDVDがあります。

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今、購入しようか否か考え中。こんなことをしていると本棚 ( ラック ) がたちまち満杯です (;^ω^)

 

それから、翻訳って、訳者によって全然変わりますね。

総じて昔の方のは読みにくい。本は古書 ( 初版に近い年代のもの ) で読むのが好きなんですが、翻訳に関しては回を重ねた新訳が読みやすいようです。