『めぐりあう時間たち』を観ました。
初めて観たのは、2ヶ月ほど前。
その後、映画のモチーフになった小説『ダロウェイ夫人』を読み、
映画の原作『The Hours めぐりあう時間たち~三人のダロウェイ夫人』を読み、
その後で、もう一度 映画を観直しました。
一度目よりも深く映画を楽しめたのは言うまでもなく、
二冊の本と映画との相乗効果でこの作品がもつ世界感を満喫しました。
三人のビッグスターの共演と、当時騒がれて、
美しいニコール・キッドマンが、特殊メイクで顔をガラリと変えて挑んだということに世間は驚いた。
知らなければ、スクリーンに映ったヴァージニア・ウルフが、ニコール・キッドマンだとは、
わからないでしょう。そのくらいに顔を変える理由があったのかどうか、私は微妙に思います。
が。。
アカデミー主演女優賞を獲得したのだから意味はあったんでしょう。
確かに、ニコール・キッドマンは凄かった。
鼻の付け根の部分から高くしたことにより、
睨みつけるような目つきに迫力が増し、作家の持つ集中力と狂気を感じました。
煙草を吸う手つきも上手い。
外国の大人の持ち方は 日本人の娘っ子と全然違う。
ニコール・キッドマンは、巧い女優ではないと思います。
メイクの助けを借りたことにより、心が弾けたのかも知れません。
とにかく、あとの2人の女優さんと全く異質な世界感を作り上げたことは確かです。
ジュリアン・ムーアが生きる1951年ロサンジェルスとも、
メリル・ストリープが生きる2001年ニューヨークとも違う世界感でした。
物語はとても複雑なつくりです
時代も場所も異なる、3人の女性のある一日が交錯させて《時》を描いています。
冒頭は『ダロウェイ夫人』の、
「ダウェイ夫人は言った、花は私が買ってくるわ」という名文句を彷彿させるシーンでした。
パン
パン
パンと
3人のヒロインがベッドに横になっているシーンも並べられている。
このオープニングクレジットロールが素晴らしい!
ここだけで、これから始まる3つの世界の期待度がマックスになる。
映画は原作にとても忠実に作られていると思いました。
セクション ( ヴァネッサ・ウルフの世界・ローラ・ブラウンの世界・クラリッサ・ヴォーンの世界 ) の並びは多分、原作通りでしょう。←それが重要。
初見 ( 2ヶ月前 ) では、気づかない工夫が二度目でわかります。
本で、ヒロインの置かれた境遇が深く理解できると、違って感じられます。
女優たちがどんなところに工夫を凝らしているかも気づかされます。
メリル・ストリープは巧いなぁ
でも、私のお気に入りはジュリアン・ムーアです。
彼女の演技は淡々としています。
特別なことは何もしない、でもそれがかえって鬱屈された心境が表現されるのだから凄い。
この微笑だけで、心の奥底に夫や息子から多くのストレスを受けていることがわかります。
夫のダンは優しい男です。
自分の誕生日の朝、身重も妻を気遣って、自分で花を買いに行ったり。
でも夫のがさつさにローラは耐えられない。
妻の代わりに息子の朝食を作るダンがたてる物音に、ローラはストレスを感じている。
息子はとても傷つきやすい性分で、いつもローラの行動を目で追います。
はたから見たら何不自由ない暮らしにみえるけど、ローラの心は崩壊寸前。
死の誘惑にとりつかれた彼女は、息子を隣人に預けて、大量の薬瓶を持ってホテルに向かいます。
ホテルで自殺しようとする予感
息子は大泣き。
母が手の届かないところに行ってしまうのを察知したのかな・・・
ローラがホテルで「ダロウェイ夫人」を読みながら、
水没するイメージシーンは圧巻でした。
ヴァージニア・ウルフの入水のオマージュかな?
ヴァージニア ( ニコール・キッドマン ) の精神疾患への恐怖
それを支える夫レナード・ウルフも素敵でした。
ヴァージニア・ウルフの遺書は「世界一美しい遺書」と呼ばれているそうです。
スティーブ演ずるスティーヴン・ティレインはイングランドの俳優さん。
エド・ハリス ( クラリッサのリチャード ) や、
ジョン・ライリー ( ローラの旦那 ) とは違った雰囲気をかもし出してます。
クラリッサ ( メリル・ストリープ ) の介護相手への依存も凄まじい。
クラリッサのシーンでは、女性の欺瞞や嫉妬が見事に描かき出されています。
編集者クラリッサは、新しいパートナー--サリーとリッチなアパートで暮らしていて、
人工授精で産んだ娘も大人になり手がかからない。
専らの心配ごとは、エイズに冒された元恋人チャールズのこと。
死の淵をさまようチャールズを献身的に介護するクラリッサだけれど、
彼女の心にはぽっかりと大きな穴が空いたまま。
チャールズが文学賞を受賞する日に、クラリッサはパーティーを企画する。
これは「ダロウェイ夫人」とだぶるところです。
実はこの2001年ニューヨークのクラリッサのセクションは、
小説『ダロウェイ夫人』と合わせ鏡になっているのです。
クラリッサは、ダロウェイ夫人と同じ名前だし、
パーティーを開こうとするのも同じ。
パーティーの準備中に、恋人が訪ねてくるというシーンも同じです。
( 訪ねてくる相手が、映画はリチャードの元恋人ルイス、
『ダロウェイ夫人』は夫人の元恋人であるという違いはありますが )
クラリッサ・ヴォーンは、ダロウェイとファーストネームが同じであることから、
チャールズから「ミセス・ダロウェイ」という愛称で呼ばれます。
パーティーの準備が整い、クラリッサはチャールズを向かいに行きます。
チャールズの様子がおかしい。錯乱を起こしているみたい。
リチャード演ずるエド・ハリスも凄い!
そして。
クラリッサの目の前でリチャードは投身自殺する。
「君のために生きて来た。でももう行かせてくれないか」という言葉を残して。
クラリッサ・ヴォーンは、パートナーにも娘にも恵まれ、リッチな生活を送っている。
けれど彼女は不幸な女性です。
満ち足りない心をいやすようにクラリッサは、リチャードとの関係を誇示しまくります。
「彼を面倒みているのは私」
「彼のためにパーティーを開くのも私」
「彼のことを一番理解しているのも私」という風に。。。
彼女の自慢は、リチャードの小説の主人公が自分だということ。
それにまつわるシーンが3回ありました。
花屋の店主に「あの小説の主人公、あなたでしょ」と言われ、
「ええ、まあね」とまんざらでもない顔をする。
パーティーの準備中に訪ねてくるリチャードの元恋人ルイスから
「彼の本読んだよ」と言われ「あら やだわ」と返す。
でもその後に、
「 ( あの本の中で ) ひとつだけ気に入らないことがあるの。あなたのことが少ないわ」と言う皮肉は忘れない。
ルイスはリチャードを取られた恋敵なので敵をうっているかのようでした。
パーティーの夜、訪ねてきたリチャードの母とも、その話題になりました。
小説の中で母親が殺されていることについて、
ローラは「もちろん傷つかなかったといったら嘘になるけれど、理由はわかります」と言う。
クラリッサは「幼い彼を捨てたからでしょう」と静かに責めます。
とにかく。
クラリッサは愛に飢えていて、看護を理由にリチャードに依存して生きています。
彼女の行動や言動は、欺瞞に満ちているけれど、
頑張れば頑張るほど認めてもらえない可哀そうな女性なのです。
クラリッサとリチャードの関係性を見ていて、あることに気づきました。
リチャードとクラリッサの関係性と、ローラと息子 ( リチャード ) の関係性は似ていることに。
リチャードもローラも、相手から見つめられることにストレスを感じていたんです。
そのことにリチャードは気づいた。
今、自分がされていることは、かつて自分が母親に対してしてきたことなんだと。
つまり。
リチャードは、母は死にたがっていたことがわかった。
それが理解できたから、
自分の小説の中で、母親を殺してあげたのではないかと。
彼が肌身離さず持っていた写真はクラリッサでもルイスでもなく、
母親の写真でした。
死にたいのに、死なせてくれない今の生活は、彼にとって地獄だったでしょう。
だから最後にクラリッサにこう言ったのではないかしら。
「君のために生きて来た。でももう行かせてくれないか」
実は、原作にはこの台詞はありません。
もっと淡々としたものでした。
「きみのこと、愛しているよ。陳腐な言いぐさかな?」
「いいえ」
リチャードは微笑む。頭を振る。
彼は言う「ぼくたちほど幸せなふたりって、いなかったんじゃないかな」
この方がリアルかも知れないです。
そしてこの方だと、クラリッサに対しての優しさで終わっています。
映画の台詞も、決して原作を壊しているワケではありません。
映画監督が、原作をどう受け止め、どう膨らませるかは自由です。
勿論ぶっ壊しすぎて怒られることもあるでしょうが。。。
こうした映画と小説の違いは、二つの感動を味合わせてくれるから面白い、と私は思います。
それにしてもリチャードと母親の関係は悲し過ぎます。
以上にように筋道だててこの映画を観いみると、
ローラの放った言葉の意味も、私には違って聞こえてきます。
ローラ「小説も読みました
皆さんが息子の小説は難解だと
なぜ 小説の中で息子は私を死なせたのか
とても傷つきましたけど、理由はわかるんです」
誰もそうとは思わないかも知れないが、ローラは気づいたんじゃないかな。
息子が小説の中で自分を葬ってくれたのは《憎しみ》からではなく
《憐憫》や《同情》ではなかったのかと。
おまけの話
それにしても、、、、アメリカのバースデーケーキって、どうしてあんなに毒々しいのでしょう。
あの色、どうしても美味しそうに思えないのは私だけでしょうか。
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トマトは串切りにして、全部混ぜ混ぜするだけ。
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