garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

三角寛とサンカ小説について

 

先日、2012年の過去記事「雑司が谷を歩く 2 料亭 “寛” 」をアップしたのがキッカケで、

三角寛という人物とサンカについて知りたくなりました。

   ※ 以下、大変長いです。

     興味なき方は、どうぞスルーしてください。

 

まず借り出したのはこんなところ。

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図書館には、三角寛自身の本が驚くほど少ない。←渋谷だからか?

流行作家だったというのに、彼の小説は入手困難。

読み捨てられてしまった感がある。

 

三角寛をWikipediaで調べると、、

料亭 “ 寛 ” は、昭和初期の人気作家、三角寛の家でした。

三角寛という人物をWikipediaでみてみると、こんなことがわかりました。

 

  • 朝日新聞社に(非正規採用で)入社し、サツ回り担当記者となる
  • 戦前、多くのサンカ小説を書き、売れっ子作家となる
  • 戦中、皇国薬草研究所を創立し、サンカに伝わる薬草を軍に売る
  • 戦後は娯楽が儲かると判断し、映写機を手に入れ、映画館を経営する
  • 「サンカ社会の研究」という学士論文で東洋大学から文学博士の学位を取得する
  • 日本大学法学部卒業と自称

 

色々な顔を持つ人物ですが、特筆すべきは《サンカ作家》《サンカ研究者》の二つの顔。

 

学位まで取得しサンカ研究者として不動の地位を確立した 、、、と言われていますが、

そこに至るまでには結構乱暴もしたようです。

他の人がサンカを言及・研究すると激しく抗議したりして、サンカ研究を独占しました。

しかし亡くなった後、多くの研究者によって虚偽であるということが証明され、

三角によるサンカ資料は、三角自身による創作と見るのが適当」とされてしまいました。

 

とにかく調べてみると、かなりややこしい人だったみたい。

実娘、三浦寛子さんは『父・三角寛-サンカ小説家の素顔』という本を出されいますが、

婿養子 ( 寛子さんの夫 ) 三浦大四郎氏は、著作権継承者として三角の全集の再刊になかなか許可を出さなかったのだそうです。

その辺のいきさつは「サンカの真実 三角寛の虚構」p.37ページにありました。

サンカの真実 三角寛の虚構 (文春新書)

サンカの真実 三角寛の虚構 (文春新書)

  • 作者:筒井 功
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/10/20
  • メディア: 新書

著作権継承者の危惧

現代書館版全十五巻のうち、とくに『サンカ社会の研究』と『サンカの社会資料編』の再刊について、三角の著作権継承者である娘婿の三浦大四郎から、なかなか許可が得られなかったようだ。

三浦自身が両者の信ぴょう性に強い疑念を抱いていたからである。三浦は前者の末尾「復刊にあたって」で次のように記している。

本著『サンカ社会の研究』は、どう読まれるべきなのか。

 三角寛のごく身内で約二十年間、密着して生活してきた私にしてみれば、学術書としては、いささか首をかしげるような記述もあり、といって、サンカを研究するためには、他に文献がほとんどないに等しいので、本書を何らかの手がかりとして考察を加えざるを得ない、という意見もわからないではない。

 私が危惧するのは、本書が、将来、古典的学術書として、独立してひとり歩きを始めてしまうのではないか、という点である。

 活字は恐ろしい。いまだに活字信仰は、潜在的に存在しているのではなかろうか。活字の力によって、本書に書かれた中身が、すべて学問的真実である、と受けとめられてようものだろうか。

これは、ちょっと異様な文章といえないだろうか。なぜなら、遠まわしな表現ながら、ほかならぬ著作権継承者が、その著作の価値を否定していると受け取れるからである。おそらく三浦には、そう書くしかない理由と事情があったに違いない。

 

サンカ小説と、学術としてのサンカは切り離して考えよう

仮に、学術的には虚偽だとしても、小説は創作で構わないワケです。

人気あったというのだからきっと魅力はあるのでしょう。

創作小説と思って何冊か読んでみることにします。

 

といっても、三角寛の小説本は入手困難。

図書館にもないし ( 渋谷区だけか? ) 、古書で購入するにしても ( 希少だから ) 高い。 

借りてきた中の「味噌大学」というのは、 サンカの本ではありませんでしたが、

「サンカ外伝 血煙旅日記」は、サンカ小説でした。

サンカ外伝: 血煙旅日記 (河出文庫)

サンカ外伝: 血煙旅日記 (河出文庫)

  • 作者:三角 寛
  • 発売日: 2014/12/08
  • メディア: 文庫
 

小説の内容をお話しする前に、まずサンカについて説明が必要でした。

サンカっていうのは、←これも分類や定義は諸説ありますが 

漂白徒歩の生活をしている無籍の民で、

主な生業は、箕を作り、笊を編み、筅を削り、茶筅を売り歩いたりしている。

 

箕 ( み )                  簓 ( ささら ) 

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三角さんによると、サンカ社会には独特の厳しい掟があったようです。

どんな掟かっていうと、例えば

  • 離婚してはいけない
  • サンカから抜けるには、うんと上のクラスの親分の許しがないとダメ
  • サンカ社会の内情は秘密 ( 普通の生活者に話しちゃいけない) 

などなどなど。

まるで忍びの掟みたいです。

 

また、三角さんによると、サンカには独特の言葉 ( 隠語 ) が沢山ある。

例えば、 (はたむら) 親分(やぞう) 女房(きゃはん) 夫婦(ちゃずき) 安心(やなぎむし) 三窩(なでし) 山刀(うめがい)

三角さんのサンカ小説には、ルビ付きのこんな言葉がポンポン出てくるんですが、

それが妙に癖になる響きで、文体にテンポが出るんです。

 

小説の内容は、サンカ社会の男女の話が多くて、例えば、

親分に決められた相手と結婚した男が、どうしても妻が好きになれなくて、

バレたら殺されるのは承知の上で、掟をやぶって浮気する。

でも「だったら妻を殺めてしまえ」ということになり、、、みたいな話。

切ったり殺したりが多くて、いかがわしいくて、結構ドロドロとした内容です。

 

当時の単行本の表紙を見てもらえると雰囲気がわかるかも、、、

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私が読んだ作品には、性的描写はありませんでしたが、

当時の読者は、こんな挿絵にドキドキ、ハラハラしたんじゃないかしら。

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もし興味があるようでしたら、

「サンカ外伝: 血煙旅日記」あたりを一冊読めばいいかも知れません。

これは三角寛の当時の小説が4~5作おさめられた本です。 

サンカ外伝: 血煙旅日記 (河出文庫)

サンカ外伝: 血煙旅日記 (河出文庫)

  • 作者:三角 寛
  • 発売日: 2014/12/08
  • メディア: 文庫
 

 

一応、サンカ小説も数作読んでみて、当時流行るのも理解できました。

でも、現在に通じるレベルや内容ではなく、やはり昭和の大衆文学です。

もっと他のも読み続けたいとは思えませんでした。

そう思い至る理由は 「いま、三角寛サンカ小説を読む」のアンケート回答でもわかります。

いま、三角寛サンカ小説を読む
 

この本は、復刻版「三角寛サンカ選集」を刊行した現代書館という出版社が出したもので、「~選集」につけたアンケートの回答結果が転載されていました。

その回答が実に興味深いのです。

質問内容はこんな感じ

 

  Q. 三角寛のサンカ小説を初めて読んだのはいつ?

  Q. どんなところにひかれた?

  Q. サンカ小説の世界は作り話だと思うか?

  Q. 実際にサンカを見たことがあるか?

 

それに対して、印象的な回答をまとめると、、、

  • 実話だと思っているという人が結構多かった
  • 実際にサンカを見たという人がかなりいた
  • 「異質の世界に魅かれた」「一般社会人とはかけ離れた世界の自由、妖美と組織の規律、夫婦性の美、子女の教育などの当時の日本の社会性とは逆なのが受けたのだと思う」という意見が多数を占めていた
  • 「当時は他に読むものがなかった」とか「兄 ( または父 ) が持っていたので読んで叱られた」なんていう人もいた

 

三角サンカ小説が売れたのは、昭和初期という時代のお蔭かも。

図書館も今ほど充実はしていなくて、知識階級層以外の人は貸本屋を理由するのが主だったろうし、

出版される本の量も今より少なかったのではないでしょうか。

《娯楽も少なく》《読むことに飢えていた》ところに、現実社会とかけはなれた生活をおくるサンカの物語は魅力的にうつり、それがヒットにつながったのではと推察します。 

とにかく売れに売れたらしい

戦前は、サンカ小説の三角寛といえば大衆作家として超売れっ子だった。

しかし終戦後 出版業界が下火になると、三角さんは映画館を作り、

サンカの論文を書いて学士号まで取った。

だが追随を許さない三角寛は、後続のサンカ研究者を叩いて叩いて叩きまくる。

 

そのひとつがこのエピソードです。

福田蘭童剽窃事件

1957年 ( 昭和32 ) 随筆家の福田蘭童が「ダイナマイトを喰う山窩」という本を書いた。

その本に、関東箕製作者大会代表・大山五郎と サンカ研究科・三角寛が烈しく抗議した。

大山の抗議の主旨は二つ。

ひとつは、本の内容が事実無根だから取り消せ。

ふたつめは、福田が「山窩言葉」を勝手に使用してるのが許せない。

大山曰く「それらの言葉の秘密はわれわれ ( サンカ ) と三角先生のもので、25年前に、先生とわれわれが『思川密約』を結んでからのちに、すべて三角先生に依って発表されたのが元です」との由。

思川密約とは、三角寛が大山五郎ら17人の武蔵サンカの「頭株」と会見した際、両者の間で結ばれた「秘密盟約」で、17名の頭株は三角に対して「セブリ用語200、代用語300」の公表を承諾したんだそうな。

 

「それ以外の人は使っちゃダメって言えるのかなぁ」と思ったら、ここからがまた笑える。

三角寛は福田蘭童を「著作権侵害」で訴えたんです。

提訴理由は「自分が創造したサンカ言葉を盗用した

認めちゃってるんですよ、《サンカ言葉は自分が創造した》と。

詳しい言い分はこうです⤵

「いわゆるサンカ言葉は私 ( 三角寛 ) が、すでに死んだ言葉を復元したり、くずれた言葉を直したもので、中には新しく作った言葉がサンカ仲間に逆輸入されている場合もある。いわば独創的な創作言葉で、それを福田氏は無断で五十か所にわたり、三十語盗用しているのは著作権侵害である」

ううーん、凄い強引!

この騒動をキッカケに、皆「めんどくせー」「触らぬ神にたたりなし」と引いちゃった。

こんな乱暴なことが、結構まかり通っちゃったようです。

 

他の人よりサンカとの関わりは深かった?

しかし、サンカと三角寛の間には深いつながりがあるのは間違いないようです。

ただし、色々な疑惑もある。

例えば、三角寛はサンカたちに経済的な世話をしたから、サンカは三角の言うことを聞いたとか、

「思川密約」そのものも、三角自身が自らの利権を主張するために創作したんじゃないかとか、

大山五郎の要請書なるものも三角の代筆ではないかとか、そんな風に疑う人も沢山いたようです。

 

 

現在の研究者の方々の見解 

三角寛のことを真っ向から否定し、急先鋒に立っていらっしゃるのは筒井功さんではないでしょうか。←まだまだ浅い知識ですみませんが。

筒井さんは自著で、三角寛の写真の偽造や、記録の嘘を具体的にひとつひとつ追求していらっしゃいます。

 

その筒井さんが「サンカの真実 三角寛の虚構」の序文でこんなことを書かれています。

周知のように、『サンカ社会の研究』に代表される三角の論稿については、かなり早い時期から信憑性に疑念が示されていた。虚構、作為がまじっているのではないかというのである。そのような指摘は、すこぶる多い。実にさまざまな見地から、おかしいとの声が出ている。

 

しかし一方で、これに対する反論も、また根強いものがある。つくりごとが含まれているかもしれないが、それはしかるべき理由があってのことで、報告のおおかたは事実だとする立場である。

 

この食い違いになかなか決着がつかないのは、双方とも、きちんとした証拠、証言を提示できていないためである。ごく部分的な例外をのぞいて、それぞれの常識や瀑たる印象、十分な論拠のない思い込みにもとづいて評価を下しているからである。

その結果、三角否定論と擁護論が、お互い背を向け合ったまま書きっぱなし、言いっぱなしの状態が続いている。

  

すごくわかりやすく、すこぶる納得してしまいました。

今でも、結論が出ていないのなら、この先三角寛に対する賛否を問うのもどんどん難しくなるのではないでしょうか。

何故なら、証拠を出すにしてもサンカ自体がどんどん少なくなっていくだろうから。

 

 

サンカ研究が《書きっぱなし、言いっぱなしの状態》というフレーズにちょっと考えさせられました。

Wikipediaについてです。

何か調べようと思った時に、私はまずwikiでどのように書かれているかを見てしまいます。

しかしそれに頼り過ぎるのは大変危険な要素もはらんでいます。

何故ならWikipediaは、名をあげて責任編集されてものじゃない。

誰でも勝手に書いていいもので、修正も勝手にしていいものです。

 

ということは。。。。

三角寛のWikipediaの記載ひとつとっても、擁護派と否定派で、

どんどん書き替えられている最中なのかも知れません。

ネットの情報にしてもWikipediaにしても、それを鵜呑みにすると大変なことになる。

出典元をキチンと調べたり、自身で本を読んだりして知識を得ることの重要性を

もう一度考えてみないといけないかもと思いました。

まあ、そんなことをしても主観のいうものはありますから、何冊読んでも

どちらかに寄った考え方をしてしまうのでしょうけれど、ね。

 

 

 



とじ込みは、三窩血笑記の出版物の備忘録です⤵

 

山窩血笑記 大日本雄弁会講談社 1937年 ( 昭和12年 ) 

 

山窩血笑記 金鈴書房版 1949年 ( 昭和24年 ) 

山窩血笑記(三角寛) / ととら堂 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」

 

山窩血笑記 東都書房版 1956年 ( 昭和31年 ) 初版

山窩血笑記(山窩綺談)(三角寛) / 黒崎書店 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」

 

山窩血笑記 日本文芸社新書版 1964年 ( 昭和39年 ) 初版

山窩血笑記(三角寛 著) / 光国家書店 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」

 

三角寛全集 2 山窩物語 山窩血笑記 母念寺出版 1970年 ( 昭和45年 ) 

三角寛全集 2 山窩物語山窩血笑記(三角寛著) / 古ほんや 板澤書房 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」

 

三角寛サンカ選集10 山窩血笑記 現代書館版 2005年 ( 平成17年 ) 

三角寛サンカ選集 第10巻 山窩血笑記 (三角 寛) / 岡本書店 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」