garadanikki

日々のことつれづれ 駄目駄目さんのガラクタ日記

小説 ペーパーボーイ

 

ヴィンズ・ヴォーター著 『ペーパーボーイ』を読みました。

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吃音に悩む11歳の少年が、親友の代打として1ヵ月の新聞配達員をやることにより、

これまで交流のなかった大人とのコミュニケーションを通し成長していくという、ひと夏のお話です。

 

 

主人公は吃音症で人と話すことが苦手な少年です。

吃音といっても種類がいつくかあるようで、私が知っていたのは「か、か、からす」というように

最初の音を繰り返すものだったけど、少年のはちょっと違う、

「・・・・っか、らす」というように最初の音が出ないケースの吃音症でした。

 

少年はPやB、Nで始まる言葉に苦手意識を持っています。

そのため《苦手》と思う音から始まる言葉を回避するため、

友だちを (自分が発音できる ) ニックネームで呼んだり、

練習(プラクティス)の代わりに稽古(リハーサル)と、言葉を置き変えたりしてきました。

 

僕のおかしなしゃべり方はアニメに出てくるブタみたいな出だしの音をくりかえすやつでしゃない。

つっかえて出なくなった言葉を無理やり口から押しだそうとするだけだ。

ちょっとがんばれば言えることもある。

でも顔が真っ赤になって息が苦しくなり頭の中で渦巻がぐるぐる回り出すこともある。

そうなるとほかの言葉を思いつくかそのままがんばりつづけるしかない。

 

 

少年には、ラットという親友がいます。

( これも少年がそう呼ばせてもらってるだけ、本名はアートといいます )

ラットが1ヶ月おじいさんの農場に行きたいというので、ラットのバイト ( 新聞配達 ) を代わってあげることにしました。剛速球のピッチャーである少年にとって、新聞を遠くに投げるなんてお手の物。

 

ほら、映画なんかであるでしょう?

アメリカの新聞配達の少年が家のポーチまで新聞を投げる、アレです。

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配達だけなら難なく出来る作業です。でも問題は集金です。

「ペーパーボーイですが、集金にきました」という頭のPが言えるかどうかが目下の悩み。

意を決して業務に挑んだ彼は、今まで交流のなかった近所の大人とコミュニケーションをとることになります。

 

少年の住む町には色んな人がいました。

居間でテレビにかじりついてばかりいる少年や、町をうろつく廃品回収の男、R・T。

配達先の年上の女性 ( ワージントンさん ) にほのかな恋心を抱いたり、

哲学的な知識人のおじさん ( スピロさん ) との出会いもめくるめくものでした。

 

スピロさんは、少年が吃音症だとわかると、親身になって接してくれました。

彼が言葉を発するまで、気長に待ってくれました。

今迄そんな風にしてくれたのは、ラットや両親やマームくらいだったから、

少年はスピロさんとの知的なお喋りが楽しみになりました。

 

マームというのは、少年の家にいる黒人の住み込みのメイドで、少年の一番の理解者です。

彼女の名前はミセス・ネリーと言いますが、マーム ( 女性に対する丁寧な呼びかけの言葉 ) と呼ぶのが精いっぱいな少年に、それでかまわないと言ってくれた人です。

 

 

 

この本は、両親のこと、配達先でのエピソードが、11歳の男の子の目線でつづられていて、

特にスピロさんとの問答は感動的なんですが、私はマームとのエピソードに強く強く引かれました。

少年は黒人メイドのマームを通して、黒人差別の問題に強い疑問を感じていたのです。

 

少年の生まれたメンフィス、1959年のアメリカ南部

アメリカの人種差別の代表的な例として知られるのはジム・クロウ法です。

ジム・クロウ法は、1870年代から1964年の公民権法が制定されるまで続いた黒人分離の州法ですが、

アメリカ南部のテネシー州メンフィスも、当時は差別意識の高い町でした。

 

どんな差別があったかというと 

  • 黒人はバスの後ろの席に座らなくてはいけなかったり
  • 動物園も水曜日にしか入園できなかったり
  • 学校も黒人・白人は別々だったり

 

「そんなのおかしいよ」と少年が言うと、マームは黒人としての立場で応えます。

その会話が、とても心にしみます。 

マームがだれに殴られたのか本人の口から聞き出せないかと思ってぼくは帰りのバスの中で自分を傷つけた人に腹をたてるのは罪なのかときいてみた。

でもマームは、復讐心はだれの役にもたたない という話をするばかりだった。

 

すると前からマームにきいてみようと思っていた質問を思い出した。

答えの半分は知っているけれどそれでは理屈が通らない。

「sss……どうして、sss……マームは、sss……バスの後ろの席に、sss……すわらなきゃならないの?」

 

ぼくと一緒ならバスの運転手さんはマームを前の席にすわらせてくれるのは知っているけど

それはもっと理屈が通らない。

「sss……おかしな規則だよ」

「規則は規則だからね。

 変えなくていいとは言わないけど変わるまで守るのが一番なのさ」

 

子どもは規則を守る大人と、すべてがうまくいくようにとりはからってくれる神様をうやまうことになっているのは わかっているけど、どっちもあんまりいい仕事をしていないんじゃないかという気がしてならない。

p.180

ぼくはもうマームがつれていってくれるようになった最初のころほど、

動物園に行きたいとは思わない。

でもマームが今も動物園好きなのは知っていた。

 

マームは水曜の午後は、白い制服を着てぼくと一緒に門を入れば、ただで入園できる。

マームはぼくみたいに好きな日に動物園に行くことができない。

これも大人が作ったばからしい規則だ。

p.182

バスを待っている時にぼくはズバリきいてみた。

「なぜマームは、sss……好きな時に、sss……動物園に行けないの?」

「あたしたちを二人ひと組にしときたいんだろうね。

 それにあたしはリトル・マン ( 少年のこと ) と行くのが好きだし」

「sss……マームは、sss……それでもいいと思ってる?」

「いいとか悪いとか考える立場じゃないもの」

「sss……頭に、sss……こない?」

 

どうやら答えにくいことをきいてしまったらしい。

マームがなかなか答えを思いつけずにいたので、ぼくは助け舟を出した。

 

「ぼくは、sss……ほかの子が、sss……こんなしゃべり方しか、sss……できないからって、

 sss……ぼくのことを笑ったら、sss……頭にくるよ」

「頭にきたらいいことがあるのかい?」

「sss……ううん。sss……でも自分じゃとめられないもの」

p.183

 

これらの会話から、

少年が社会のしくみやオカシイと思う問題点を、彼なりに深く深く考えていることがわかります。

そして少年が、人を思いやる心に満ちた優しい人間であることもわかります。

 

そしてマームの答えに、私は打ちのめされました。

「頭にきていいことがあるかい?」

「規則は規則、変わるまで守るのが一番なのさ」

理不尽だと重々わかっていても、社会の風潮や習慣と、うまく折り合いをつけて生きていかなければならないのが当時の黒人というものだった。

 

 

スピロさんは少年にとって、知識欲や向上心を高めてくれる大切な人となりました。

しかしもう1人、少年の感受性や優しい心を育んでくれる大切な存在がマームだったのです。

 

 

「知恵遅れ」と言われるより「蛇みたい」って言われるほうがましだ。

主人公の少年は頭の悪い子ではなく、むしろ頭脳明晰、飛び級まで果たしています。

色々なことに好奇心と疑問を持ち、自分で考えていく力を持っている彼は、

どもることさえなければ、同年代の誰よりも多くのことを語り合いたい子だったでしょう。

その情熱を彼はタイプライターにぶつけました。

 

この本は実話で、少年は作家自身なのだそうです。

少年は、知性と好奇心と情熱をもって文筆家となりました。

吃音を抱えながらでも、国内外で高い評価、偉大な功績を残している人はたくさんいます。

文学者や作家もいますが意外なことに、言葉を使う職業で大成した人も多い。

歌手や俳優やアナウンサー

俳優や落語家や歌手として大成した人の中には、吃音を克服するためにその道に入った人がいます。

吃音克服のためにあえてアナウンサーになった人 ( 小川ひろしさん、小倉智昭さん )

「芝居なら吃音が出ない」とわかり、女優への道を進むことを決意した人 ( 秋野暢子さん )

吃音を克服しようと落語の世界に入った人 ( 三遊亭 圓歌さん

 

以上はごく一部、海外のトップの俳優でも子供の頃、吃音症だったという人が沢山いらっしゃいました。

http://www.sawayaka-cunsl.com/diagnosis/yumeijin.html

 

以下は、当時を物語る写真です。 

  

 

 

最後に

この本を知るキッカケを下さったのは、きょうこ (id:kyokoippoppo) さんでした。

kyokoippoppo.hatenablog.com

きょうこさんは、明快で端的な言葉で、この本を魅力的に紹介されています。

特に物語の一番の核となるスピロさんとのシーンは、沢山抜粋されていますから、

是非とも読んでいただきたいと思います。

 

 

 

本日の朝ごはん

最近の朝ごはんは、3回に1回はこれだな、、、、釜玉。

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